24話 依頼の達成
登場人物の番号と種族
14209番(主人公)
14210番(狐獣人)
11054番(女エルフ)
13882番(人間・少女)
07241番(熊獣人)
08511番(女竜人)
地下室の床に、巨大ネズミの首が転がった。
女竜人の大剣が断った断面からは、毒々しいほどに鮮やかな赤色の血液が溢れ出している。
地下室を静寂が支配した。全員が、他に潜んでいる魔物がいないか、死角を殺して周囲を警戒する。
「……ふぅ」
熊獣人が深く息を吐き、ようやく肩の力を抜いた。それに合わせるように、皆もそれぞれ武器を収め、警戒を解いていく。
「『アルビノ・グナッシャー・ラット』の増援は無し。これで依頼完了かしらね?」
女エルフが周囲を見回しながら、短弓を背中に戻す。
俺も細剣を鞘に戻そうとしたが、右腕が石のように固まって動かない。
「14209番、また腕が……?」
狐獣人が俺の右腕を掴み、素早く袖を捲り上げた。ゴブリンの時ほどではないが、やはり血管が赤黒く浮き出て、ドクドクと脈動している。
「調律のおかげか……前よりはマシみたいだ」
狐獣人が、俺の硬直した指を解くようにして柄を取り上げると、その瞬間に凄まじい激痛が走った。
「──────っっ!? ぐ、おぉぉっ……!」
細剣の柄から伸びた「管」が、肉の奥からズルズルと引き抜かれる異物感。
「14209番!?」
女竜人が駆け寄り、手首の傷を抑えて止血を試みる。穴から鮮血が流れ出すのと同時に、右腕の異常な熱と脈動が急速に引いていった。止血を終える頃には、見た目は元通りになり、痛みも消えていた。
人心地ついた俺は、ようやく辺りをゆっくりと見回した。戦闘中はそれどころではなかったのだ。
(こんなに広い地下室、何に使っていたんだろうな……)
そんなことを考えながら視線を動かしていた、その時。ある「塊」が目に留まった。
「あれは……巨大ネズミが食べていた……?」
「14209番、あれは見ちゃ駄目です」
近寄ろうとする俺の肩を、苦虫を噛み潰したような顔の狐獣人が制止した。
「え?……」
視線の先、ブロンドの毛に覆われた「何か」が、最初は長毛種の動物の死骸に見えていた。だが、近づくにつれてそのシルエットは残酷なほど明瞭になった。
「人の……首……」
俺が声を出すより先に、少女が震える声を絞り出した。
そう、巨大ネズミが貪り食っていたのは、避難し損ねた、あるいは残ることを選んだ住民だった。
首から下の服装から女性であることは分かるが、腕も脚も、胴体の一部までもが食い荒らされ、元の容姿を想像することすら困難な「肉塊」へと成り果てていた。
「っ! ヴォエぇぇぇ……!! おぇぇっ!!」
俺は地下室の隅へ駆け込み、胃の中のものを全てぶちまけた。
ゴブリンの時は吐く余裕すら無かったのか。凄まじい吐き気が込み上げ、胃液しか出なくなっても、涙と鼻水が止まらない。
壁に背を預けて座り込み、霞む視線を向ければ、そこには地獄が広がっていた。
(あそこにあるのは子供の手か。……あっちは飼い犬か猫か。向こうの大人の男性は……斧を持ってる。退治しようとして、返り討ちに遭ったんだな)
老若男女、さらには動物まで。あらゆる命が食い散らかされていた。
「避難民の忠告を聞かずに、ここに住み続けていたんだろうな……」
熊獣人が俺に近づき、「大丈夫か?」と大きな手を差し伸べてくれた。その手を借りて、俺はフラフラと立ち上がった。その時、床の一部が不自然に崩れていることに気づく。
「07241番、あそこを見てくれ。床に穴が空いてないか?」
「本当だな。……地下道か。詳しく調べるにしても、一度地上へ戻って報告が先だな」
熊獣人は俺に肩を貸したまま、他のメンバーを呼んだ。
「14209番が床の穴に気づいた。これを調査するかどうかは別として、まずは依頼達成を伝えに行こう。穴は簡易的に塞いでおく」
皆が頷く中、少女だけが伏し目がちに、散乱する遺体を見つめていた。
「13882番。……あの人たちを、埋葬してあげたいんだな?」
俺の言葉に、少女はハッとして、それから小さく頷いた。
「ここにそのまま置いていくのは、あまりにも……。せめて、外に出してあげたいです……」
「気持ちは分かる。だが、これだけの遺体を探し出し、一つ一つ埋葬するのにどれだけの時間がかかると思う?」
熊獣人の厳しいがもっともな指摘に、少女は言葉を詰まらせ、俯いた。
「……俺の国のやり方でいいなら、少しは早く済むかもしれない」
俺が助け舟を出すと、女竜人が不思議そうに首を傾げた。
「14209番の国のやり方? 土に埋めるより早いのか?」
「火で燃やすんだ。『火葬』っていう。薪を積み上げて遺骸を燃やし、残った骨を埋める」
その提案に、メンバーはしばらく沈黙した。最終的に、兵士のエリクに相談してから決めることになった。
「14210番。先に地上へ戻って、エリクさんにこの状況を伝えてくれないか?」
「分かりました」
狐獣人は短く答え、風のように階段を駆け上がっていった。
「07241番、08511番。もし埋葬が許可されたら……人間以外も、可能な限り外に出してやってくれないか?」
俺の願いに、熊獣人は「やれやれ」と肩を竦め、女竜人は優しく笑って「任せとけ」と応えた。
俺と少女は、力強い仲間たちの背中に感謝を告げると、支え合いながらゆっくりと地上への階段を登り始めた。
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