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『鮮やかな紺碧に染まって』


帝都ラーナの空は、雲ひとつない鮮やかな紺碧に染まっていた。高層の壮麗な建築群を見下ろすように聳え立つ中央大聖堂の双塔が、朝陽を浴びて黄金色の輝きを放っている。この日、帝国全土の祝福を集めた歴史的な婚姻の儀が執り行われようとしていた。

新郎はセレスティア親王イリアードの息子、リアム。そして新婦は第6皇女シルビア殿下。帝国の未来を担う二人の慶事に、大聖堂の周囲は早朝から多くの市民と貴族たちで埋め尽くされていた。


◇

控室の姿見の前で、リアムは深く息を吐き出した。刺繍が施された重厚な式典服の襟元を整えながら、手鏡に映る己の姿を見つめる。胸の奥で、微かな高鳴りが響いていた。

「緊張しているのか、リアム」

重厚な声とともに部屋に入ってきたのは、父であり帝国大元帥を務めるセレスティア親王イリアードであった。その傍らには、穏やかな微笑みを湛えた親王妃リゼリアと、しとやかな佇まいの側室セシリアの姿がある。

「父上……。緊張というよりは、身が引き締まる思いです。シルビア殿下を生涯守り抜くという誓いの重みを、いま改めて実感しております」

「ふっ、良き目だ」イリアードは力強く息子の肩を叩いた。「皇女殿下をお迎えするのだ。セレスティアの家の名を背負い、誇り高く立つのだぞ」

「ええ、とても素敵ですよ、リアム」リゼリアが温かな眼差しで言葉を添える。「シルビア殿下も、きっとあなたの晴れ姿に心打たれるでしょうね」

セシリアもまた、優しく頷きながら言った。「後宮におられるシンシアやルネッタ様も、きっと今日という日を心より祝福しておられますわ。立ち会えぬのは寂しいでしょうが、想いはこの大聖堂に届いているはずです」

後宮の徳妃ルネッタに侍女として仕える妹のシンシア、そして徳妃ルネッタ自身は、後宮の掟ゆえにこの盛大な儀式に直接参列することは叶わなかった。しかし、彼女たちが心を込めて贈ってくれた祝いの品と文は、今もリアムの胸元に大切に収められていた。


◇

長廊下に重厚なパイプオルガンの音色が響き渡り、大聖堂の扉が重々しく開かれた。高美なステンドグラスから差し込む七色の光が、白い大理石のバージンロードを華やかに彩る。

大聖堂の内陣には、重臣や各国からの使節が居並んでいた。その中に、極秘にて聖ゲンドラス教国の聖騎士団長を務め、同時に『真理の光教団』の巫女『ルナ』として暗躍してきたリアムの異母妹、ルシアの姿があった。

ルシアは表情を崩さぬまま、静かに柱の陰から聖堂内を見渡していた。西の超大国アルストラーナにおいて天信教の本拠地を打倒してきた彼女にとって、中央大聖堂の豪奢な建築や、眩い威容を誇る天信教の主教たちの姿を目にすることは、何とも複雑で胸を衝かれる思いであった。

(……天信教の聖堂、そして主教たち。アルストラーナで見てきた闇と、ここにある光の欺瞞……)

胸の内で小さく毒づくルシアであったが、すぐにその冷徹な思考を抑え込んだ。ここは父イリアードの治める帝国であり、大切な兄リアムの晴れ舞台である。ここで騒ぎを起こせば、家族に多大な迷惑と禍根を残すことになる。彼女は深くフードを目深にかぶり直し、殺気を完全に消し去って、一人の参列者として穏やかに佇んだ。

(今日だけは、ただの妹として……兄上の幸せを祈りましょう)


◇

聖堂の奥、祭壇の前で待つリアムのもとへ、静かに歩み寄る影があった。白銀の糸で繊細な刺繍が施された純白のウェディングドレスを身に纏い、ヴェール越しにも分かる気品と美しさを漂わせた第6皇女シルビアである。

彼女がリアムの隣に立ち、そっとヴェールが上げられると、息をのむほどの美しさが現れた。シルビアの頬は微かに紅潮し、その瞳にはリアムへの深い信頼と愛情が宿っていた。

「リアム様……」

「シルビア殿下。今日という日を迎えられたこと、心より感謝いたします」

大主教の壮厳な祝詞が聖堂内に響き渡る。神聖なる誓いの言葉が交わされ、二人は指輪を交わした。指輪の金色の光がステンドグラスの光彩と交じり合い、二人を包み込む。

「汝、いかなる時も互いを敬い、慈しみ、生涯を共にすると誓うか」

「誓います」

二人の声が重なり合い、大聖堂の天井高くへと吸い込まれていった。大主教の宣言とともに、パイプオルガンが一斉に歓喜の音色を奏で始め、参列者からの盛大な拍手が聖堂を揺らした。


◇

式を終え、大聖堂の階段へと歩み出たリアムとシルビアを、地鳴りのような民衆の歓声と、空を舞う色とりどりの花びらが迎えた。陽光の下、シルビアのドレスが眩しく輝き、リアムは力強く彼女の手を握り返した。

列席者の列の中に、父イリアードと母リゼリア、そしてセシリアが満足そうに微笑んでいる姿が見えた。少し離れた場所には、静かに笑みを浮かべて頷くルシアの姿もあった。後宮の深遠からこの空を見上げているであろうシンシアやルネッタの想いも、風に乗ってここへ届いているかのように感じられた。

「見事な景色ですわね、リアム様」

シルビアが優しく微笑みかけ、リアムの腕にそっと寄り添った。

「ああ。この光景を、そして君を、私は生涯忘れない。これから歩む未来を、共に築いていこう」

帝都オクタヴィアの澄み渡る大空に、二人を祝う鐘の音が響き渡っていた。


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