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ニワトリだって恋をする  作者: のな
完結編
78/78

エピローグ ニワトリだって恋をする

 ざわざわとざわめくのは、かつてテレジアと戦ったあの広い大ホールだ。

 さすがに2年が過ぎたので戦いの跡はなく、部屋も綺麗に修繕されて戦いの前以上に美しくなっている。


 国王の誕生日を祝うこのパーティーは、国内の貴族が多く集まり、とりわけ今回は華々しい人々が集まって目の保養となっている。その代表はユリウスとラインヴァルトだ。


「目立ちますねぇ」


 すらりとした足を出すミニのドレス風衣装を身に着け、腰に剣を下げた女騎士、エマが、マリーと並んでユリウスとラインヴァルトに目をやる。


 本来ならば第五小隊の面々は外回りの警護をするのだが、今回はなぜかアストール国の宰相から突然の要請があり、第五小隊の一部がパーティーの警護に当たることになった。

 

 理由としては、ヴェンツェル対策ということだったが、その割にどこに配置しろだの、ドレスコードの指定など、宰相の注文が多く皆首を傾げたのだ。

 

「ユリウス様に客としてパーティーに潜入しろだなんて、オオカミの群れに子兎を放つようなものですよね」


 マリーがユリウスを目で追い、ちらちら視線をやり、ひそひそと会話する落ち着きない令嬢達の動きを睨む。


「ユリウス様は子兎ではないだろうけど…。アラン様もどういうおつもりかしら。ユリウス様のお嫁さん探しはやめたと思ったのに」


 エマは、チキを思って他に目を向けないユリウスにアランが再び業を煮やしたのかと、まだ会場に姿を現さないユリウスの父アランの姿を不安げに探す。

 だが、アランは国王が入場しても、あるべき場所に姿を現さず、騎士達がその不審さに浮足立った。


 無駄がなく、正確無比、時間は常にきちっと守り、自分にも他人にも容赦がない性格。だが、相手ができないからと容赦なく否定するのではなく、必ずできるレベルまで引き上げ、その上で失敗したときに容赦がない宰相。


 そんな彼が、いなくてはならないはずの国王の傍らにいない。

 これは何かあったと騎士達が裏で騒ぐ中、家に連絡を取ろうとしたユリウスを止める者があった。


「ユリウス、アラン殿は少し遅れる。連絡をし忘れていた。すまんな」


 金髪碧眼の太陽の神かと思えるような容姿の騎士団長ライルがユリウスに近づくと、周りの女性達からはさらに黄色い声が上がり、中には感極まって失神してしまうものまで出ている。 

 ライルはそんな彼女達ににっこりとほほ笑んでユリウスの腹を肘で付いた。


「少しは愛想よくできんのか。兄上の祝いの席だぞ」


「こういう顔ですので」


 仏頂面は昔からと答えるユリウスの少し背後、なぜかその場に立つよう指示されたラインヴァルトと視線があったライルは、会場の女性が喜びそうな見目麗しいものを集めたその配置に忍び笑いを漏らして前を向く。


 会場内では宰相の狙い通りに女性達がユリウス達の集まる一角ばかりに目を向けるので、恋の駆け引きを楽しみたい貴族の男達の嫉妬の視線もまた集まってくる。


(視線を集中させてるわけだ。アラン殿のやることは間違いないな…)


 ライルは口元に笑みを浮かべると、ユリウスの肩を叩いた。


「なんです」


「いや、べつに。私は兄上の元に戻るが、あぁ、そうそう、私と兄上から一言」


 騎士団長として国王の傍に護衛として張り付きに戻る途中で、わざとらしく立ち止まり、振り返ったライルは、その相好をにやにやと崩して告げた。


「婚約おめでとう」


「なん」


 何のことかと声を荒げそうになって口を閉じると、彼はさっさと国王の元へ行ってしまい、ユリウスは急いで踵を返した。


 もしかしたら、父がどこかの令嬢との婚約を勝手に取り付けたのかもしれない。

 今やユリウスは女性を脅えさせる呪いの解けた身だ。そうなると、どんなに突っぱねても、父が用意した女と婚約させられることは十分あり得ることだった。


「ラインヴァルト、すまないが私は抜けるとカイルに伝えてくれ、嫌な予感が」





「アラン・グレアム様、チキ・デルフォード様ご入場です!」






 大貴族や要人が入城する際に告げられる名に、会場から逃げ出し、家へ確認をとろうとしていたユリウスはぴたりと動きを止めた。


 会場内は、宰相アランが最愛の妻以外の女性をエスコートしていることにざわめき、視線を入り口へと向ける。

 もちろんユリウスも食い入るように入り口を見つめ、そして目を見張った。



 白いレースをふんだんに使った淡い紫の肩の出るドレスを身に纏い、身に着ける宝飾品は胸元のネックレスだけというシンプルな姿ながら、白い髪に、黒のメッシュが入った変わった色合いの髪をアップにし、ほんの少し化粧しただけでかなりの目を引く令嬢姿に変身したチキが、宰相アランの腕に手を乗せて現れたのだ。


「ほう・・・。アラン、今日はエスコートの相手が違うのだな」


 国王の声がざわめく会場に響き、アランは笑みを浮かべ、ユリウスをまっすぐに、どうだと言わんばかりに見つめた。


「こちらはデルフォード家のご令嬢で、この度我が愚息と婚約いたしましたチキと申します」


 その瞬間、今までユリウス達に視線を集めていた者達がその場所を正確にもう一度見直す。

 ユリウスは一気に視線を浴びることになった。


 ユリウスはやられたと舌打ちしたい気分だった。

 アランは行方不明のチキをどうにかして探し出したうえ、ユリウスに止めを刺すべく全て整えてこの場に現れたのだ。

 チキを利用するなと抗議したくてこぶしを握り、足早に父に近づいたユリウスは、そこで戸惑うチキがユリウスを見つけて花開くように微笑むのを見た瞬間、全てが吹き飛んでしまった。


「チキ…」


 腕を伸ばし、駆け寄るチキを腕に閉じ込めると、その存在を確かめる様に強く抱きしめる。

 国王はその姿に驚くが、すぐに笑った。


「令嬢達には可哀想だが、今宵は多くの男達が集まっておる。男達がどれほど慰めてやれるか、腕の見せ所だな」


 笑う国王に、男達はすぐさま反応し、女性達は気落ちしているところに巧みに話しかけられ、会場ではいつもの恋の駆け引きが始まった。


 チキはユリウスを見つめると、二人、その存在を確かめるように口づけをかわし…


「場所をわきまえんか!」


 アランに怒鳴られ、二人は笑ったのだった。


 その後、部屋を変えて、チキは第五小隊の隊長バーデ、ラインヴァルト、エマ、マリー、ログと再会し、ギルバートを見てあんぐりと口を開ける。


「つるっつるのピッカピカだね~。チキ、ここまで磨きがかかってる人初めて見たよ」


「…人の傷をえぐらないでくださいお嬢様」


 ガクリと項垂れるギルバートに笑い、そして、義父フランツと義祖父ロランが赤ん坊とニワトリを連れてやってくると、チキはぱぁっとほほ笑んだ。


「やっぱりユリウスがいてようやく孵ったね!」


「孫ですね」


 フランツが赤ん坊を抱きながら微笑み、ロランが頷く。


「もうひ孫とは…そういえば、アラン殿には報告したのか?」


 ロランの一言に、皆の再会をセッティングして部屋の片隅に立っていたアランを見た全員は、初めて氷の宰相が別の意味で凍りついた姿を見たのだった。





__________________


 時は流れて…さらに数年後


「タキ様、チキ様を見ませんでしたか? ようやく最近動けるようになったので様子を見に来たのですが…」


 懐妊と共に騎士団をやめたチキとエマは、マリーに女騎士団を任せ、現在はそれぞれの夫の屋敷にて過ごしていた。

 エマはしばらく体調が悪かったのだが、ようやく落ち着いてきて心配をかけたチキに会いに来たのだ。


 ユリウスの屋敷の花咲き乱れる中庭にて、ふんわりとした金糸の髪に一部黒いメッシュの入った利発そうな青年が振り返り、お腹の大きな姿のエマを見上げて苦笑いを浮かべる。


「ついさっき父が帰ってきて拉致されていったよ。今頃二人で湯あみ中だと思う」


「かー様の嘘つきっ」

 

 エマは答えてくれたチキの息子で、魔法生物の血が濃いタキの陰に隠れていた少年を見つけ、あらあらと声を上げる。


「かーさま、ぼくとお散歩するはずだったのに…とー様嫌いっっ」


 チキの二男で、白い髪の幼い少年ルイがぐずぐずと涙をこぼしている。

 自分にも身に覚えがあるからか、兄であるタキは弟に優しい。


「あれは父様のお役目だから仕方ないよ。じゃないと母様が弱ってしまうからね。ほら、ヘンナと一緒に散歩しよう」


「コケッ」


 白い体に尾が黒のニワトリがてけてけと現れ、三人の前に立つ。


「お久しぶりですヘンナ様。最近恋をされたとチキ様にお聞きしましたよ」


 エマがヘンナにほほ笑みかけると、ニワトリは照れたようにお尻を振る。


「コケッ」


 そんな姿にルイがきょとんとし、不思議そうに告げた。


「ニワトリは恋なんかしないよぉ」


「あら」


「ルイ…」


「コ~」


 べしん!


 エマ、タキ、ヘンナが憐みの表情で幼いルイを見た瞬間、どこからともなくニワトリのぬいぐるみが飛んできてルイにミラクルヒットした。

 ルイはそのままぼてっと転んで大泣きし、どこからともなく響く声と、エマ、タキの声が重なる。


「「「ニワトリだって恋をする!」よ」んです」


 ヘンナはルイの頭に乗っかると、バサッと翼を広げて


「コケコッコ~!」


 一鳴きしたのだった。


「タキ」の名前はターキーから…

チキがつけました。

ルイは「ニワトリ」になりかけたのをユリウスが阻止。


ニワトリはここで完結です。

最後までありがとうございました!

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