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Next Crown  作者: 夢見無終(ムッシュ)
23/30

第六話 ―その2―

 目覚めれば、朝だった。

「目が覚めたかい」

 アラレイはすでに着替えていた。アシェルは旅の装備のまま眠ってしまっていたようだが、その上から毛布がかけられている。

「修道長、私が毛布をとってしまったんじゃ……」

「バカお言いでないよ、そんなことをしたらアタシが風邪をひいてしまう。偶々、二枚あったんだよ」

 そう言ってニッと皺の深くなる笑顔を見せられて、アシェルは憑き物が落ちたように心が軽くなった。寝起きだったせいもあるだろう。

起き抜けのこの笑顔は、アシェルを一瞬で昔へと引き戻していた。しかし気分と自分の格好のアンバランスに頭がついていかず、アシェルは何も言えない。

「何をぼうっと呆けてるんだね。朝食の手伝いをしといで」

「で、でも…」

「なんにもしない子に食わせる飯はないね。それにアンタの分だけ別に用意するわけにもいかないだろう? 顔洗ってさっさと行っといで。ほら――!」

 パシンと尻を叩かれると反射的に飛び上がってしまう。

「………」

部屋を出て、アシェルはこめかみを親指でグリグリと押して溜息を吐いた。

(気まずさを感じる前に追い立てられてしまった……)

 それはアラレイによる気遣いなのだとわかってはいるが、さすがに昔のようにその勢いに乗せられることはできない。

(どの面下げてみんなに会えるのよ。旅のことを聞かれても、話すことなんてできないじゃない……)

 足取りが重くなっても勝手知ったる寺院。考え込みながらも自動的に最短の道を辿り……

「あ…」

「……え?」

 よりにもよって、そのとき頭に浮かんでいた顔と鉢合わせしてしまった。

「え……え?」

「えと…ラウナ、久しぶり……」

 しかし声をかけても応答がない。

 アシェルと同い年で、アシェルよりほんの少し背の高いラウナは、丸い目を大きく見開いてアシェルの真正面に立つ。

「え? え?」

「ラウナ…?」

 アシェルの髪を触り、ほっぺをつまみ、肩を叩き……何を確かめているのか? 

「ちょっと……寝ぼけてんの?」

「え、だって……え!? うそおぉーっ!!」

 ラウナが大声を出して、あっという間に人が集まってくる。

「何…?」

「あ、アシェル!」

「ホントに!? うそっ、ホントにアシェルだ!」

「え、アレが…!?」

 あっという間に四方八方が驚きと歓喜で沸きあがり……

「ちょ、ちょっとレジーメ……!」

 ラウナが小柄なレジーメにヨタヨタとすがりつく。

「何やってんのラウナ、いくらなんでもオーバーリアクションじゃ……」

「ア……ア……アシェルの薬指に…!」

「えっ…!?」

 レジーメのメガネの奥の瞳が閃く――。

「うわっ……アシェルが結婚指輪してる――!!」

「「「ええええっ!!!」」」

 噴火のような嬌声。それがざわめき……そしてどよめきに変わる…。

「ち、違う! これはそういうのじゃないからっ…!」

「――どう違うというのですか、アシェル・ミロー」

 落ち着いていながらも芯のある、よく通る声。誰もを静まり返らせてしまうその声の主とは、もちろんミラム寮長――あまりにもお約束のパターンだった。

「何かおかしいですか、アシェル・ミロー」

「あ…いいえ」

 今、笑っていたか?

「……ゴホン。とにかく、ここに出戻りというのは困ります。ここはそのような駆け込み寺ではないので」

 ミラムは至極真面目に言っているのだが、周囲からはクスクスと笑いが洩れてくる。というのも、ミラム自身に婚姻歴があるからだ。ミラムは三十過ぎ。美貌と気品に溢れる淑女だが、厳格さも半端でない。だらしない夫に妻の愛想が尽きたとか、生真面目な妻に夫がついていけなかったとか、独身の理由については様々なウワサが飛び交っていた。

「ほらほら、何やってるんだい。食事当番まで立ち止まってたら、いつまでたっても飯にありつけないよ」

 アラレイだ。

「修道長、これは……」

「ん?」

「……いえ」

 アラレイのトボケ顔でミラムは大体のことを察した。

「時間が押しています。当番はそれぞれの持ち場に戻りなさい。他の者も手伝うように!」

 ミラムの視線が刺さって、アシェルも作業の流れに飲まれていく……。

「――大地の恵みに感謝し、その恩恵をわが身に宿せる奇跡を全ての人々に―――」

 食卓はパンにスープにチーズ一欠けらと粗末ではあるが、アシェルの周りはごった返し、沸き立っていた。

「アシェルアシェル、その指輪もう一回見せて」

「髪伸ばしたら、結構印象変わるわよねぇ」

 で―――

「そこっ! 拝礼中に何を騒いでいるのです!」

「まあまあ、もう頂こうかい。スープも冷めちまう」

 ミラム寮長の雷が落ち、アラレイ修道長がなだめて終わる。いつものこと―――。

(そうだ。いつものこと、だった……)

 少し浮ついていた気分が急に沈んだ。

 ここは昔のままだ。全然変わらない。しかし今の自分は昔とは違う。もう………

「でさ、結局どうなったわけ?」

 来た―――。

「あ…と…」

「馬鹿ねぇ、そんなの決まってるじゃない。復讐を胸に誓って旅立ったアシェル―――しかしその途中に立ちはだかる苦難と試練の数々。それらを乗り越えた時、ふと傍らにいるパートナーとの間に愛が芽生えていることに気がついた……!」

「ラウナの妄想は聞いてない」

「多少の脚色は必要でしょ!」

 レジーメとラウナのやり取りも変わりない。二人でわいのわいのと、周囲を巻き込んでいくのだ。

 いつの間にやらアシェルを放って騒ぐ二人をよそに、ふと、その隣の娘と目が合った。

「あの…」

「あ――」

 昨日見た顔だ。

「あれ? 初めて会うんじゃないの?」

 目敏くラウナが気付く。

「この子はアシェルと入れ替わりで入ってきたヤーマ。大人しいけどいい子でね、家事とかものすごくできるし」

「ラウナと違ってものすごく役に立つし」

「レジーメ、そういう事は言わない! ねえヤーマ?」

「こら、離れろ」

 ヤーマにくっつくラウナをレジーメが引き剥がして押し返す。

「ヤーマは工房入りなのよ。私の弟子みたいなものね。あ、そうだ……あれ、どう? 私が作った銀の下着(クロース)

「あ……えーと……」

 アシェルが視線を逸らすと、レジーメのメガネの奥がピンと感づく。

「あー……売った?」

「いや、今も着てるけど……」

「ふうん……。後でメンテしてあげるから、工房に来て」

「うん、ありがと……」

「もう、何を辛気くさいしてんのよぉ! ほら、食べて食べて―――」

 ラウナが陽気に声を上げるが―――

「――そうですね、さっさと食べなさい」

 後ろから聞こえてくる声にビクッと動きが止まる。言わずもがな、ミラムだ。

「誰のせいで遅れていると思っているのです? 急いで食事を済ませて、作業に移りなさい!」




「んー……」

 サムギラグム寺院は、高山に構える尼寺である。

 俗世とは離れている割にかなりの規模をもつのだが、その理由は自立を促す寺院内の構造にある。

 大きく分ければ三つ。

外部に対して信仰を広め、法力による診療を行う報徳部。

食料を調達するための農事、そして調理を行う得食部。

外部から仕入れた布などを裁縫して服などを作る工作部。

つまり、寺院内で衣食住を満たすことが出来る。しかも作った物品は格安ながら町で販売して金銭に換えてしまうため、最低限の生活に困ることはない。元々は寺院に駆け込んできた娘や置き去りにされた子供の職業訓練のために考案されたものだったが、今ではすっかり寺院の特色として機能している。逆に寺院にその身を寄せるのであれば、誰もが何かしらの業務を行わなければならないのだ。

 その工作部の服飾工房の一室で、レジーメはひたすら唸っていた。

「むうぅ………アシェル、一つ聞くけど―――」

「……何?」

「どうすればここまでボロボロになるわけ……?」

 レジーメがアシェルの下着(クロース)を睨み、苦々しく顔を歪める。買い取った銀を銀糸に加工し、それを編みこんで法力で退魔処理(エンチャント)する――――もはや服飾の域を超えたれっきとした防具だ。その性能は高く評価され、王侯貴族が依頼に来るほどなのだ。

「銀糸で編まれた服は刃筋を受け止めて滑らせるから、よっぽどのことがないと切れないものなのよ」

「……前にも聞いた」

「だったらなんで――………いや、もういいわ。ちょっと服脱いで、サイズ測るから」

 言うが早いかアシェルの服を剥ぎ取ると、手早くメジャーを当てて寸法を取る。実家がテーラーだったこともあって、服をつくるのはレジーメが一番上手い。そして一番職人気質でもある。

 後ろに回ったレジーメはアシェルの髪を手早く巻き上げる。と、掌をアシェルの肩にぺたりと貼り付けた。

「ん…どうしたの?」

「いや……アシェル、前に比べて随分女らしくなった」

「は? どこが?」

「雰囲気かな……。何かあった?」

「…別に」

「そう…。まぁいいけど」

 レジーメは手を動かすのを再開する。

「それにしても………ホントにそれって彼氏からの指輪とかじゃないの?」

「しつこい。違うって」

「でも変わらず薬指(そこ)につけてるって事は、大事なものなんでしょ?」

「まあ…ね」

「――ハイ終わり」

 レジーメがぺちっとアシェルの背中を叩く。このあたりは修道長の影響か。

「あと、今まで着てた服出しといて。後でヤーマに繕ってもらうし……いや、いっそ新しいのを作っちゃうかな…」

「そういえばそのヤーマは? 姿が見えないけど」

「誰かさんのために一つ部屋を作ってもらってる。前みたいに私とラウナと一緒にできればいいんだけど、さすがにそうホイホイ配置換えするのはミラム女史が許さないし。かといって他の誰かがアンタと相部屋ってのは……ま、前例があるからね」

「そっか……」

「気にしないでいいわよ。今のアシェルを見たら昔の荒れてた時期を連想できないし。ただ……ワケありみたいだから、ちょっと様子見してる。私も含めてね」

「ごめん。勝手に出て行って勝手に戻ってきて、また迷惑かけてる……」

「いいわよ、ここはそういう人たちの集まりなんだから。助け合えればそれでチャラでしょ、狩猟係。ほら、さっさと行かないと全員分獲るの間に合わないわよ」

「なんかプレッシャーなんだけど……。それじゃ行ってくるわ。クロース、よろしくね」

 工房から出て行くアシェルを見送ったあと、レジーメは椅子に座って眉を顰めた。

 下着(クロース)には焼かれたような跡もある。こんな状態になるってことは、アシェルは本当に不死者と戦っていたの? でもおかしい……これだけの攻撃を受けてるのに、身体には傷跡らしいものがない。それどころか長旅で痩せててもおかしくないのに、寸法は以前と変わらず、肌なんかはスベスベして綺麗だった。………なんなの、この違和感は?)










 眠いです……最近休日は眠いです。普段睡眠時間足りてないかもしれません。なんかもう、何やっててもネムムです……で、油断すると風邪引くと。寒い時代になったと思わんか……いや季節のせいだし! 

 …寝ぼけているようです。今日はもう寝ます(苦笑)

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