『星々の導き、光咲く夜に』
アルストラーナ帝国歴325年7月7日。聖ゲンドラス教国の首都、聖都クリスタルヘイムは、一年に一度の「七夕祭り」の熱気に包まれていた。
白銀の尖塔が連なる街並みには、澄み渡る夜空を映し出すように光を放つ巨大な短冊竹柵がそびえ立ち、広場の中央では赤ワインの噴水が優美な水煙を上げている。豪奢な食卓には見事なご馳走が並び、集まった人々は皆、微笑みを浮かべてグラスを傾けていた。前年の動乱や緊張が嘘のように、今年の空気は穏やかで、満ち足りた平和に満ちている。
だが、この日の祭典がこれほどまでに華やかである理由は、単なる星祭りだからではなかった。
それは、幼き二人の新たなる旅立ち――『ツルギ』と『ミタマ』の任命式が執り行われる日だったからである。
「……とても綺麗ですね、お母様」
澄んだ真珠のような声を漏らしたのは、ミタマであった。
その絹のように柔らかな髪を夜風に揺らしながら、彼女は広場に飾られた笹の葉と、そこに結ばれた色とりどりの短冊を見つめている。彼女に授けられた新たな名は『真理の光乙女リ・ルミエール』。その瞳には、世界の真理を見通すかのような静謐さと、幼子らしい無垢な好奇心が同居していた。
「ええ、本当に……。こんなにも穏やかな星空を、あなたたちと共に仰ぐことができるなんて」
言葉を返したのは、ふたりの母親であり『神託の聖母』と称されるセシリアだった。慈愛に満ちた手つきでミタマの頭を撫でる彼女の表情には、母としての深い安らぎと、過ぎ去った困難を乗り越えた者特有の優しさが滲んでいる。
「ミタマは呑気だな。俺は早くあの高台に行って、花火が上がるところを一番近くで見たいんだ」
そう言って胸を張ってみせたのは、双子の兄弟であるツルギだ。
背に差した儀礼用の小剣を誇らしげに揺らすその佇まいは、今日『明光の聖騎士』の称号を賜った者にふさわしく、勇猛で真っ直ぐだった。しかし、セシリアのスカートの裾をふと握りしめる小さな手には、隠しきれない年相応の甘えが見え隠れしている。
そんな親子の微笑ましい姿を、祖父である教皇ゲンドラス・サイリュンは静かな眼差しで見守っていた。
集まった市民たちの歓声が響き渡る中、祭典のハイライトである任命式が始まった。
荘厳なパイプオルガンの音色が響き渡る。教皇ゲンドラス・サイリュンが重厚な法衣を纏い、威厳に満ちた佇まいで壇上へと歩みを進めた。その傍らには、静謐な慈愛の光を湛えた『神託の聖母』セシリアが、穏やかな微笑みを浮かべて佇んでいる。
「これより、新たな光の誓約をここに立てん」
教皇ゲンドラスの朗々とした声が広場全体に響き渡る。
そして、若いふたりの名が呼ばれた。
「ミタマ・サイリュンを『真理の光乙女』へ。ツルギ・サイリュンを『明光の聖騎士』へ。若き光よ、互いを支え、人々の希望の灯火となれ」
「はいっ!」
元気よく応じたのはミタマだ。透明感のある繊細な衣装を揺らし、輝くような笑顔で教皇とセシリアに礼をとる。その隣で、ツルギは少し照れくさそうに、けれど胸を張り、真新しい聖騎士の儀礼剣に手を添えて深々と頭を下げた。
『明光の聖騎士』——その名に恥じぬ凛々しい佇まいに、観客席からは一際大きな歓声が上がった。
純白と金の糸で織られた重厚な法衣を纏うココロギ・サイリュンが立っている。『至高の光巫女』たる彼女の佇まいは神聖そのものであったが、ふと見せた唇の端の笑みには、甥と姪に向けられた温かな情愛が宿っていた。
ココロギの隣には、オーレリア帝国の皇女シンシアが立っている。
『真光の巫女』としての気品を全身から漂わせる彼女は、紺碧の夜空に映える鮮やかな衣装を纏い、どこか悪戯っぽく微笑んでいる。教国と帝国の絆を象徴するかのように並び立つ彼女たちの姿は、祭典に集った大衆の目を奪って離さなかった。
◇
――ドン……っ!
一瞬の静寂の後、夜空のキャンバスに巨大な大花火が打ち上げられた。
大輪の金と銀の花が咲き誇り、続いて紅や紫の光の粒が、雨のようにクリスタルヘイムの街へと降り注ぐ。ワインの噴水が花火の光を浴びて宝石のようにきらめき、巨大な短冊竹柵に結ばれた人々の願い事が、夜風に揺れながら黄金色に輝いた。
「わぁ……っ!」
ミタマが感嘆の声を上げ、目を輝かせて空を見上げる。その頬は花火の光で鮮やかに彩られていた。
ツルギもまた、先ほどまでの威勢の良い態度を忘れ、口を少し開けたまま、夜空を埋め尽くす光の演舞に見入っている。
セシリアは、そんな愛おしい双子の肩をそっと抱き寄せた。
シンシアとココロギが寄り添い、夜空を見上げた。
短冊に書かれた人々の願いと、自分たちが手に入れたかけがえのない幸福を胸に刻みながら、ココロギは静かに祈りを捧げた。
「神様……私たちの未来が、今夜の花火のように、どこまでも明るく照らされますように」
大きな花火が再び夜空を焦がし、色とりどりの光が眩いばかりに街を包み込む。
温かな笑い声と歓声のなか、聖都の夜は、優しく、更けていくのであった。
登場人物紹介
ミタマ・サイリュン
『真理の光乙女リ・ルミエール』
教皇ゲンドラス・サイリュンの孫。
アレスとエミーナの娘。
ツルギの双子の妹。ココロギの姪。
錦族名は崔御玉さいおんぎょく
宙の属性は水星。万物の属性は水である。
『東海の鬼女』の母親エミーナと魔王ブランガ・オデュヌにその秘めた力を評価される。
口数は少なく、どこか神秘的で底知れない強さも合わせもつ少女である。
ココロギの属性は木であり、ミタマは水。
つまりココロギを支える運命を与えられている。
ツルギ・サイリュン
『明光の聖騎士パラディン・レイディアンス』
教皇ゲンドラス・サイリュンの孫。
アレスとエミーナの息子。
ツルギの双子の兄。ココロギの甥。
錦族名は崔剣サイケン
宙属性は土星。万物の属性は土である。
ミタマと同様にココロギの根付く場所として、
命をかけてココロギを守る運命を持たされて生まれてきた。リヴィエールの男性にしては珍しく異能の力を発現しており、真の才能と力が開花するのはこれからになりそうである。ココロギによって法力を組み込まれた、司教ビー・スーの四つ葉の丸太盾を受け継ぐ。




