Band-It!~山賊たちとの夜4「ラスト・リゾート」
「なんかさあ、集まったメンツ。みんな、クセ強くね?」
「お前が言うなって感じだけどな」
率直な感想を漏らしたタケシに、タカシが返す。
「ドラムを使う出演者は今んところ、俺らだけか」
タイガが続けた。
田中タカシ・タケシ兄弟の実家に集まったネオ・ダメージのメンバー3人が、共演者の音源を聞きながらミーティングをしている。
タケシとタイガが声をかけた3人組:異空間パラソルは、すぐに名刺代わりの音源入りCD-Rをくれたが、タカシが声をかけた宇宙ちゃんはそういった音源がなかったため、会場でタカシがICレコーダーに録音したものを聞くことになった。
「異空間パラソルさんは、それなりにお客さん呼んでくれそうだけど…」
「宇宙ちゃんは、そうもいかないよなあ。まだ、活動始めたばっかみたいだし」
「そもそも、集客力のある出演者を勧誘してくるはずじゃなかったの?」
「いやあ、変化球も必要だと思ってさ」
「変化球ばっかじゃん」
「それはそうと、ドラムを使う出演者が少ないのは、セッティングが楽で助かる。ステージの入れ替え時間も短くて済みそう」
これはドラム担当のタイガの声。
「それはあるなあ。ただでさえ、出演者の多いイベントは入れ替えでゴチャつくから」
「とは言え、まだ俺らを入れて3組か。イベントやるには、全然足りないぞ。1組、1時間のステージをやるんなら別だけど。このままじゃ、1組当たりのノルマの負担もでかい」
そこで、3人は顔を見合わせてため息をついた。
※
ライヴハウスの店長の千川さんから呼び出しがかかったのは、その翌日だった。
バンド:ネオ・ダメージのリーダーは最年長のタカシだが、お店や他の出演者との交渉役は専らタケシが担っていた。いったい何を言われるんだろうと、恐る恐るの体でタケシはライヴハウスに向かった。
ライヴハウス:マミィーズ(Mammy's)の店長:千川さんを紹介してくれたのは、タケシと同じ大学に通う友人の山田くんだった。山田くんは弾き語りの音楽活動をしながら、ライヴハウス:マミィーズでアルバイトをしていた。仕事内容は接客や、厨房での調理、PAや照明の操作まで、多岐に渡るという。また、マミィーズで月に1回行われるオープンマイクは、山田君の仕切りで行われているそうだ。
活動場所がなくて困っていたタケシたちを見かねて、山田くんはマミィーズの店長の千川さんとの間を取り持ってくれたのだった。
店長の千川さんは、いかにも接客業を長くやってましたという感じの、仕事が出来そうな女性だった。マミィーズで働く前は、麻布のバーでバーテンをしていたのだという。最初は雇われ店長だったのだが、マミィーズのオーナーが引退する際に店を譲り受けることになり、今はオーナー店長として店を切り盛りしている。
「おはようございまーず」
開店前のガランとした薄暗い店内に足を踏み入れると、受付のカウンターの奥にあるPA卓の方から、千川さんが姿を現した。
「今日は山田くんは?」
「お休み。今日は機材のメンテナンス日だから、あたしだけ。さっきまで市川さんに来てもらってたんだけど」
市川さんとは、この店の音響機器のシステムを組んだ業者なのだそうだ。店長の千川さんは音響機器については素人のため、音響や照明は別のスタッフに任せている。以前は長らくオーナーが担当していたのだが、引退したため今は、山田くんに引き継ぎをさせている途中とのことだった。
「実は、ある人たちからどうしても12月にライヴをブッキングして欲しいって頼まれちゃったのね。12月ってお店の稼ぎ時でしょ?うちも、貸し切りやらイベントやらで、もうスケジュールいっぱいで」
「はあ…」
「そこで、もしタケシくんたちのイベントで、出演者の枠が空いてたら、そこに出演させてもらえないかな?って。もう、枠埋まっちゃった?」
「いえいえ、集客以上に苦戦してます。願ったり、叶ったりです」
「ただし、ひとつだけ条件があるの。とても集客力のある人たちだから、出演してもらうのなら、その人たちをトリにすること。すごく都合がいい話で悪いんだけど、それだけ飲んでもらえる?」
「問題ないです。集客力のある人に出演してもらえるんなら、助かります」
「そんなに苦戦してるの?うちも商売だし、さっきも言った通り12月は稼ぎ時だから、オマケはできないけど、他にも出演バンド紹介しようか?」
「助かります」
「じゃ今から連絡先、教えるから自分で交渉してみて。本人たちには、あたしからも伝えておくけど、たぶん引き受けてくれると思う。この人たちは、出演順とかの条件は特にないから、自分で交渉して」
「ありがとうございます」
※
前のバンドの演奏が終わり、ステージの撤収が完了すると、入れ替わりに次に演奏するバンドのメンバーがステージに出てきて、楽器のセッティングを始めた。
小柄な体格のドラマーは、ツインペダルをセッティングしている。スネアも持ち込みのようだ。メンバーで一番年齢が上のようで、見るからにオジサンという感じだ。
中肉中背でメガネをかけたギタリストは、エフェクターボードをセットしている。エフェクターの数は、比較的少なめだ。使用するギターは、フェンダーのストラトキャスター。恐らく、本国製のものだろう。
ネオ・ダメージのメンバーも、ヴォーカルのヤマトを除けば、華のない地味な男子ばかりだが、このバンドのメンバーの風貌も、負けず劣らず地味だった。夜のサラリーマンの聖地とも呼ばれているこの街で、一歩ライヴハウスの外に出たら、あっという間に人混みの中に紛れ込んでしまうだろう。
ここは都内のライヴハウス。タケシとタイガは、目的のバンドのメンバーに会って話をするために、客席で既に飲み終えた空のグラスを持て余していた。
ドラマー、ギタリストのセッティングがほぼ終わったタイミングで、ベーシストがステージに上がってきた。背が高く、肩幅が広くて、いかにもイカつい感じだ。肩まで届く長さのザンバラ髪を、日本手拭いでまとめている。地味な他の2人と比べて、いかにもロックな感じの佇まいが目を引く。
ベーシストはヴォーカルも兼任しているようで、ベースアンプのあるステージ下手にマイクスタンドを運ぶと、自分の身長に合わせて、マイクスタンドを大きく伸ばした。
メンバー全員が目線を合わせて、準備が整ったことを確認すると、ベーシストが両手で大きく丸を作り、PA卓にセッティング完了の合図をする。
店内のBGMがフェードアウトするのと同時に客電が落ち、演奏が始まった。
※
「サティ!ほら、例の大学生たち。千川さんから連絡のあった」
終演後、タケシとタイガが本日の目的のバンドのギタリストに声をかけると、メガネのギタリストがベーシストを呼び出した。
「ああ、わざわざ見に来てくれたんだ。千川さんから聞いてる。本当に僕らみたいなオッサンのバンドでいいの?」
長髪で無精ひげのイカつい体格のベーシストは、案外気さくな人のようだった。
「いえ、こちらこそ、なんかすみません。助かります」
「千川さんには、散々お世話になってるからね。出演者が集まりにくかったり、集客が厳しかったりする時は声かけてってお願いしてるんだ」
「おかげで、俺らがマミィーズに出演するのは、連休最終日の夜とか、月曜日の夜とか、過疎ってる時ばっかだけどな」
ギタリストが笑いながら付け加える。
「バンド名の『山賊』って、なにか由来とかあるんですか?」
「ああ、それはほれ。こいつの見てくれを見て『山賊みたい』って言ったお客さんがいてさ。面白いし、漢字のバンド名なら目立つかなと思って『山賊』にしたのよ」
ギタリストが教えてくれた。
「信じられないことに最初のライヴ当日まで、僕はバンド名を教えてもらえてなかったんだぜ!こいつ…高橋は、ずっと『まだ決まってないから、バンド名:ナナシで出演登録した』とか言ってたしさ」
メガネのギタリストは、高橋さんと言うらしかった。
「だって、サティの驚く顔、見たかったから」
「そしたら、ライヴハウス前の本日の出演者に『山賊』って書かれててさあ。高橋に『これは、俺らのことか?』って聞いても、こいつシラ切るし」
「まあ、それでいろんな人に一発で覚えてもらえたんだから、いいじゃねえの」
小柄なドラマーも会話に加わってきた。メンバーの中では最年長のようで、笑うと顔中が表情ジワでいっぱいになった。
「ええと、それで千川さんからは、『大学生たちの企画したクリスマスライヴ』って聞いてたけど、イベントの趣旨、それで合ってるの?」
えっ?そんな話になってるのか…タケシも、タイガも、それは初耳だった。
「表情から察するに、初耳って感じだな」
ニヤニヤしながら高橋さんが、面食らうタケシとタイガを察したように言う。
「まあ、千川さんならやりかねないな」
ドラマーも頷く。
「まあ、いいや。僕らも、オジサン3人では華がないし、当日はクリスマスらしく、ゲストに加わってもらって賑やかな趣向でやろうかと思ってるんだ。だから、今日の編成とは違った編成になるんだけど、問題ないかな?」
「はい、大丈夫です。で、希望の出演順なんですけど…」
「お、なに?リクエスト、聞いてくれる感じ?だったら、最初がいいなあ。セッティング楽だし」
ドラマーの男性が、真っ先に答える。
「いやいや、社長は早く出番終わらせて飲みたいだけでしょ」
「千川さんが注いでくれる生ビール、美味いもんね。泡がクリーミーで」
ベーシストの男性と、ギタリストの高橋さんがそれぞれツッコミを入れる。
「いや、トップバッターは僕らなんです。一番、集客力がないので…」
「主催者が、トップかい!?」
社長と呼ばれているドラマーは、少し驚いたようだった。
「ええ、情けないことに、僕ら集客力、全然ないんですよ。それでも、ライヴがやりたくて…」
「わかるなあ。俺らも長くバンドやってるけど、歳取るとどんどん客が呼べなくなってくるもんなあ」
理由を話すと、社長は好意的に受け止めてくれたようだった。
「社長はふだん、プロみたいな人たちと一緒にやってるから、自分じゃ集客しないでしょ」
高橋さんがそう言うと
「ホントだよ」とベーシストの男性も付け加える。
「ところで、やっぱりエリック・サティがお好きなんですか?」
「え?」
「いや、サティって呼ばれてるので、そうなのかなと」
「ああ、いや、全然!申し訳ないけど、クラシックには詳しくなくて」
「こいつ、本名が『佐藤』なんだよ。だから、サティって呼んでる」
「佐藤くんは、本当は下の名前の方が呼びやすいんだけどな。本人が頑なに拒否するから」
高橋さんと、社長がそう教えてくれたところで
「ああ、その話はもういいから!終わり、終わり!タケシくんも、タイガくんも、僕のことはサティでいいからね。はい、この話、もう終わり!」
サティさんが、半ば強引に話を打ち切った。
タケシはバンド:山賊の連絡係をしているサティさんと連絡先を交換して、タイガとそのライヴハウスを後にした。
※
こうして、ネオ・ダメージが企画した『クリスマス・ライヴ?』の、出演者の最後のピースが揃った。




