4. 自信を持って ~ロゼッタ視点~
4. 自信を持って ~ロゼッタ視点~
ワシは部屋を出たがアリーゼに呼び止められて、今アリーゼと共に夜の街を歩いておる。ふむ。ワシに気をつかったというよりフィオナに気をつかったというところじゃろ。
それにしても……今日のフィオナは散々じゃった。魔物とは戦わないし、ワシの後ろに隠れる。そして『さすが師匠!』なんて言葉を平気で話す。そもそもあやつには戦うという意志が感じられん。
なぜあそこまでの力を持っていながらも戦おうとしないのか…… フィオナは逃げているだけじゃ。気持ちは分かるが、それを払拭できんのなら魔物討伐などやらせるべきじゃない。
それは今日一日見て思ったが、あのままなら間違いなく命取りになりかねん。そう思うのも当たり前の事じゃろう?
「ロゼッタ様は何が食べたいのです?」
「お主のおごりなのじゃ。決めて良いぞ。酒は飲まんからな。余計なことを喋らされるのは勘弁じゃしな」
「別に聞かないのです。ロゼッタ様がフィオナの事を思ってああ言ったのは理解してるのです!だからミルディにお願いしてきたのです!」
ミルディならフィオナを何とかできる。そう思っているのはワシと同じか……とりあえずアリーゼと夕飯でも食べるかの。繁華街の中でも高そうな店を選ぶのじゃ。
ここは少しくらい散財しても構わんからのう。アリーゼのおごりなのだし。ワシは外観がどう見ても高級そうなレストランを指さす。
「あそこが良いのじゃ。香辛料を使った料理が自慢らしいからの!」
「え……高そうなのです。ロゼッタ様その向かいの店にするのです!そうするのです!行くのです!」
そういうとアリーゼは先に歩いていく。全く仕方ないやつじゃの。ワシは後について店の中に入っていく。
中に入るとここは大衆酒場のようじゃの。いい香りに満たされた店の内装を見る分だと悪くはないのじゃ。そして個室に案内され、とりあえず注文をすることにした。料理が運ばれワシはアリーゼと話す。
「わぁ美味しそうなのです!いただきますなのです!」
「アリーゼ。お主フィオナをどうするつもりじゃ?このままでは危険でとても魔物討伐になど連れていけんぞ?」
「やっぱりなのです。ロゼッタ様は優しいのですね。厳しい事を言ってもやはりフィオナの事を思っているのです!」
「当たり前じゃろ。フィオナはこのままでは戦うことができん。……お主の考えを聞かせるのじゃ」
ワシはアリーゼに問いただす。ここに来た一番の理由はそれじゃ。アリーゼがただ能天気に突き放したわけではないと信じてはおるが、こやつの本心を聞いておかねば安心できんからの
するとアリーゼは食べていた箸を止めキョトンとした顔をしてワシを見てから話し始める。
「もちろん強くするですよ?」
「それはわかっておる。フィオナは戦えんと言っているのじゃ」
「それはミルディが何とかしてくれるのです。大丈夫。それに……これはミルディにもいい機会なのです。」
「ほう…」
アリーゼの話を黙って聞くことにする。
「さっきは意地悪を言いましたが、フィオナのあの時のあの目あの言葉に嘘偽りはありませんでした。だから必要なのは「自信」だけなのです。そしてミルディも戦えない自分に負い目を持っているならフィオナと一緒に魔物討伐をすればそれが「自信」になるです!」
ワシはその言葉を聞き、アリーゼの考えの深さに驚く。こやつそこまで考えておるのか……
「魔物討伐をするとは限らんじゃろ?」
「いえ。あの2人は必ず明日魔物討伐をするのです!だってあの2人は負けず嫌いなのです!そうじゃなきゃ、本来戦闘職じゃない魔法鍛冶屋のミルディが戦いの補助をしたいとは言わないですし、フィオナもあんなに大きな声で反論しないのです」
「……確かにアリーゼの言う通りなのかも知れぬな」
「それに、人は自分の弱さや失ったものに負い目を感じるものなのです。私も『聖痕』が消え、聖魔法と第一聖女という居場所を失ったのです……だから、必死にもがくのです!自分にはまだ出来ることがあると、世界に存在を示すように!」
そう語るアリーゼは、どこか寂しそうで、それでいて力強い笑顔をワシに向けた。
……この娘は、いつも明るく能天気に振る舞っておるが、その胸の奥には底知れぬ強さがある。ワシは改めて、目の前の小娘の精神的な器の大きさに舌を巻いたのじゃ。そのあとは雑談を交え食事を終え宿屋に戻ることにする。
「ぐすっ……お金なくなったのです……」
「泣くんじゃない。なら簡単に奢るなんて言わんことじゃな?」
部屋のドアノブに手をかけた時、中からミルディの声が聞こえてくる。まるでワシたちに聞こえるように大きな声で。
《それならさ!明日はあたしと一緒に魔物討伐しない?さっきの感じだとロゼッタ様はアリーゼと一緒に朝早くからギルドに行きそうだし!》
「む。」
「ほら、私の言った通りなのです。うーん……でもロゼッタ様、明日は『朝早く』ですよ?お寝坊さんのロゼッタ様には少し過酷なミッションなのです」
「バカ者。お主が起こせばいいことじゃろ。ったく……世話が焼けるの」
その日はフィオナとは一言も会話をせず就寝することにしたのじゃ。ワシが話せばせっかくの決意が鈍るからの。そして翌日。アリーゼに叩き起こされまだ覚醒していない頭でギルドの近くで隠れて待つことにする。
しばらくしてミルディとフィオナはギルドにやって来て中に入り、そして何かの依頼を受けて出ていく。アリーゼがギルド受付嬢に何の依頼を受けたのか聞きにいく。すると2人が向かった先は砂漠。サンドスライム討伐の依頼のようじゃ。
「ロゼッタ様。砂漠に出る前にこれを飲むのです!」
「断固拒否する。その泥水みたいなものは、死んでも飲みたくないのじゃ」
「ワガママはダメなのです!良薬口に苦しなのです!本に書いてあったのです!」
良薬?ただのお手製耐熱ドリンクじゃろ?そんなもの飲むくらいならワシは何も飲まん方がいい気がしてきたのじゃ……アリーゼの顔を見ると寂しそうな顔をしていたので、結局飲んでしまったのだがのう……苦いうえに尋常じゃなく酸っぱすぎるのじゃ……!
そして砂漠につくとミルディとフィオナが戦っているのを見つけ、離れて見ていることにする。なんじゃフィオナのあの攻撃は!全然サンドスライムを見ておらん!ミルディの攻撃は打撃じゃ。打撃じゃサンドスライムは倒せん!やはりあの2人じゃ無理なのじゃ!
ワシは我慢ならなくなり魔法の詠唱を始めようとするとアリーゼがワシのその腕を掴む。
「ダメなのですロゼッタ様。ここで助けてはいけないのです」
「アリーゼ!フィオナがあれじゃ無理なのじゃ!ミルディがいくら頑張っても勝てんのじゃぞ!?」
「大丈夫なのです。フィオナも気づいたのです。何が一番大事なのかミルディが気づかせてくれた。あの2人をよく見てくださいなのです」
アリーゼに腕を掴まれたまま、ワシは静かに前を見る。
そこには、あれほど魔物を怖がり、ワシの後ろに隠れてばかりだったフィオナが、泥まみれのミルディを背に庇い、剣を構えてサンドスライムと正面から対峙する姿があった。
ふん。バカ者……覚悟を決めるのが遅すぎるのじゃ……。
口ではそう悪態をつきながらも、泥臭くも確かに一歩を踏み出した弟子の姿に、ワシの口元は間違いなく緩んでしまっていた。師匠としては、まったくもって情けない顔じゃろうな。
さて……仕方ないから最後まで見届けてやるとするかの。ワシの可愛くて、少しだけ頼もしくなった弱虫な弟子の、本当の初陣の姿をのぉ。




