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『アルストラーナ伝記』  作者: リアトト
帝国歴325年
120/152

『古都の終焉と盟友の散華』

破竹の勢いは留まることを知らなかった。 ジル・エルス教国の防衛網を破り、エルス川を渡ったノースフォレスト教国軍は、黒煙の尾を引きながらさらに南へ進軍。目指すは、大陸で最も古く麗しい栄華を誇る『エルサ・ルーメン共和国』であった。ノースフォレスト軍の鉄砲隊が打ち鳴らす爆音と連射される鉛の雨は、旧時代的な繁栄に甘んじていた諸都市をまたたく間に呑み込んでいく。ブランガ・オデュヌの冷徹なる指揮のもと、進撃の足音はやがて、白い石造りの街並みと黄金の屋根が立ち並ぶ古都ラーナへと迫っていた。


◇

「——退くな! 聖なるラーナの地を、悪鬼の足で汚させるな!」

古都を囲む城壁の前で、アルストラーナが誇る白銀の『聖騎士団』が凄絶な奮戦を続けていた。 かつて大陸の文物の中心地として栄えたラーナは、いまや硝煙と血煙に包まれていた。輝く鎧を纏った聖騎士たちは、連射される火縄銃の鉄火と大砲の轟音の中、押し寄せるノースフォレストの怒濤を剣と盾で食い止めようと必死に刃を振るう。しかし、前世の記憶をもって戦術を革新したブランガの軍勢の前に、かつての栄光に縋る騎士たちの陣列は、一枚また一枚と剥がされるように削り取られていった。

やがて城門は打ち破られ、黒き兵の群れが古都の街並みへとなだれ込む。 城下街が赤々と燃え盛る中、最後まで静寂と神聖な気品を保ち続けていたのは、街の中心に聳え立つ『エルサ・ルーメン大聖堂』であった。


◇

大聖堂の荘厳な扉を開き、一歩を踏み入れさせたのはブランガ・オデュヌその人であった。 黒い胸甲に鮮血のような赤いマント。靴音が静謐な大理石の床に美しく反響する。

大聖堂の奥、美しく彩色されたステンドグラスから差し込む七色の光の柱の中に、一人の男が佇んでいた。 白と金で仕立てられた法衣を纏い、身の丈ほどもある重厚な金の装飾が施された身の丈ほどの錫杖を握りしめた男。その顔には幾重もの苦難を刻んだ刻印のような皺と、澄み渡るような気品が同居していた。

アルストラーナの信仰と精神の権威、枢機卿ヴォルフラム——齢四十五。

「……来たか、ブランガ」

ヴォルフラムの声は、硝煙の荒れ狂う外の世界とは切り離されたように穏やかで、そして深く響いた。 ブランガは足を止め、不敵な笑みを浮かべながら愛剣の柄に手をかける。

「久しいな、ヴォルフラム。四十五年もの月日が流れたか……いや、俺にとっては前世の死以来、二十二年ぶりの『再会』か」

ヴォルフラム——かつて三十五万の騎馬民族グラッデェの猛攻を前に、伝説の「黒い魔王」ブランガ・オデュヌと背中を合わせ、血の海の中で戦い抜いた唯一無二の盟友。 前世でブランガが命を落としたあの血戦の夜、ヴォルフラムは彼の亡骸を抱きかかえて涙を流した男であった。

「前世の戦火の果てに、お前がこのような形で蘇るとはな。あの頃の我が友ブランガは、民の明日を守るために牙を剥いた。だが今の求道者ブランガよ……汝が追うものは、ただの破壊と覇道か」

ヴォルフラムは黄金の錫杖を軽く突き立てた。コーンと、澄んだ金属音が大聖堂の天井へと吸い込まれていく。

「破滅へ向かう友を止めること。それこそが、生き残った我に遺された最後の使命と知れ」 「止めてみせよ、ヴォルフラム。お前のその錫杖が、俺の歩む覇道を超えるというのならば!」


◇

対話は終わりを告げた。 言葉の代わりに弾けたのは、二人の英雄による死闘の音であった。

ヴォルフラムが放つ錫杖の一撃は、四十五年培われた聖なる闘気と圧倒的な重量感を伴い、大理石の床を叩き割るほどの衝撃を巻き起こす。対するブランガは、前世と変わらぬ極限の身軽さと冷徹な鋭さで片刃の剣を走らせ、錫杖の隙を突いて死角から刃を滑り込ませる。

刃と錫杖が激突するたび、ステンドグラスを透過した七色の光の中で眩い火花が散った。 かつて背中を預け合い、数多の修羅場をくぐり抜けた二人は、互いの呼吸も、踏み込みの癖も、間合いの取り方も知り尽くしている。だからこそ、互いの攻撃はことごとく相殺され、肉体を削り合う凄惨な一騎打ちとなった。

血が舞い、白衣と黒甲冑が赤く染まっていく。 どれほどの時間が流れただろうか。息を乱さぬブランガに対し、ヴォルフラムの肩は激しく上下していた。四十五歳の肉体にはすでに数多の傷が刻まれ、膝が微かに震えている。

「ふっ……見事だ、ヴォルフラム。前世と変わらぬ、鉄の如き意志だな」 「……友よ。汝の瞳の奥に……まだあの頃の光が残っていると……信じたい」

ヴォルフラムは最後の力を振り絞り、両手で固く握った錫杖を高く掲げた。神聖な光が頭上に集い、渾身の力を込めた一撃が振り下ろされる。 ブランガはその一打を、あえて避けることなく剣の腹で受け止めた。激しい金属音が轟き、ブランガの足元の大理石が砕け散る。

しかし——ブランガの眼光は冷ややかに冴え渡っていた。

「さらばだ、我が友」

踏み込みの瞬間、ブランガは相手の懐へ滑り込み、重圧な錫杖の軌道を滑らかに受け流すと、一閃。片刃の剣がヴォルフラムの胴を深く切り裂いた。 衝撃の余波でヴォルフラムの手から黄金の錫杖が滑り落ち、甲高い音を立てて大理石の床を転がる。

「……ガハッ……!」

血を吐きながら倒れそうになるヴォルフラムの身体を、ブランガは静かに左腕で抱きとめた。 ステンドグラスから注ぐ光線の中、ヴォルフラムは血に染まった手でブランガの胸甲をかすかに掴み、穏やかな微笑みを浮かべた。

「ブランガ……この美しき古都と共に……我は去る……。だが覚えるがよい……光なき覇道に……救いは……」

言葉は途切れ、盟友の瞳から光が失われた。 四十五年の生涯を閉じ、エルサ・ルーメンを守り抜いて戦死した大枢機卿の亡骸を、ブランガは静かに大聖堂の祭壇の前へと横たえた。

「誇り高き友よ。安らかに眠れ。お前が愛したこの古都は、俺の新しい帝国の礎となる」

ブランガは赤く染まった剣の血を拭うと、振り返ることもなく大聖堂を後にした。 背後では、天信教の聖地エルサ・ルーメンが炎に包まれ、静かに崩れ落ちていく。

古都の陥落と枢機卿ヴォルフラムの散華により、エルサ・ルーメン共和国は実質的に崩壊。 死の淵から還りし覇王ブランガ・オデュヌの征服劇は、大陸全土を恐怖と眩いばかりの戦火で塗り替えていくのであった。

登場人物紹介


ヴォルフラム・フェイ

放浪の吟遊詩人であり、剣士として雅で自由な生活を送っていた。

帝国歴303年頃(22年前)

アルストラーナ帝国南東部の都市。

アスクアルブで異端児ブランガ・オデュヌに出会い、興味を持って行動を共にする。みるみるまに2人は帝国のレジスタンスとして独立勢力を拡大しながら北上を開始した。運悪く同じ頃、大陸中央で勃興し、大陸、中央と東側なの大半を傘下に入れた騎馬民族グラッデェがアルストラーナのアンチアルマに進行し、そこで鉢合わせしてしまう。以降、グラッデェとの対決となり、アルストラーナのイリアードの策略もあり、対消滅する形となった。覇王エスゲイ・バールとの死闘で命を落としたブランガ・オデュヌと別れたヴォルフラムは

帝国歴310年3月

セレスティア親王国の王女で4歳のルシアと出会い。『真理の光教団』の司教としてアンチアルマ大聖堂にて新たな人生をスタートした。その後、聖騎士団として大陸を駆け回り、エルサ・ルーメンを無血開城させてエルサ・ルーメン大聖堂にて枢機卿として君臨していた。早い段階で枢機卿というポジションになっているのでルシアからの期待と評価は高いものと思われる。またブランガ・オデュヌに認められた数少ない男である事も見逃せない。

ジル・オテやビー・スーの言葉を借りると、すべてにおいて高得点な男。

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