Band-It!~山賊たちとの夜3「奔走、東へ西へ」
「続いての曲は、ファン投票によって第3位に選ばれた曲です」
ステージの上で女性アーティストが、キーボードの弾き語りをしている。年齢は、30代半ばくらいだろうか。いかにも音大でクラシック音楽をやってました、という佇まいをしている。
「知っている方も多いと思いますが、わたし、メロンが大好きなんです。もう、メロンと結婚したいと思ったくらい愛してます。この曲は、そんなわたしのメロンに対する愛を歌った曲です」
そう言うと、キーボードの下に置いたバッグの中から、何やら取り出して、頭に被った。
それはマスクメロンを模した、メロン型のベレー帽のような帽子だった。そして、やにわにキーボードに向き直ると
「メロン!メロン!メロン!わたしの大好きな人!!
メロン!メロン!メロン!わたしの愛しいもの!♪」と、素っ頓狂な声で歌い出した。
あまりのテンションの落差に、タイガとタケシは顔を見合わせた。
メロンの曲が終わると、まばらな拍手に包まれながら、そのアーティストはまたMCを挟む。
「次はいよいよ、ファン投票で第2位に選ばれた曲をやります。栄えある第2位の曲は、インストナンバーで…」
ここで、タイガがタケシの方に顔を寄せ耳打ちをする。
「人気曲の第2位がインストの曲って、どういうこと?」
「わからん。そもそも、オリジナル曲のベスト10を発表されたところで、1曲も知らんし」
タケシもそう耳打ちで返した。
※
続いて登場してきたアーティストは、中年の男性だった。一昔前に流行ったチョイ悪おやじっぽいコーディネートをしているが、いかんせん背は低めで、腹も出ている。
演奏はせず、持ち込んだ音源…つまりカラオケで歌うらしい。流れてきたイントロを聞く限りプロが演奏した音源のようで、音質も良く演奏のクオリティも高い。
だが、いくら音源のクオリティが高くとも、カラオケで全く知らないオリジナル曲を何曲も聞かされるのは、さすがに辛いものがある。しかも、歌っているのは、少々痛い感じのする中年男性。3曲も聞いたところでお腹いっぱいになってきたが、まだ続くらしい。
「言いたかないけど、キッツイっすね」
「俺たち、プロになんて絶対になれないけど、ああはならないようにしようぜ」
その男性は若い頃、プロの歌手としてデビューしたことがあるのだと、MCで語っていた。ただ、申し訳ないが、そう聞かされても「ああ、やっぱりね!」と思うほどの説得力はなかった。
「次で最後の曲になります。最後の曲は、自分のデビュー曲です。〇〇先生に書き下ろしていただいた、自分にとってとても大切な曲になります。オリコンチャートで最高17位に入り、自分にとって最高位となりました」
自分自身の言葉に感動するようなMCがしばらく続いた後、歌い出されたそのデビュー曲を聞いたタケシの感想は、
「全然知らねえ…」の一言だった。
※
3番手としてステージに上がってきたのが、今日の目的のバンドだった。バンド名は『異空間パラソル』タイガが、高校の吹奏楽部で一緒だった元部員から教えられたバンドだ。
「3人組で、ちょっと変わったことをやってる面白いバンドがいる。人気もあって固定ファンもいるみたいだから、1度ステージを見てみるといいよ」
メンバーは若い女の子2人に、男性1人。女の子2人はアイドルみたいな華やかな衣装を着ているが、男性は蝶ネクタイに黒のタキシード、顔には冗談みたいな黒ぶちメガネをかけている。
パートは髪の長い女の子がキーボードで、ショートヘアの女の子がヴォーカルとギターのようだ。タキシード姿の男性は、俗に言う「ガイコツマイク」がセットされた、ストレートタイプのマイクスタンドの前に陣取っている。
店内のBGMが消え、客電が落ちるとタキシード姿の男性が、ノリノリな調子でMCを始めた。
「レディースンジェントルメン!今宵は、我らが麗しき異空間パラソルのステージへようこそ!今宵、皆様に演奏をお届けするのは、ご存じこちらのお2人!」
そこで、一呼吸おいてタメを作る。
「まずは、マリ!!オン・キーボードォォー!」
「そして、カナ!!オン・ギター・エンッ・ヴォーカルゥー!!」
紹介された2人の女の子は歓声と拍手に応えるようにお辞儀すると、それぞれ楽器に向かって演奏が始まった。
「今宵の1曲目は、まずこの曲!!『パスタが冷めたら』お届けするのは、我らが異空間パラソル!マリィー・エンッ・カナァァー!!」
リズムを含めた演奏の大半はキーボードの女性:マリが担い、もう1人の女性:カナはヴォーカル中心で、たまにエレキギターをかき鳴らす程度のようだ。そして、タキシード姿の男性はMCとしてショウの司会進行に徹するという、通常のバンドというよりは、ユニットに近い編成だった。
「面白いね。曲も良いし」
「ライヴが終わったら、誘ってみよう。そう、多くはないけど固定ファンもいるみたいだし」
冒頭のメンバー紹介の時の歓声と拍手は、決して仕込みではないというのは、肌感覚でタケシも分かった。ダメもとで、自分たちのイベントに出演してもらえないか、このあとアプローチをするつもりだ。そのために、この日はライヴハウスまで足を運んだのだ。
※
同じ頃、タカシは東京西部にある、とあるカフェで行われている、オープンマイクに足を運んでいた。
オープンマイクとは、集まった客が代わる代わるステージに上がって、10~15分程度のミニライヴを行う催しのことだ。ここのオープンマイクで司会を務めているのが、知り合いだったので見学にやって来たのだった。
集まった客は、自分も含めて12~13人くらいだろうか?決して広くはない店内は、カウンターからテーブルまで、ほぼ満席だった。
「皆さん、今日は週の真ん中のド平日に、こんなに沢山のお客様にお集まりいただきまして、誠にありがとうございます」
タカシの知り合いによるMCが始まった。出演順は、くじ引きで決めていた。ステージにはアコースティックギターとキーボードが用意してあるが、自分で持ち込んだ楽器でもOKとのことだった。マイクとキーボードだけは、シンプルなミキサー卓につながれているが、それ以外の楽器は基本、生音で鳴らすようだった。
気軽に参加できることもあって、出演者はバラエティ豊かだ。アコギの弾き語りが一番多いが、スティールパンを演奏したり、詩の朗読をしたり、自作のオルゴールを鳴らしたりと、一般的なライヴハウスでは、あまりお目にかかれないような出演者が続く。駆け出しの男女の声優による即興劇なんていうのもあった。
司会をしている知り合いによると、毎回半分くらいは常連、残り半分くらいが、ご新規さんとのことだった。
「タカシも演奏するんだろ?」
「いや、今日は見学だけ。年末の持ち込み企画のイベントに出演してくれる人を探しに来た」
「なるほどね。でも、まとまった時間のライヴには慣れてない人も多いから、慎重にね」
たしかに、それは一理あった。オープンマイクは、普段なかなか見ることのできないレアなステージを見ることはできるが、それは逆にこういう場でしか発表の機会がない内容でもあった。例えば、先ほどの自作のオルゴールによる演奏。10分間だったから楽しむことができたが、あれで30分の持ち時間があったら、間が持たないだろう。
次に出てきたのは、小柄で大人しそうな女の子だった。小柄な体格のせいで、抱えたギターがとても大きく見える。まだステージ慣れしていないようで、自己紹介やMCもぎこちない。
「こんばんは、宇宙と言います。どうぞ、よろしく」
アーティスト名は、宇宙と言うらしい。どんな曲を歌うんだろうと思った次の瞬間
「うわああああああああ、あたしは宇宙だよおおおおおおお!
身体が小さいからって、よく舐められるよおおおおおおお!!
小さいからって、バカにするなよおおおおおおおお!!♪」
ギターをかき鳴らしながら、突拍子もない声で歌い出した小柄な女の子に、まずタカシは意表を突かれた。そして、次に笑いが来た。
「面白い。この子を誘ってみよう。集客力はないかもしれないけど、出演者には変化球も欲しい」
タカシは、ドリンクチケットの半券に「宇宙ちゃん」とメモをした。




