第55話 憧れのコース料理でデートだ!
流石は天下の草壁商事が誇る最高級レストラン。
店の中は薄暗く、私と草壁君の座る席だけにライトが当たっている。
なんて雰囲気のいいレストランなの?
「どうかな? 気に入ってくれた?」
「とてもとても素敵です。思いっきり気に入りました」
「それはよかった」
草壁君はいつもの爽やかスマイルで答えてくれる。
もう最高過ぎるよ!
「アミューズになります」
お店の人が最初の料理を持ってきてくれた。
え? 今、聞いたことない言葉を聞いちゃったよ。
それにこの料理小さすぎ。この店ケチなのかな?
「どうぞ召し上がれ」
またまた草壁君の爽やかスマイル炸裂。
この笑顔を見てるだけで十分だよ。料理は食べるけど。
「はい、いただきます」
私も負けずに可愛さスマイルで対抗する。
勝負になってないけどね。
そして、私の動きがはたと止まった。
‥‥‥何でこんなにナイフとフォークがあるの?
どれを使えばいいのよ?
「端から順番に使えばいいんだよ」
草壁君がにっこりとほほ笑みながら教えてくれた。
私が困っているのわかったのかな?
よし、食べるぞ! でもがっついたら恥ずかしいよね?
ここはおしとやかに。パク。
「美味しい!!! 何これ? こんな美味しい料理を食べたことないよ。お替りしていい?」
「いいよ」
草壁君が笑いながらボーイさんを呼んでくれた。
もしかして私って非常に恥ずかしい行動をとっているのでは?
だって食べ始めていきなりお替りだよ?
これじゃあ『コース料理って初めて食べたよ』と宣言しているようなものだよね? 初めてだけど。
草壁君は笑顔だけど内心呆れるってことも考えられるし。いや呆れてるに違いない!
私の前に再びさっきの料理が置かれた。
「本当に美味しい! お替‥‥」
言ってしまうところだった。
「前菜でお替りしていると美味しいメインディッシュが食べられなくなるよ」
しっかり聞かれていた。うう、恥ずかしいよー。
「コース料理を食べるのは初めて?」
ついに恐れていた言葉を言われてしまった。
「うん」
私は小さな声で答えた。
「気に入った?」
「物凄く気に入ったよ!」
「それは良かった。じゃあまた食べにこようね」
「はい!」
え? なんか凄いことを言われたような?
またデートに誘ってくれるってこと?
そうだよね? きっとそうだよね?
いつまでも一緒に居たいってことだよね?
夢が叶ったよ!
私は涙ぐんで草壁君を見つめる。
「どうしたの?」
「今のはプロポーズだよね?」
私の妄想が止まらない。
「違うけど‥‥」
「私いい奥さんになるね」
「参ったな。ははは」
プルルル。その時私のスマホが鳴った。
誰よ、こんな時に。
「出ていいよ。ここは貸し切りだからね」
優しいよ。何でこんなに優しいの?
もしかしたらこの優しさって私にだけなのかな?
プルルルル。もううるさいな!
私はスマホの画面を見た。
げ! 琉生からだ。
「出なくていいの?」
ピ! とりあえず電話を切る。
「知らない番号だったから出ない方がいいよ」
「そうなんだ? 詐欺電話か何かかな?」
「たぶんそうだよ。質の悪い詐欺だよ」
私はそっとスマホの電源を切った。
「もしかしたら柚衣ちゃんがここに来るのを嫌がってる人からの電話かもよ?」
「そんな人いないよ」
まさか琉生のこと言ってないよね?
満面の笑みで草壁君が言った。
「それで誰から」
完全にばれてるみたい。
「琉生から」
私は小さな小さな声で言った。蚊の鳴くような声って、きっとこういう声を言うんだと思う。
「やっぱりね」
「ごめんなさい。こいつは後で八つ裂きにしておきますから、気にしないでください」
「そうだね。お願いしようかな?」
これってライバルを消してくれってこと?
私を独り占めしたいってこと?
私は真剣な眼差しで草壁君を見つめ、いやどちらかと言うと睨みつけて聞いた。
「私のこと好きですか?」
私ったら何て大胆なこと言ってるのよ?
「大好きだよ」
ええええええええええええーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!
「でも友情も大切だし‥‥」
どうしよう、どうしよう。
とりあえず人間を八つ裂きにする方法を検索しなくちゃ。
「柚衣ちゃん、聞いてる?」
警察に捕まっちゃ意味ないもんね? 完全犯罪、完全犯罪っと。
理想の結果がなかなか出てこないよ。
「あのう柚衣ちゃん?」
大切なデート中であることもすっかり忘れ、スマホで検索しまくる私。
「柚衣ちゃん、次の料理が来たよ」
草壁君が恐る恐る教えてくれている。
もちろん私はそれには全く気付かない。
もう何も見えなくなった私なのだった。




