5. 自信を持って ~フィオナ視点~
5. 自信を持って ~フィオナ視点~
ボクはフィオナ=マクスウェル。ボクの家は代々有能な魔法士の家系なの。自慢じゃないけど生まれた時から結構優秀な魔力があって将来は王家に仕えるんじゃないか?ってよく言われてたんだ。でもボクは魔力はあったけど、魔法を使うのが苦手だったの。だって魔法は使い方を間違えたら凄く危険なものだから……だから怖くなった。
けれど、力を行使できないボクは一族から「臆病な無能」として見離され、ついには家を捨てられた。強くなりたい。そう願っているのに、いざとなると怖くて身体がすくんでしまう。ボクはただ、誰も傷つけたくないだけなのに……。
ボクはせっかく優しくしてくれて弟子にもしてくれた2人の師匠からも見離されてしまった。しかも怒って部屋の外に出ていってしまった。言われたことが正論で何も言えなかった。また同じことの繰り返し……
それが悔しくて涙が止まらないよ。部屋に残ってくれたミルディさんは、「とりあえず座ろう」と優しく声をかけてくれた。
ボクが泣き止むまで、何も言わずにずっと待ってくれている。本当に優しい人。
ようやく落ち着いたボクに、ミルディさんはぽつりと「あたしも戦えないし、フィオナの気持ちがわかるよ」と語りかけてくれた。
本当は強くなりたいけど、怪我を想像すると足がすくんでしまうこと。ボクと同じ「戦えない弱さ」と葛藤しているミルディさんの飾らない言葉は、冷え切っていたボクの心に温かく染み込んでいく。
戦闘職じゃないミルディさんだって、みんなの力になりたいと必死にもがいているんだ。それなのに、魔法騎士のボクが逃げてばかりじゃダメだよね。
でも、どうしても自信が持てなくてまた俯いてしまったボクに、ミルディさんはとびきり明るい声で提案してくれた。
「明日はあたしと一緒に魔物討伐しない?戦えるように魔法アイテム持っていくし、絶対に大丈夫!一緒に行こう!」
自分だって怖いのに、ボクの背中を押すために無理をしてくれている。その気持ちが痛いほど伝わってきて、ボクは勇気を振り絞り「一緒に行きます」と答えた。
差し出された小指に自分の小指を絡めると、ミルディさんはとても優しい微笑みをくれたんだ。
そして翌日。ボクが起きたらもうアリーゼ様と師匠の姿はなかった。やっぱり怒って2人で魔物討伐をしているのかな……そんな事を考えるけど、今日はミルディさんがせっかくボクに言ってくれたから頑張らないと。ボクは魔法騎士なんだから。
ギルドにつくとボクたちは色々な初心者魔物討伐の依頼の中からサンドスライム討伐を受けることになったの。でもいざ依頼を受けるとなると少し気が引けてしまう。ボクが心配そうな顔をしているとミルディさんはボクの腕を掴んで「大丈夫」といって引っ張ってくれた。そして砂漠にたどり着き目的のサンドスライムを見つける。
「おお!いたいた。あれがそうみたいだね」
「本当だ。なんかプニプニしてる。だっ大丈夫かな……」
「とにかくやってみよう。フィオナ」
いざ目の前にするとやっぱり怖い。ミルディさんがボクの背中を押してくれる。そうだよいつまでも逃げているだけじゃダメだ。ボクは剣を抜き構える。手が震える……そしてサンドスライムに剣で一閃を放つ。
「せやぁ!!」
でもサンドスライムに掠りもしない。ただ空を斬るだけだ。
「うぅ。ごめんなさい」
「いや謝ることないけどさ。フィオナ、それじゃ当たらないよ?まずは相手を良く見る!とりあえず見てて!」
ミルディさんは臆することなくサンドスライムに向かって走り出し、そのまま金槌を力いっぱい殴りつけた。サンドスライムはプルンと震えて凹んだだけで、全くダメージを与えられているようには見えない。
でも、違う……。
ダメージを与えられたかどうかじゃない。戦闘力を持たない鍛冶屋のミルディさんが、怖さを押し殺して「戦うための一歩」を踏み出しているんだ。その背中を見た瞬間、ボクの胸の鼓動がドクンと大きく跳ね、身体の奥から熱いものが込み上げてくるのを感じた。
しかしその時サンドスライムが吐き出した液がミルディさんを襲う。さらにサンドスライムはその丸い体を震わせながら突進してくる。ボクたちはそれを避ける。
「ねぇフィオナ。この魔物に弱点とかあるの?」
「えっと……確かスライム系の魔物には核があるはずだと思う。その部分を攻撃するといいって聞いたことがあるような気がします」
「そうなんだ……あの身体の中にある青いやつじゃない?それならそこを狙うしかなさそうだね。あたしが囮になるからフィオナお願いできる?」
「えぇ!危ないですよ!」
ミルディさんはなんでそこまでして戦えないボクのために……そしてミルディさんはボクの手をとり優しく話す。
「大丈夫だよ。サンドスライムはあたしの金槌じゃ倒せないし、核までダメージを与えられそうにない。だからフィオナの剣で倒して。自信持って。あたしだって戦えてるんだから!」
その泥だらけの姿をしながらボクに言ってくれた言葉を聞いて理解したの。ミルディさんはボクに傷ついて欲しくないんだ。だから囮が怖くても囮になるんだ。それに師匠……今のままじゃ、ボクが危険な目に合うからわざと……師匠なりの優しさだったんだ。
ボクは、泥まみれになりながらも励ましてくれるミルディさんを真っ直ぐ見て答えた。
「ミルディさん……ううん。囮なんていらない!ボクがサンドスライムを倒すから!」
ボクがミルディさんを守る。自分のためじゃない、大切な『誰か』を守るために戦うんだ!いつもボクの前に立ってくれた師匠も、きっと同じ気持ちだから。
そうミルディさんに告げると、なぜか不思議と一歩前に踏み出すことができた。
一歩踏み出したボクの前にはサンドスライム。そして背中には、守るべきミルディさんがいる。
大丈夫。ありがとう、アリーゼ様、師匠、ミルディさん。大きく息を吐き、ボクは再び剣を構えた。
不思議と、もう手の震えはない。
ボクの意志に呼応するように、ずっと心の奥底に封じ込めていた魔力が溢れ出す。構えた剣の刀身に、淡く透き通る風の魔力が渦を巻きながら纏わりついていく。ボクはもう絶対に逃げない!
だから……見てて。これからはボクが『魔法騎士』として、必ずみんなを守ってみせるから!




