『真なる聖剣の所有者は』
壮麗なる白亜宮の大殿大広間には、千を超える燭台の光が揺らめき、整列した文武百官の威容を照らし出していた。
先のアンチアルマ会戦――アルストラーナ帝国の存亡を賭けた決戦において、帝国軍は東方の大帝国バール朝グラッデェが誇る五十万の大軍を完膚なきまでに打ち破った。大勝利の余韻が残る中、今まさに論功行賞の儀が執り行われようとしていた。
玉座の頂に不滅の威厳を纏って鎮座する皇帝アラリックの鋭い眼光が、赤絨毯の上に膝を突く親子へと向けられる。 全軍を指揮し見事な勝利を収めた総大将、セレスティア親王イリアード。そしてその傍らに控えるは、彼の息子であり、若干十六歳にして初陣を飾ったリアム・フォン・セレスティアであった。
「陛下へ謹んで申し上げます」 親王イリアードの重厚な声が大広間に響き渡る。 「今般の勝利は、ひとえに陛下の御威光と帝国兵たちの忠誠によるもの。我がセレスティア家はただ命に従い、課せられた責務を果たしたに過ぎませぬ」
皇帝アラリックは低く唸り、満足げに頷いた。 「控えめな言葉は不要だ、イリアード。五十万の敵を打ち砕いたお前の采配、真に見事であった。その功、帝国全土に刻むに足る」
アラリックの視線が、隣の若者へと移る。少年の面影を微かに残しながらも、その瞳には戦場を生き抜いた者特有の凛とした光が宿っていた。
「そして――リアムよ」
皇帝の声に、群臣が一斉に息をのんだ。広間全体が深い静寂に包まれる。
「十六の初陣。中央の混戦を切り裂き、敵本陣へと単騎突撃を敢行。果てはグラッデェ皇帝ベグ・バールをその手で捕縛してみせたという。……噂に違わぬ、いや、それを遥かに凌駕する狂瀾の如き武功ではないか」
敵国の皇帝を生け捕りにするなど、帝国の歴史上でも類を見ない大快挙であった。
――だが、実際は妹のルシアがベグ・バールを掌底一発で沈めたのが真相である。 遅れて到着したリアムは妹から「来るのが遅い」と散々叱責された挙句、気絶して瀕死のベグを縛り上げる雑用を命じられただけに過ぎない。 もちろん、これはセレスティア家における最重要機密事項であった。
「畏れ多きお言葉、身に余る光栄にございます、皇帝陛下」 リアムは澄んだ声で応えた。伏せた姿勢のまま、その言葉には一点の揺らぎもない。 「我らはただ、セレスティアの血と剣の誓いに従ったまでに過ぎません。敵帝ベグ・バールを生きて捕らえましたのは、我が帝国の覇道を全土に示す好機と存じたからにございます」
その若さからは想像もつかぬ不敵なまでの度量と理知。アラリック皇帝は一瞬驚きに眉をひそめたが、次の瞬間、大殿を揺るがすほどの高笑いを上げた。
「ハハハ! 素晴らしい! 武勇のみならず、帝国の威信までをも見据えての所業か! セレスティアの獅子は、真に恐ろしい仔を産み落としたものだ!」
皇帝は立ち上がり、羊皮紙の勅書を高く掲げた。
「聞き届けるがよい! 総大将イリアードには大元帥の称号と新たな領地を賜る! そしてリアム・フォン・セレスティア――その若き英雄には、帝国騎士団最年少の将軍職と、聖剣アウレリウスを授与する!」
「おおっ……!」
文武百官からどよめきと、嵐のような拍手が巻き起こった。 聖剣アウレリウス。それは皇帝直属の伝説的な武具であり、真の英雄にしか与えられない権威の象徴である。
「若き獅子よ、顔を上げよ」
アラリックの言葉に、リアムは静かに立ち上がった。その堂々たる佇まいは、あたかもすでに次なる戦雲を見据えているかのようであった。
帝都ラーナの空に、歓喜の鐘がいつまでも鳴り響いていた。




