【 言霊 】
今から話すのは、飽くまでも私の作り話です。
私が毎回、「これは、作り話なんだけど」って前置きしてから話すのは、なぜだと思います?
今から話すのは、私がそうするようになった切っ掛けのお話です。
私、高校は女子校でした。
いつも五人くらいで固まってて、その中に「Hちゃん」て子がいたんです。
口数は少ないけど、いつもニコニコ笑ってる、大人しいタイプの子でした。
でも、Hちゃんがのびのびと話す時があって、それが怖い話をする時でした。
話すリズムや声の使い方が上手で、凄くリアルなんです。
私たちも怖い話が好きだったので、教室に残ってHちゃんの怖い話を聞くのがルーティンみたいになってました。
ある日、同じクラスのギャルたちが、
「ウチらも聞きた~い!」みたいなノリで交ざってきて、仕方なく机を適当にくっつけて怖い話をしてたんです。
各々、怖い話を順に披露して……。
3周目くらいだったかな?Hちゃんの番が来た時、突然ギャルの一人が
「ねえ、そのいちいち『これは私の作り話なんだけど』って言うのいらなくない?冷めるんだけど~」
って言い出しました。
確かにHちゃんは怖い話する時、必ず
「これは私が考えた、嘘のお話なんだけど」
って前置きしてから話すんです。
律儀だな、くらいで、あまり気にもとめませんでした。
でも、その一言が切っ掛けで、一触即発の空気になってしまって。
面倒くさいなあ……。でも、どうしようって思ってたら、Hちゃんが、
「わかった、じゃあ本当の話をするね」
って。
今まで見たことないような真顔で話し始めたんです。
──これは、私が中2の夏、実際に体験した話。
当時、私は夏休み初日から迎えた初潮のせいで、一週間ほどろくに動けなかった。
体調が回復してすぐ、家族揃って出かけたお墓参り先で、お寺のお坊さんと親が話してる間、暇だったから、境内に住み着いてた猫にちょっかいかけてたの。
「おいで、おいで、怖くないよ、出ておいで、こっちにおいで……」
そうやって、ずっと呼びかけていたけど、結局、軒下からは出て来なくて。
そのうち、親が呼びに来て、そのまま真っすぐ帰宅した。
次の日から、自宅で変なことが起こるようになったの。
ありきたりだけど、無人のはずの2階から歩く音がしたり、呼ばれたのに誰もいなかったり……。
最初は気にしてなかったお母さんも、次第にノイローゼ気味になって、見かねたお婆ちゃんが、Aさんっていう拝み屋を連れてきた。
Aさんは、一通り家の周辺と室内をくまなく見回ったあと、家族全員を居間に集めて、
「原因は、あなたみたいね」
って。
指されたの、私だった。
当然、「何もしてない」って言ったけど、Aさんは冷静で、
「最近、私生活で変わったことなかった?」って聞かれた。
夏休みと共に初潮を迎えてたから、それを正直に話した。
体調が回復してからお墓参りしたこと、その後からおかしなことが起こり始めたことも。
「そのお墓参りの時、どんな風に過ごしたの?」
真剣な顔で言われて、改めてその日を振り返る。
生理あけでダルくて、家族との会話は、ほぼ無かった。
墓前に花を供えて、さあ帰れると思ったら、今度はお坊さんと親の立ち話が始まって。
暇だから軒下に住み着いてた猫にちょっかいかけて……。
「ああ……」
と、そこでAさんは一人、納得した様子だったけど、私も家族もポカーンとしてた。
でもAさんは、私を見つめたまま、
「……呼んだみたいになってない?」
って。
その一言で何も言えなくなってしまった私に、Aさんは
「初潮が呼び水となって、言葉の影響力が強まった可能性がある」
と言ったの。
続けて、
「とにかく、口をつぐみなさい。何か良くないことを呟きそうになった時は、特にね」
って。
「……だから普段、あまり喋らないようにしてるの」
そう言ってHちゃんは、
「私、『本当の話をする』って言ったあと、『おいで、おいで』って何度も口にしたよね?」
と、ギャルたちをじっと見つめながら、
「私たち……いま、見えないたくさんの人たちに囲まれてるよ」
途端、ギャルたちは絶叫し、座ってた椅子を蹴り飛ばす勢いで教室から逃げて行ったんです。
結局、私たちだけで机を戻した時には、いつものHちゃんに戻ってました。
それ以降、気まずさからあまり怖い話はしなくなり、そのまま私たちは卒業しました。
その経験が切っ掛けで、怖い話をする時は、
「これは私が考えた話なんだけど」
って一言、付け加えるようになったんです。
……例え、実体験であっても。
……で、ふと思い出したんです。
あの時、Hちゃん最後まで
「この話は嘘」
って言わなかったな、って。
今でも……いるんでしょうか。
……勿論、始めに言った通り、全ては作り話なんですけどね。




