Band-It!~山賊たちとの夜5「今宵、その夜」
「今日は、どうもありがとう!俺は今日でこのバンドを抜けるけど、今日は忘れられない夜になりました!ありがとうございました!」
ネオ・ダメージの出番は、ヴォーカルのヤマトのこのMCで終わった。
自分たちが持ち込みで企画したライヴ・イベント。なし崩し的に『クリスマス・ライヴ』というタイトルになったが、まあ結果オーライといったところだろう。バンドとしての集客は、11人。過去最多となった。内訳は、タイガの友人やバイト仲間が5人。そして…
「俺、音楽続けることになったんだ」
開演前の店内で、タカシ、タケシ、タイガの3人はヤマトから、そう告げられた。
ヤマトの所属していたアカペラサークル『WeLA』はリーダーの大学退学に伴い、解散してしまった。しかし、メンバーの有志4人で新たにコーラスグループを結成することになったのだという。そこにヤマトもぜひ参加して欲しいと、熱心に誘われたのだそうだ。
大勢で合唱をするのと、数人のグループでコーラスをするのとでは、また求められるものが変わってくる。そこにヤマトの声は、ぜひ必要なのだそうだ。
「話をしてみたら、俺が彼らを誤解している部分もだいぶあった。前にも言った通り、歌うことは好きだし、本当はこれからも続けたいと思ってたから…」
「良かったじゃん!続けなよ。ヤマトの歌なら大丈夫だよ」
真っ先にそう言ったのは、最初にヤマトを勧誘してきたタカシだった。続いてタケシ、タイガも同意した。
そんなヤマトの新しいコーラスグループの仲間が3人と、彼女を合わせた4人。田中兄弟が集客できたのは、2名。母方の祖父母だけだった。出番を最初にした理由のひとつが、祖父母がやってくるからだったのは、タイガにも、ヤマトにも話していない。
※
出演者の2番目は、宇宙ちゃんだった。ネオ・ダメージの呼んだ客も、田中兄弟の祖父母以外はまだ会場に残っており、3番手の山賊の呼んだ客もボチボチ集まり始めていたため、客席は程よく埋まっていた。
「♪うわああああああああ、あたしは宇宙だよおおおおおおお!」
小柄な身体から繰り出される絶叫は、会場に集まった初見の観客たちに大ウケだった。
「なんでこんなにウケるのか分からない!」といった感じで、最初は戸惑い気味だった宇宙ちゃんも、観客の声と拍手に後押しされ、徐々にヒートアップしていった。結果的に最後の曲でギターの1弦、2弦を同時に切ったところで終演となった。
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3番手の山賊は、前もって聞いていた通り、この日はゲストを加えた特別編成で臨んできた。
ゲストの2人はどちらも女性で、アイドルのような風貌をした1人は夏鈴ちゃんと呼ばれていた。現役の音楽大学の学生で、今回のステージでは、歌と朗読を担当するのだという。
もう1人は、夏鈴ちゃんよりも少しだけ大人な感じの女性で、腰まであるストレートロングの黒髪が、見る人にどこかミステリアスな印象を与えていた。メンバーから「ヨーキ」と呼ばれていたその女性は、リハーサルでは立ち位置を確認するくらいで、何のパートを担当するのか、この時点では不明だった。
今回はこのイベントのための特別編成で、ちょっと変わった趣向のステージをするとは聞いていたが、どんな内容なのかについては
「まあ、見てのお楽しみということで」
ニヤリとしながらサティさんは言うだけだった。
そして、本番。
客電が落ちると、夏鈴ちゃんの朗読が始まり、それに合わせてサティさん、高橋さん、社長の3人が曲の演奏を始めた。どうやらバンドの生演奏で、歌を交えた朗読劇を行うという企画のようだ。夏鈴ちゃんが朗読しているのは、砂漠に囲まれた異国の物語で、それに合わせたアラブ音階っぽい曲を、バンドが演奏していく。途中で挿しこまれた歌は、クラシックの歌曲だろうか?
朗読と歌と演奏が、混然一体となって進んでいくので、見ている方も息つく間がない。どこで拍手をすればいいのか?と迷っている間に、どんどんステージが進行していく。
そして、比較的落ち着いたムードで進んでいたステージが、急に明るい照明になった。それを合図に、バンドの3人が中近東風のダンサブルな曲の演奏を始めると、客席の花道から肌の露出の多い衣装を着た黒髪のロングヘアの女性が登場し、ステージに上がって踊り始めた。それは、リハーサルの時に「ヨーキ」と呼ばれていた、あの女の人だった。
「あの女の人、ダンサーだったんだ」
タケシが、タイガに耳打ちをした。
「この衣装、たぶんベリーダンスっていうやつだと思う」
タイガもタケシにそう返した。
ダンサブルな曲が終わると、ダンサーの女性は花道から退場し、またバンドの演奏と夏鈴ちゃんの朗読と歌に戻る。やがて、読み上げられている物語がクライマックスを迎えたところで、再びダンサーが登場した。今度は肌の露出を抑えた衣装に変わっており、ダンスも情熱的だった先ほどの踊りとは打って変わった、優美な舞いになっていた。
歌と演奏とダンスが最高潮に達したところで音楽が鳴り止み、ステージに上がった5人全員がお辞儀をして、バンド:山賊のステージは終了となった。会場もろとも、遠い異国を旅していたような気分になっていた観客は、この時やっと我に返ってステージの5人に向かって惜しみない拍手を送った。
「俺らが見に行った時とは全然違う、完全な企画モノだったね」
割れんばかりの拍手をしながら、タイガが興奮気味にそう言った。
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4番手、異空間パラソルは、まずMCの男性:マロさんが登場するところから始まった。前回のタキシードに蝶ネクタイ姿とは打って変わった、トナカイの着ぐるみに身を包んでいる。
「レディースンジェントルメン!今宵は、素晴らしきクリスマス・イベントへ、ようこそ!今宵、皆様に演奏をお届けするのは、ご存じこちらのお2人!」
そこで、満を持してキーボード担当のマリさんと、ヴォーカル&ギター担当のカナさんの2人がステージに登場してくる。今日の衣装はクリスマスに合わせた、それぞれ赤と緑のミニスカサンタ姿だった。
この時点で、1番手のネオ・ダメージの呼んだ客は半分以上が帰宅し、店内は異空間パラソル目当ての客が大半を占めていたので、華やかな若い女性2人の登場に、店内は大いに盛り上がった。
異空間パラソルの3人のこの日の集客は、26人。この日に合わせて、会場販売限定の2曲入りCDも制作したのだという。限定20枚の、そのCDは終演後、あっという間に売り切れていた。
異空間パラソルは、既に常連の固定客も付いているとのことで、イベントでありながら完全に店内をホームな空間に変えていた。MCのマロさんの繰り広げるコール&レスポンスも板についており、このユニットが今回のイベントの主催者だと言っても、誰も疑わないレベルだった。
「俺ら、出番を最初にしておいて良かったな」
「ホント、それな。俺らの演奏中、これだけのお客さんたちが、ゾロゾロ出ていくところを見ちゃったら、立ち直れないかもしれない」
タケシの冗談に、タカシは真顔で答えた。
持ち時間は、1番手のネオ・ダメージと2番手の宇宙ちゃんが、それぞれ30分ずつだったのに対し、3番手の山賊が35分、4番手の異空間パラソルが40分と、集客力に応じて長くなるようにした。本当は山賊も40分にしようとしたのだが、
「30分…いや、少し余裕を持って35分でいいや。今回はガチガチにセットを固めてやるんで、演奏が伸びたり短くなったりすることはないと思うし」
と、サティさんから頼まれて、この持ち時間になったのだった。
歌も演奏も上手く、見た目にも華のある異空間パラソルのステージは、大盛り上がりで終わった。本編終了後、観客からアンコールのコールが上がったのだが、予めそのことも計算してタイムスケジュールを組んでいたので、遠慮なくアンコールをやってもらった。
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5番手。大トリを務めるアーティストは、店長の千川さんのたっての依頼で出演の決まった、『トリネコ』という男女2人組だった。イベントの主催者として、お店とのやり取りを担ってきたタケシも、この2人については本番まで全く面識がなく、その音楽性も知らなかった。
しかも、タケシたちが店に着いた時には、既にトリネコの2人はリハーサルとサウンドチェックを終えており、一体どんな音楽を演奏をするのか、本番まで皆目見当がつかなかったのだ。
「あ、どうもトリネコです。無理言って出演させてもらっちゃって、すみませんでした。しかも、出番が大トリなんて、つくづく申し訳ないです」
リハーサルを終えたので、これから出番が来るまで近くのカフェで時間を潰すつもりだというトリネコの2人のうち、女性の方がタケシにそう話しかけてきた。
コトリと名乗ったその小柄な女性は、ヴォーカルとテルミンを担当するのだと言う。テルミンとは、戦前にロシアで開発された世界最古の電子楽器だそうで、楽器から生えているアンテナに手をかざすことで音を出すという、タケシたちも初めて見る珍しい楽器だった。
そして、もう一人の瘦せた背の高い男性はネコさんと言い、パーカッションを担当しているそうだ。
「ユニット名を何にしようってなった時、シンプルに2人の名前を合わせて『トリネコ』でいいんじゃない?ってことになって。あ、あたしたち、ユニットとしては今回が初ステージなんです」
「コトリちゃん、そろそろ行くよー」
入口の方からネコさんが声をかけ、そこでコトリさんとの会話は終了になった。トリネコの2人との本番前の接触は、それだけだった。
タイムスケジュールでは、4番手の異空間パラソルと、5番手のトリネコのステージ転換に15分という長めの時間が設定されていた。店長の千川さんの指示でタケシがそのように設定したのだが、すぐにその理由がわかった。
異空間パラソルのステージ撤収が終わったタイミングで、次から次へと客が入店してくる。その殆どがスーツを着た社会人と思しき男女だった。年齢層も幅広く、タケシたちとそう年齢の変わらなさそうな若い人もいれば、白髪頭の初老の男性もいるという感じだった。
入店する人の列が途切れることなく続くため、それまでの出演者が呼んだ客も、その勢いに押されるように退店し始めた。そして、トリネコのステージが始まる数分前には、観客は完全に入れ替わり、店内のほぼ全員がトリネコの呼んだ客になっていた。
しかも、入店する人はまだ続いており、イス席は完全に埋まり、店内には立ち見の客が出始めていた。まだ客が店内に収まりきっていないため、トリネコのステージは、5分押しで始まることになった。
「なんか、狭くて申し訳ないから、楽屋に引っ込んでようか」
タカシがそう声をかけ、タケシ、タイガの3人は楽屋に店内に留まるのを諦め、楽屋に引き返すことにした。ちなみにヴォーカルのヤマトは、客として来ていた新しいコーラスグループのメンバーたちと、一足先に帰宅している。
このお店は、楽屋にも小さなモニターが用意されていて、そこからステージの様子を伺うことができる。見たこともないくらい超満員になった店内で、トリネコの2人によるテルミンと、パーカッションの演奏が始まった。




