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『アルストラーナ伝記』  作者: リアトト
帝国歴326年
137/148

『転生姫の東雲杓子(しののめじゃくし)』

シンシア達の連合艦隊の健闘も虚しく、

ブランガ艦隊によりシューコルンは占領された。 アルストラーナ、セレスティア、そして聖ゲンドラスによる連合艦隊は、シューコルン沖海戦においては辛うじて勝利を収めたと言える。しかし、その代償としてアルストラーナ艦隊のみが甚大な被害を受ける結果となった。

彼らがシューコルン奪還を断念した最大の理由は、上陸部隊を用意していなかったこと、そしてアルストラーナ帝国が前年に敗退したイメイルの奪還を優先したことにある。海の民と称されるゲンドラス海軍とて、単独でブランガに立ち向かえるはずもなく、撤退を受け入れるほかなかった。この連合艦隊は「寄せ集め」ゆえに足並みが揃わず決裂したわけではない。セレスティアは皇帝直属の軍隊であり、聖ゲンドラス教国もまた公表こそされていないものの、アルストラーナ帝国の実質的な属国であったからだ。失策の原因はひとえに、承認欲求に囚われて浮足立った皇帝の独断専行にあった。

シューコルン海戦と同じ頃。オーレリア皇帝イリアードは、久々の親征、イメイル遠征にすっかり夢中になっていた。太尉レイナルド・デル・ペーレも、今回ばかりは全軍権を委ねられるとあり、「俺たちならやれちゃうもんねー!」という幻聴すら聞こえてきそうな勢いで、鼻歌交じりにリュックに、バナナでも詰めていそうな浮かれようで、遠征の支度を進めていた。そして、そそくさと、二ヶ月にも及ぶ行軍へと飛び出していったのだった。イリアードは前年、息子の皇太子リアムに三十人もの側室を押し付け、「お前は酒色に溺れて留守番でもしていろ。父が凄まじい手柄を見せてやる!」と、口にこそ出さないものの、大げさで大人気ない表情を顔全体に浮かべていた。その幼稚な目論見は容易に想像がつく。歳を重ねてもなお美しい二人の妻の気を惹こうと、馬上で甘い妄想にふける皇帝イリアード。彼は数ヶ月後の誇らしげな帰還へと思いを馳せながら、行軍を続けるのだった。


◇

4月。四つ葉堂は大忙しである。后妃が30人増えると各宮なら仕える者もその3倍は多くなる。そして、新たな宮女見習いも採用されて賑わう、四つ葉堂のうさぎ達も抱かれて、撫でられ、抜け毛に悩んでいた。日頃は彼らに無関心の山羊が流石に同情するくらいである。皇孫女シェルランテはというと、翡翠宮に入り浸り、貴妃セシリアの奏でる古琴で舞を舞うのにハマっていた。ココロギが作って、ミタマが使っているクリスタルロッド『東雲煌竜(しののめこうりゅう)』を気に入って、同じ色に光るだけの棒を作ってもらった。

名前は『東雲杓子(しののめじゃくし)』である。

優美な旋律を奏でながら、愛らしい2歳児の舞を見て、セシリアが微笑んでいる。優雅さや雅を取り入れ始めた2歳児の優雅でも雅でもない姿が微笑ましいのであった。皇孫女が目線を送ってくる。

「とてもお上手ですよ。シェルランテ様」

シェルランテは褒められて満足な表情をしている。

この褒められたがりなのは、ルシアの父であり、シェルランテの祖父である皇帝イリアードに似たのかも知れない。そう思うとセシリアは笑顔が止まらないのであった。


 

用語解説


〇『東雲杓子しののめじゃくし』

シェルランテが『東雲煌竜しののめのこうりゅう』を見て、ココロギに作らせた、クリスタルロッド。幼女が好みそうな魔法少女遊びにぴったりな光るだけの水晶の棒であるが、

何か秘密がありそうである。

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