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Band-It!~山賊たちとの夜  作者: 湖上リフィア


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Band-It!~山賊たちとの夜6「ラスト・ワルツを一緒に」

「それじゃあ、マロさんがあの2人をプロデュースしてるわけじゃないんですか?」


「違う、違う!僕はMCだけ。それも、頼み込んでやらせてもらってんの」


「え?じゃあ、マロさんって何やってる人なんですか?」


「芸人。駆け出しの」


「ええ、音楽やってる人じゃないんですか?」


「音楽は好きだけど、聞く方専門よ」


「それがなんでまた?」


全ての出演者のステージが終わり、イベントが終了したマミィーズの店内。客出しも終了し、残った有志たちによる打ち上げが店内で始まっていた。


「芸人の仕事に『前説』ってあるじゃん。あれが、どうしても苦手でさ。1度、大失敗してメチャクチャ怒られたことがあって、それ以来トラウマになっちゃって」


これは場数を踏んで経験を積むしかないと思い、いろいろと模索しているところで、マリさん&カナさんの2人に出会ったのだそうだ。


「まあ、若い女の子2人で活動してると、いろいろとみたいだね。終演後、出待ちをされて怖い思いをしたこともあったみたいで。そこに男である僕が加われば、ある種の牽制になるっていうか」


「俺はマロさんが、マリさんカナさんをプロデュースしてるのかと思ってました」


タケシは、初めて異空間パラソルのステージを見た時の率直な印象をマロさんに伝えた。


「わざと、そう匂わせるようにしてる。さっき言ったみたいな事情もあってね。2人を呼び捨てで呼んでるのも、敢えてのことよ。3人だけで打ち合わせする時は、ちゃんとマリさん、カナさんって呼んでるよ」


異空間パラソルのメンバーのうち、打ち上げに残ったのはMCのマロさんだけで、マリさん&カナさんは他の出演者と、お店のスタッフに挨拶を済ませると、早々に帰宅していった。


「彼女たちは基本、打ち上げには参加しないんで、気を悪くしないでね」


「そうなんですね」


「2人だけで、食事しながら反省会をやってるみたいだけど、逆に僕はそっちには参加しないんで」


打ち上げに参加しているのは、マロさんの他には宇宙ちゃんとその友達の女の子が1人。山賊は、メンバー3人全員と、ゲストのダンサーの女性。あとは、タカシ、タケシ、タイガのネオ・ダメージのメンバー3人だった。

大トリを務め、40人以上の集客をしたトリネコの2人は、自分たちが呼んだお客さんたちと、予約済みの別会場で打ち上げをするとのことで、挨拶を終えると早々に退店していった。大勢のお客さんたちと移動していくその様子を見て、タカシが


「まるで民族大移動だな」と言っていた。


宇宙ちゃんがマロさんに話しかけてきたので、タケシは山賊の3人が囲んでいるテーブルに向かった。


「すごく変わった音がすると思ったら、このギター。フレットレスですか!?」


「そうそう、西洋音階ではアラブっぽい音階は出せないからね。特注して作ってもらった」


「だからかあ…てっきりエフェクターでそうしてるのかと思ってましたが、まさか指板がフレットレスとは」


「微妙な高低差の音も出せるし、グリッサンドは滑らかだし、最高に気に入ってるよ」


「エレキベースのフレットレスは見たことありますが、ギターは初めてです。しかし、これは…」


そこで息を溜めた後、タカシは


「変態だ!」と言い放った。


そう言われた山賊のギタリスト:高橋さんは、大笑いをしていた。


「ありがとう!最高の誉め言葉として、受け取っておく」


ビールで顔を真っ赤にしながらも、ご機嫌の様子だった。


社長とゲストの女性ダンサーが何やら話し込んでいる中、1人ポツンとハイボールを飲んでいるサティさんに、タケシが話しかける。


「今日はどうもありがとうございました」


「ああ、お疲れさん。ああいった趣向で大丈夫だった?お客さんたち、面食らってなかった?」


「まず、僕らが面食らいました」


「そっかあ、やっぱりなあ。なんか、ステージやってる間、お客さんが静まり返ってるから、怖くて客席をよく見られなかったんだよね」


「あれは、誰が企画したんですか?」


「僕。前に仕事で、小劇団の公演を手伝ったことがあってね。あ、でも役者とかじゃないよ。僕、グラフィックデザイナーやってて。その時は公演のポスターや、パンフをデザインしたんだ。招待されて、公演も観に行った。演劇の世界ってよく知らなかったけど、役者とか裏方とか、すっごい大勢の人間が1つの公演に向けて一丸になって動いててさ。バンドとはまた別の魅力があるなあって思った」


「それで、自分たちもやってみようと」


「こういった特別な機会でもないと、できないからねえ。ホント、感謝してるよ。ありがとう。たぶん、再演はできないだろうな。こういうのって、本当に一期一会だよね」


「社会人になってバンドを続けられる秘訣って、なんですか?」


にこやかだったサティさんの顔が、少しだけ真顔になった。


「さあ、なんだろう?どうしてだい?」


「俺ら、来年大学4年になるんで。就活生になるんですよね。そしたら、もうバンドとか続けてられないかな、と思って。実際、ヴォーカルもそれで抜けるし」


タケシは、少しうつむき加減になって、サティさんにそう言った。


「うーん。そうかあ。まあこれは、あまりシリアスに考えずに聞いてくれよ」


そう前置きしてからサティさんは話し始めた。


「うちのバンドさ。自分で言うのもナンだけど、他の2人に比べて僕はベースも、ヴォーカルも普通じゃん」


タケシは返答に困った。ステージで一番目立って存在感を発揮しているのは確かにサティさんだが、その一方でテクニシャンなギタリスト&ドラマーと比較して、サティさんのベースと歌は、確かに「普通」だった。


「そう言われても、返答に困るよな」


サティさんは、満面の笑みを浮かべながらタケシを見る。結構なペースでハイボールを飲んでるはずだが、目元がかすかに赤らんでいるだけで、酔っぱらっている感じはしない。


「まあ、いいよ。僕は、自分でも分かってる。あの2人は、他のバンドや演者からも頻繁にお声がかかるけど、僕にはそういったことはない。僕には、このバンドだけだ」


サティさんのその言い方にネガティブな含みはなく、事実は事実として受け止めて、そのうえで前を向いているようなポジティブさをタケシは感じた。


「あの2人、高橋と社長が出会ってバンドを始めたタイミングに、たまたま僕も居合わせた。そういったきっかけで、このバンドは始まってる。そして、あの2人がやめようとしないから、社会人になった今も、僕はバンドを続けられてる。それだけかなあ。これで、答えになってるかい?」


サティさんは、ハイボールの入ったグラスをタケシの方に掲げながらそう言った。


「そうですね。参考になりました。ありがとうございます」


「なになに?なに、深刻そうな顔して話し込んでるのよ?恋バナ?大学生と恋バナしてるの?」


そこにワインの入ったグラスを持った、ゲストの女性ダンサーが割り込んできた。本番前のミステリアスな雰囲気がウソのように気さくで、ラフな感じだ。


「恋バナなんてしてないって!真面目なバンドの話。人生の先輩として、とてもためになるアドバイスをしてたとこ」


「ええ、本当?じゃ、今から恋バナしなよ」


「ああ、面倒くさくなってきた!酔っ払いは、あっちへ行け」


「面倒くさいって、何よ!だいたい、佐藤くんはいつもいつも、逃げ道用意して恋愛してるからダメなのよ」


「それは今、関係ないだろ」


「せっかく女子がOKしてくれたんだから、2人で飲みに行きゃいいじゃん。それを、なんで大勢での飲み会にしちゃうのかなあ、佐藤くんは。覚悟が足りないんじゃないかなあ!」


「利澤(りざわ)さん、今日は面倒くさい!ほらほら、ワイングラス空になってるし。あっちで、新しいのもらってこよう」


利澤さんというのが、ダンサーの本名のようだ。他の2人、高橋さんと社長さんは、ヨーキと呼んでいた。サティさんは、利澤さんを連れてドリンクカウンターに向かうと、一瞬だけ振り返って、タケシに「ゴメン」と拝むような仕草をした。


それをきっかけにタケシは、山賊たちのテーブルを離れた。


※


「まずは、お疲れさまでした。今日の入りだけど、約束の70人を超えたから約束通り、追加のノルマはなしでOKね」


打ち上げも終わり、ネオ・ダメージのメンバー3人はマミィーズの店長の千川さんと、最後の清算をしていた。


「こちらこそ、大変お世話になりました。集客のために、トリネコさんと、山賊さんをアサインしてくれたの、千川さんですよね」


リーダーのタカシが、深々と千川さんに向かってお辞儀をする。


「集客のために、っていうのは少し違ってるかな?トリネコの2人は、本当に困ってたの。何としても12月中にライヴをやりたいんだけど、このタイミングだし、どのハコもスケジュール埋まっちゃって断られてたみたい。おまけに、あの集客力でしょ?そこそこのキャパがないと厳しいから、それもあってうちに泣きついてきた感じかな」


「呼んだお客さんの人数、エグかったですね」


その時の店内の様子を思い出して、タイガが返した。


「言ってなかったっけ?あの2人、プロなの。コトリさんは作曲家。アニメやゲームなんかの劇伴を主に作ってるんだって。CDも何枚か出してるみたい。あとネコさんは、今日はパーカスだったけど、本職はマルチ鍵盤プレイヤー。本名で検索すると、いろんなアーティストのCDに参加してるよ」


「え?じゃあ、2人とも今日は専門外の楽器だったんですか?」


「そうなるね。まあ、お遊びと言えばお遊び。だけど、大人が本気になってやったお遊びのユニットって感じかな。お客さんも、あの2人の知り合いの業界人っぽい人ばっかだったでしょ?」


「得意なものが、2つも3つもあるって、なんかズルイな」


タカシが、ふと本音を漏らす。


「ところで、タカシくん。あなた、本当はブラックミュージックがやりたいんだって?今度、うちで月イチでソウル&ファンクセッションを始めるから、そこのホスト・ギタリストやらない?」


「ええ?僕にですか?」


「そうそう。他のメンバーは、ドラムが今日出てくれた山賊の社長さんね。ベースとキーボードは、まだ決まってないけど、アテはあるから大丈夫。今すぐに返事してとは言わないけど、前向きに考えてもらえる?」


「わかりました」


タカシが本当は、リズム&ブルースやソウル、ファンクと言ったブラックミュージックをやりたがっていることは、タケシも、タイガも充分にわかっていた。そのうえで、無理を言って今まで自分たちのバンドに付き合ってもらっていたのだ。タカシのギターがなければ、自分たちのバンド:ネオ・ダメージの演奏力は、格段に下がる。それでも…


「兄貴、やんなよ。ずっとやってみたかったんだろ?」


「うん、まあ」


「じゃ、決まりだな」


それは、ネオ・ダメージの終焉の始まりを意味していた。きっと兄貴のタカシは、大好きだったブラックミュージックのセッションに没頭していくだろう。本人の意向はともかく、ネオ・ダメージのために割ける物理的な時間も、きっと減っていくに違いない。さらに、来年は、メンバー3人揃って就活が控えている。このまま自然消滅的に、ネオ・ダメージというバンドが解散を迎えることは、タケシにも容易に想像できた。


「さらにもう一つ。タケシくんと、タイガくんにもお願いがあるんだけど…」


今度は、タケシとタイガの方を見ながら、千川さんはそう言った。


※


いろいろあった年が明けた。


タカシは、ライヴハウス:マミィーズで毎月第2水曜日に行われるソウル&ファンクセッションに、ホストバンドのギタリストとして参加を始めた。今は、曲のレパートリーを増やすことに血眼を上げている。本人曰く、もともと大好きな音楽なので、苦にはならないそうだ。セッションをきっかけに、知らなかった曲と出会えることが嬉しいとも言っていた。


タケシとタイガは、同じマミィーズで毎月第3火曜日に行われる、オープンマイクのホストを担当することになった。タケシのコミュニケーション能力と、タイガの人当たりの良さを買った、店長の千川さんたってのご指名だった。タケシはベースをアコースティックギターに持ち替え、タイガはドラムからカホンに楽器を変えて、時にオープンマイクの参加者の伴奏も担当した。


タケシが正しく予想していた通り、バンドとしてのネオ・ダメージの活動は、徐々に尻すぼみになっていった。この年はリハーサルのために数回スタジオに入ったきりで、ライヴは1度も行わなかった。


さらにその翌年。メンバー3人は、どうにか揃って別々の企業に就職をした。タカシは、何よりもセッションのホストバンドが続けられることを優先して、就職先を決めたとのことだった。


入社後、仙台への配属が決まったタイガは、これを機にオープンマイクのホストを卒業した。タケシは、慣れない会社員生活に四苦八苦しながらも、マミィーズでのオープンマイクのホストは続けた。


「これを辞めたら、俺が俺じゃなくなる」とは本人の弁だ。


そして、あのクリスマス・ライヴから3年後、タカシ&タケシの田中兄弟のもとに、タイガから結婚式の招待状が届いた。相手は、なんとあの宇宙ちゃんだった。


「宇宙ちゃんて、読み方こそ違うけど、本名だったんだな」


タカシが驚いたように、結婚式の招待状の差出人欄には、竹田大河・宇宙(そら)という名前が、振り仮名付きで書かれていた。


結果的に、バンドとしてのネオ・ダメージの活動は、あのクリスマス・ライヴが最後になった。その後、タカシ、タケシ、タイガの3人はそれぞれ何度か、異空間パラソルや宇宙ちゃんのステージに付き合いで足を運んだが、1年も経つ頃にはそれも疎遠になった。風の噂によると、異空間パラソルはカナさんの結婚を機に解散したとのことだった。MCのマロさんは、芸人を諦めて故郷の三重県に戻ったそうだ。


山賊のメンバー3人のうち、ドラマーの社長さんはソウル&ファンクセッションのホストバンドのメンバーとして、タカシと交流が続いていた。そのタカシに変態呼ばわりされたギタリストの高橋さんも、時おり女性ヴォーカリストの伴奏でマミィーズのステージに立つ姿を目にした。


残る1人、ベース&ヴォーカルのサティさんだけは、あのクリスマス・ライヴ以来、誰も姿を見ていない。


結果的にあの時のクリスマス・ライヴは、ネオ・ダメージのメンバーにとって、大きな転機となった。そして、あれがバンドとしての最後のステージになった。メンバー全員にとって決して満足のいく出来ではなかったが、あの大舞台でどうにか自分たちなりのピリオドを打つことができたのはラッキーだったと、今となってはタカシも、タケシも思っている。


そして、まさに一期一会だった山賊たちの夜を思い出すたびに、苦しいことだらけだったバンド活動に、自分たちはどうにか落とし前をつけたんだなと、田中兄弟は苦笑するのだった。



Band-It!~山賊たちとの夜 了


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