21話 ネズミの正体
登場人物の番号と種族
14209番(主人公)
14210番(狐獣人)
11054番(女エルフ)
13882番(人間・少女)
07241番(熊獣人)
08511番(女竜人)
門をくぐった俺たちの目に飛び込んできたのは、夕暮れに照らされた無人の街並みと、道に散らばる無数のゴミだった。
道の隅ではカラスに似た鳥がゴミを漁り、別の場所では、その鳥の死骸に頭を突っ込んでいるネズミの姿もある。
鼻をつくのは、重苦しく立ち込める腐敗臭だ。
「……こりゃあ、ひでぇな」
熊獣人が鼻を抑えながら低く呟く。女竜人はともかく、嗅覚の鋭い熊獣人や狐獣人にとって、この死臭は相当な苦痛だろう。その表情は一様に険しい。
「あの……他に人がいないか、探してみませんか?」
少女がククルから渡された魔石を腕輪に嵌めながら、控えめに提案した。
ちなみに彼女は魔石腕輪に対して「調律」を行っているため、武器は預けていない。俺の細剣も同様だ。ククル曰く、俺の細剣は「それ自体が魔力を帯び、通り道も完成されているため、これ以上弄りようがない」とのことだった。
俺は少女の提案を聞き、現状を天秤にかける。
(生存者がいれば状況を聞けるかもしれない。だが、もうすぐ日が落ちる。夜になってネズミが活発化したら、それこそ取り返しがつかなくなるな……)
全員が静まり返る中、女竜人が口を開いた。
「オレは先に進んで屋敷へ向かうべきと思う。理由は二つ。一つは、敵の本拠となる屋敷の規模と構造を早急に把握する必要があること。もう一つは、今が夕刻だということだ。この世界のネズミも夜行性なら、夜になれば手が付けられなくなるぞ」
「そうねぇ〜。13882番には申し訳ないけど、私も08511番に同意だわ」
女エルフの言葉に続き、狐獣人も頷く。
「確実に人が残っている確証がない以上、巨大ネズミの討伐を優先した方がいいと思います」
「……よし、決まりだ。13882番の考えも分かるが、まずは元凶を断とう。生存者の捜索はその後だ。いいか?」
熊獣人が少女に優しく微笑むと、彼女も「はい。ボクも、一応聞いてみただけですから……」と納得してくれた。
「避難民の男が『残っている奴がいるかもしれない』と言っていたからな。みんながそのことを忘れないためにも、今の発言は大事だったぞ」
熊獣人が大きな手で少女の頭をくしゃくしゃと撫でた。
「よし、なら巨大ネズミを仕留めた後、生存者の確認といこうか」
女竜人が気合を入れるように肩を回し、不敵な笑みを浮かべた。
─────────
到着した「屋敷」は、俺の想像を遥かに超える規模だった。
「でっけぇ……」
海外の高級住宅のような威容に、思わず見入ってしまう。
「そんなに驚くことか?」
熊獣人が鉄の門を開け、ギィィ……と軋む音を周囲に響かせながら尋ねてきた。
「ああ。こんな屋敷、実際に見るのは初めてなんだ」
「ふふ、14209番がどんな世界から来たのか気になるわねぇ〜」
女エルフが興味深げに言いながら、背中の小弓を構える。彼女の腰には、近接用のマチェットが二本、鋭い光を放っていた。
「……臭いますね。11054番、あたしと一緒に先を見に行きましょう」
狐獣人が短槍を手に取り、女エルフと目配せをする。二人は流れるような動きで先行し、屋敷の偵察へと向かった。
しばらくして戻ってきた二人から、地下への入口を見つけたとの報告が入った。
案内されたのは、屋敷の屋内ではなく、玄関扉から少し離れた庭の地面にある木製のハッチだった。扉を開けると、暗い地下へ続く階段が口を開けている。
「この階段の先から、変な魔力を感じるわ……」
「あたしの耳にも、妙な音が聞こえます」
二人の言葉に、全員の緊張が一段階跳ね上がった。熊獣人と女竜人を先頭に、俺たちは階段を降りる。
地下室はワイン蔵のようで、音のよく響く広々とした空間だった。
足元には果物の食べカスや、正体不明の骨が転がっている。奥へ進むにつれ、その「音」が鮮明に聞こえ始めた。
───ゴリ、ゴリ、ゴリ……。
───バキッ、グチャ、グチャ……。
何かが硬いものを噛み砕き、肉を貪る不快な咀嚼音。
薄暗い室内のさらに奥、毛むくじゃらの「塊」が何かに食らいついているのが見えた。
「すぅーーはぁー……、『灯りよ』!」
少女が深呼吸と共に魔法を唱える。眩い光が地下を照らした瞬間、塊が動きを止め、こちらを振り返りながら立ち上がった。
「…………ヂュウ」
巨大ネズミ。その表現は、もはや生易しいものだった。
顔こそネズミだが、目は血走ったように赤く、毛並みは不気味なほど真っ白。口元からは鋭い牙が覗いている。
何より異質なのは、その四肢だ。前足は人間のように筋肉質に発達し、五本の指には鋭い鉤爪が備わっている。後ろ足も同様で、全身に怒張した血管が浮き出ていた。
身長は、およそ160センチ。
狐獣人の世界で「ボス級」と言われたサイズ。それが目の前で立ち上がり、俺たちを「餌」として見定めていた。
俺は無意識のうちに、喉の奥で唾を飲み込んだ。
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