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『アルストラーナ伝奇』  作者: リアトト
『ノクス・アテルナ』帝国歴323年
73/140

『永遠の別れを告げる』

「ハハハッ、息子だと? 己の野心のために血を分けた者を盤上の駒としか思っていなかった女が、よくぞ言えたものだ!」

イスファの高笑いが大極殿の重々しい空気を切り裂き、殿内に虚しく響き渡る。その言葉が終わるや否や、ロザリアの手に握られた槍が紫の疾風と化して突き出された。対するイスファも紫炎を纏う長剣を片手で軽々と振り抜き、正面からまっすぐに受け止める。

閃光とともに耳腔を打ち破るほどの金属音が炸裂し、目に見えるほどの凄まじい衝撃波が同心円状に広がった。壁際に並ぶ豪華な調度品や調度品を飾る壺が、一瞬にして粉々に砕け散り、微塵となって舞い散る。

二人の肉体が纏う邪悪な紫のオーラは膨れ上がり、互いの威圧感が激突するたびに、大極殿を支える極太の石柱に太い亀裂が走り、天井からパラパラと土塵が降り注いだ。すでに人間としての領域を超越した二人の打ち合いは、もはや洗練された剣技などではなく、空間そのものを破壊する破滅の災厄そのものであった。

「……いまのうち! 殿下!!」

崩れ落ちる瓦礫の合間を縫い、リゼリアが駆け寄るとイリアードに向けて手を翳かざした。彼女たちの異能の力を押し込めていた不可視の結界が、霧が晴れるように消失していた。

冷たい床に伏し、激しい胸の痛みに耐えていた大元帥は息を吹き返した。娘のシンシアも無事であったが、ルネッタは間に合わなかった。セシリアは動かなくなった妹を抱き抱え、涙を流している。そこへ、リアムとココロギに抱えられたルシアが運ばれてきた。セシリアは一瞬にして妹と愛娘の二人を失い、喉を詰まらせるような二重の悲しみに耐えねばならなかった。

緊迫する空気の中、リアムが腹の底からの雄叫びを上げて戦場へと斬り込んで行く。イリアードもまた、息を吹き返した身体を起こし、再び『黄金の獅子剣』の柄を強く握りしめて立ち上がった。


◇

「懲りもせずにまた来たのか?」

互いに槍と剣を交え、血みどろの殺し合いを演じていたはずのロザリアが、ぬっと首だけをこちらへ向けた。その紫の瞳は完全に濁りきり、まるで爬虫類のように瞳孔が縦に裂けている。

ロザリアが咆哮とともに大きく槍を振り抜くと、イスファの身体を遥か後方へ吹き飛ばすと同時に、迫りくるイリアードの剣戟を受け止めた。リアムが聖剣アウレリウスを高く振り上げる。空中で体勢を立て直したイスファは、猛獣のように爪を尖らせた左手を突き出し、狂気の笑みを浮かべて肉迫してきた。

リアムの聖剣が、真っ直ぐに狂気の従兄を捉える。 その刃には、もはや一切の迷いも躊躇もなかった。

「グアアアッ!?」

イスファの断末魔のような悲鳴が大極殿に響き、その身体は壁の奥深くへとめり込むように吹き飛んでいく。

それと同時に、倒れたはずのロザリアが狂気と執念に満ちた笑い声を上げ、禍々しい紫の炎を全身に纏ってイリアードへ躍りかかった。刃と刃がぶつかり合う凄絶な火花と、イリアードの雄叫びが交錯する中、イスファを仕留めたリアムが疾風のごとく加勢に入った。

父と息子——二人の剣が同時に、狂気の皇后の胸を深く貫いた。

「ぐはっっ!!」

ロザリアは大量の血反吐を床に撒き散らし、がくりと膝をついた。そのまま見開かれた瞳に光を失い、絶命した。

◇

イリアードは静かに剣を鞘へと収め、セシリアとココロギに抱かれたルシアの元へと力なく歩み寄った。

血と硝煙の匂いが充満する静寂の中で、彼は両膝を床につき、言葉にならない涙を静かに流した。十七年もの間、かけがえのない愛情を注ぎ続けた娘と、永遠の別れを告げなければならなかった。



【登場人物一覧】


主要人物


ルシア・フォン・セレスティア(ルシア)

セレスティア親王イリアードと側室セシリアの娘(17歳)。圧倒的な異能(空間跳躍・攻撃・癒やしなど)と神の域に達した武芸の持ち主。義賊『六棘の霜華』や『真理の光教団』の巫女『ルナ』として暗躍し、物語終盤で帝都の結界を破るために命を落とすも、のちに皇女「シェルランテ」として転生・復活を果たす。


ヴィオ

ルシアに付き従う同い年の忠実な侍女(17歳)。紫の瞳と黒髪を持ち、長柄の仕込み錫杖(細身の長剣+金属鞘)を操る両手生殺の凄腕の使い手。


ココロギ・サイリュン(ココロギ / 崔心木 / 四つ葉様)15歳

教皇ゲンドラスとリヴィエール遠戚の女性の間に生まれた娘で、後宮の『四つ葉堂』の巫女。リヴィエール一族の異能(空間跳躍や護符・神秘札の生成)を持つが、当初は暴走・失敗ばかりしていた。後に成長し、異能を完全に掌握して大水没の危機を救う。


シェルランテ・フォン・アルストラーナ(白鷺姫)

皇太子リアムと皇太子妃シルヴィアの間に生まれた皇女。生まれた直後から強力な念動・念力を発散させ、ルシアの生まれ変わり(転生)としての記憶と意図を秘めている。


【アルヴェリア親王家・リヴィエール一族】


イリアード・フォン・セレスティア

アルヴェリア親王であり、オーレリア帝国の「軍神」と称される総大将(のちに第15代皇帝に即位)。親バカな一面があり、娘のルシアや孫のシェルランテを狂愛している。


セシリア・リヴィエール

イリアードの側室でルシアの母(貴妃)。リヴィエールの血を引き、念話や念動、無から植物・花々を生み出す能力を持つ。


リゼリア・リヴィエール

イリアードの正妃(皇后)。念話、念視、予知の異能を司る。


フレデリカ・リヴィエール

大一族リヴィエールの長老で、イリアードの母(皇太后)。


リアム・フォン・セレスティア

イリアードと正妃リゼリアの息子でルシアの異母兄(のちに皇太子)。アルストラーナ皇帝ベグ・バールを捕縛する功績を挙げ、聖剣アウレリウスを授かる。


シンシア・フォン・セレスティア

イリアードと正妃リゼリアの次女。異能を持たない「普通の女の子」として育ち、後宮でココロギの元へ通う。 


ベルトト

セシリアの側近であり、熟練の女官長(侍女)。


【オーレリア帝国皇室】


アラリック

アルストラーナ帝国第14代皇帝でイリアードの異母兄。


シルヴィア・フォン・アルストラーナ

アラリックの第6皇女で、リアムの正妻(皇太子妃)。シェルランテの母。


ロザリア

アラリックの皇后。紫の異能(黒山羊結社・天信教の暗黒の力)に侵され狂気に陥る。


イスファ

アラリックと徳妃ルネッタの間に生まれた第4皇子。紫の異能に支配され惨劇を引き起こす。


ルネッタ

帝都の翡翠宮にいる徳妃で、セシリアの実妹。


イスマ

アラリックの皇太子で、異能に狂ったイスファに殺害される。


【聖ゲンドラス教国・真理の光教団】


ゲンドラス・サイリュン(崔厳)

『真理の光教団』の教祖であり『聖ゲンドラス教国』の教皇(ココロギの父)。ルシアの下僕として表面上の統治を行う。


ヴォルフラム

アンチアルマ大聖堂の枢機卿。元・吟遊詩人かつ凄腕の剣士。


ジル・オテ(ジルグード)

元オテゲン皇国第4王子。ルシアに敗れた後、改心させられて聖ゲンドラス教国の司教となる。


カシアン・ヴァロア

かつての大遠征に失敗した元宦官で、幼いルシアの手配によりシューコルン司教・オクタヴィア大聖堂司教を歴任。


【バール朝・グラッデェ帝国】


エスゲイ・バール

中央高原を支配する隻眼の覇王。ルシアによって暗殺される。


ベグ・バール

エスゲイの次男で、バール朝グラッデェ帝国の皇帝。大軍を率いてアルストラーナへ侵攻するが、ルシアとリアムに捕縛される。


カサル

エスゲイの弟で大将軍。北方の脅威に対抗するため領地を焦土化する暴挙を行うが、ヴィオに首を討たれる。


カルヴァル

古都ラーナの天信教総主教。ルシアによって権威を失墜させられ降伏する。


【ディヌイヤ王国】


ボロ・ディヌイヤ

南南海の覇者・ディヌイヤ王国国王。ルシアと旧知の仲であり密約を結ぶ。 


ビー・スー

ディヌイヤから随行した丸盾使いの青年で、ディヌイヤ・ラーナ公国の司教。ココロギの協力者。


【敵対組織(天信教・黒山羊結社)】


アルノルト

天信教の老総主教。虚無の終焉と「救世主の死」を望み、禍々しい禁忌の術式を行う。


アルカディアス

帝国の影で暗躍する『黒山羊結社』の頂点であり、天信教の真の黒幕である初老の男。


用語集一覧


【組織・勢力】


六棘の霜華(ろっきょくのそうか)

背中、左胸、右肩に「六つの尖角を持つ雪と霜の結晶」を刺繍したフード付きローブを纏う、神出鬼没の義賊。ルシアとヴィオの仮の姿。


四つ葉のクローバー(真理の光教団 / 聖ゲンドラス教国)

聖ゲンドラス教国および真理の光教団のシンボル。ルシアが真の支配者として率いる組織の象徴。


バール朝グラッデェ帝国

騎馬民族グラッデェの征服者ベグ・バールが打ち立てた帝国。


黒山羊結社くろやまぎけっしゃ

三つの目を持つ黒山羊の銀紋章を掲げ、帝国の影で古代の「原始の力」や呪詛を用いて暗躍する狂信的な秘密組織。


【地名・都市】


ラーナ(古都ラーナ)

古代文明の発祥地でありアルストラーナ帝国の首都。中央に皇帝の居城である壮麗な「白亜宮」が聳え立つ。


アクア・パレス(ルシア宮 / 蓮花宮 )

フロスト・ヴァイス城。

水の都にあるセレスティア親王家の美しき宮殿群。


聖都クリスタルヘイム

聖ゲンドラス教国の首都。ディヴァイン湖と霊峰セイクリッド山の麓に碁盤の目状に築かれた超巨大都市。


ガザルカガンド

中央高原におけるグラッデェ遊牧民族の本拠地・交易都市。ガザルカガンド会戦により陥落・焼亡する。


アシュウェスト

大運河とアシュロン川が交差する物流・交易の要衝。裏社会の「五大商人」が牛耳っており、水底にはかつて大洪水で沈められた旧大聖堂が眠る。


アルヴェリア

かつて未曽有の水害・大洪水によって沈み、長年不毛の湿地帯となっていた禁忌の地。 


【武器・アイテム・特殊設定】


短錫杖 / 長柄の錫杖(仕込み剣)

ルシアとヴィオが携える武器。短錫杖は金環がついた打撃用法具。長柄の錫杖は柄を捻ると長剣が抜け、柄と石突き部分が強固な鞘となる両手生殺の仕込み杖。


聖剣アウレリウス

オーレリア皇帝直属の伝説的な名剣。真の英雄としてリアムに授与される。


黄金の獅子剣

大元帥イリアードが携える大刀。真の力を解放すると眩い黄金の闘気を噴出させる。


神秘札・護符

ココロギやルシアが異能の力でその場で作る紙片。受け取った者の悩みを解決する注意書きや治癒・保護の奇跡をもたらす。


リヴィエールの血(異能)

リヴィエール一族に発現する超常の力。瞬間移動(空間跳躍)、念動、念視、予知、治癒、無からの生成(念創)など多岐にわたる。 


紫炎石(しえんせき)

黒山羊結社が人工的に生み出した物質。強力な結界の展開や他者への精神憑依を可能にする。


心木(こころぎ)

『真理の光教団』の教義において、世界や生命の魂をつなぎ止め、心(感情・意思)を巡らせる大樹・世界樹を指す言葉。












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