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『転生姫の華麗なる負けず嫌い』

アルストラーナ帝国の帝都ラーナ。

その中心に聳え立つ白亜宮の宮廷は、その年の瀬を迎えようという時期に、未曽有の大騒動に見舞われていた。

なんと、総勢九カ国――東のアジール半島に位置するラシル王国、東の島国たる聖ゲンドラス教国、南海のディヌイヤ王国、騎馬民族の精鋭たるグラッデェ同盟、エルサ・ルーメン共和国。ディヌイヤ・ラーナ公国、ジル・エルス教国、ノースフォレスト教国、そして最北の海賊部族連合体フィヨルド連合――それら錚々たる国々から、一斉に使者が白亜宮へと到着したのである。

各国からの使いが持ち込んだのは、帝国との国交請願、そしてただ一人の女性への婚姻の申し出であった。その対象こそ、セレスティア親王イリアードの娘であり、帝国大元帥の血を引く令嬢ルシアであった。

◇

「正気か……? ディヌイヤにフィヨルド連合、果ては東の聖ゲンドラス教国までだと!?」

玉座の間で書状を改めていた皇帝アラリックは、思わず額を押さえた。国際的な婚姻や国交の打診ともなれば、すべて皇帝たる彼を通さなければならない。一気に押し寄せた外交の波に、宮廷の大臣や貴族たちはてんてこ舞いの大混乱に陥っていた。

「大元帥殿! ルシア殿下はいったいなぜ?世界中で知られていらっしゃるのだ!?」

貴族たちがざわめく中、当の父親であるセレスティア親王イリアードは、険しい表情で娘のルシアを自邸の執務室へと呼び出した。

「ルシア、説明してもらおう。九国からの求婚など、前代未聞だ。お前は陰で何をした?」

イリアードの詰問に対し、ルシアは極秘裏に務める聖ゲンドラス教国の聖騎士団長として、また『真理の光教団』の巫女『ルナ』として暗躍してきた冷徹さを微塵も見せず、優雅に紅茶を口に含んだ。

「お父様、大騒ぎなさるほどの事ではありませんわ。あの求婚は……すべてお断りいたします。ルシアはずっとお父様の元にいたいです」

「何……!? 全部断るだと!?」

イリアードは目を白黒させた。

「九国からの国交請願と婚姻だぞ! 断るにしても、相応の外交的理由と手続きが必要なのだ!」 そう言いながらも、愛娘を溺愛する父親は腕組みをした。


「だがな……父のそばに居たいなら仕方ないな」


◇

ルシアの澄ました顔の裏には、誰にも言えない秘密の感情が渦巻いていた。

(……だって、悔しかったのですもの!)

ルシアは思い返していた。先日の、兄リアムと第6皇女シルビア殿下の華々しい結婚式を。大聖堂で輝くシルビアの姿、周囲からの温かい祝福、そして新婦として帝国中の注目を集めた美しさ。兄の幸せは微笑ましかったものの、心のどこかでプライドの高いルシアの何かがくすぶっていたのだ。

(私だって、あのシルビア殿下以上に凄くて、世界に影響力を持つ特別な女性なのです……! それを帝国中に知らしめてやらなければ、気が済みませんわ!)

その対抗心と自尊心から、ルシアは自身が巫女『ルナ』や聖騎士団長として裏から影響力を及ぼせる各国の首脳陣に対し、「アルストラーナ帝国へ使者を送り、『セレスティア親王令嬢のルシア』へ求婚の申し出を立てよ」と極秘裏に命令を下していたのである。その結果が、この帝都を揺るがす大狂騒であった。


◇

事情を知る由もないアルストラーナ宮廷では、皇帝アラリックと大臣たちが連日徹夜で外交的対処に追われていた。

「ルシア本人が断るとしても、九国もの好意と申し出をただ無下に突っぱねては、諸外国との関係にヒビが入りかねん!」 「左様でございます! これほどの好機、外交的観点からも何らかの形で婚姻関係を結び、結びつきを強化するのが妥当でありましょう!」

宮廷の決断は早かった。大臣の家族や優秀な親族、さらには皇帝アラリックの娘たち(皇女たち)までもが動員され、九国からの使節団との縁談が矢継ぎ早に取りまとめられていったのである。

「ルシア殿下の代わりに、我が家の娘をディヌイヤの貴族へ……」 「皇帝殿下の皇女様がラシル王国へ嫁がれることに!」

蓋を開けてみれば、ルシアの個人的なプライドから始まった大騒動は、オーレリア帝国にとって未曽有の大外交成果となり、数々の新たな婚姻と同盟を生み出す結果となったのである。

自室の窓から、次々と縁談が決まり賑わう帝都の街並みを見下ろしながら、ルシアはふっと息を漏らした。

「ふふ……まあ、帝国が潤ったのですから、良しとしましょう。私がどれほど『凄い女性』か、これで少しは分かったかしら、シルビア殿下?」

誇らしげに微笑むルシアの姿に、侍女のヴィオとココロギは呆れて俯き、母セシリアや親王妃リゼリアは温かく見守るのだった。こうして、帝都オクタヴィアのその年最後の大騒ぎは、帝国の繁栄という思わぬ幕引きを迎えたのであった。


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