第51話 番号交換しよ
帰りの車の中では沙耶ちゃんが絶好調だった。
「野球はマインドコントロールのスポーツだよ」
「どうしてそう思うんだい?」
「人間の脳は予測不能な動きのものを危険と感じるのよ」
「確かにそうだね」
「ショーバンが来ると思わず顔を背けるでしょ?」
沙耶ちゃんと草壁君、野球談議で盛り上がってるよね?
「だから脳にショーバンが来ても怖くないんだって教える必要があるの」
「どうやって教えるの?」
「ボールを最後まで見ることだよ。この癖を付ければショーバンが来ても脳が危険と判断しなくなるわけだ」
「夏上さんの野球理論は凄いな」
「まあね」
ふう。私は思わずため息をつく。
何言ってるのかさっぱりわからないけど、草壁君が沙耶ちゃんの言葉に夢中になってるのだけはわかる。
あまり盛り上がると二人の親密度が上がっちゃうよね?
ここは勇気をもって二人の会話に割り込むしかないか。
「バッティングにもこの脳の原理が言えるんだよ」
「どんなことが? ぜひ聞きたいな」
「ボールが投手から離れた瞬間に脳はどの位置にボールが来ると予測するの。だから人間はホームベース上に来たボールを最後まで見ずにバットを振るんだよ」
今だ!
「なるほど。だから沙耶ちゃんはあんなに打てるんだね?」
よし、会話に加われた。
「違うよ」
え? 何で沙耶ちゃん? 褒めたのに。
「バットに当たるまでボールを見てないとボールが変化したときに対応できないでしょ?」
???
「だからバットにボールが当たるのをしっかり見なきゃいけないのよ」
「でも、沙耶ちゃんは打てたじゃん」
一生懸命に発言してみる私。
なぜか草壁君は笑っている。
「ボールをしっかり見てたからね」
「どうして見てるの?」
「ボールを打つんじゃなくてボールをとらえるの」
「ボールを打たなきゃ前に飛ばないよー」
「ダメだこりゃ」
沙耶ちゃんは大きくため息をついている。
私、変なこと言ってないよね?
そんな中、草壁君がとんでもない提案を持ちかけた。
「夏上さんの野球理論をもっと聞きたいな」
「いつでも話すけど」
「だったらスマホの番号を交換しないか?」
「いいよ」
「何ですってー!」
シーン。車中の全員が私を見た。
ヤバいこと言っちゃった。
これじゃ草壁君を非難してるみたいだよ。
だって草壁君は女の子と番号を交換しないって言ってたもん。
沙耶ちゃんて女の子だよね?
どうして自分から番号の交換を申し出たの?
「ごめん。もしよかったら柚衣ちゃんも交換する?」
「‥‥‥おまけじゃ‥‥やだ」
そして数時間後。
うおおおおーーーー!!!
私ったら何言ってるのよ!
草壁君から番号交換しようって言ってくれたのに。
こんなチャンスもう二度と来ないよ!
私はベッドの上で足をじたばたさせた。
今頃、沙耶ちゃんと草壁君は電話で楽しく話してるのかな?
あ~考えただけで居ても立っても居られないよ。
私はスマホをじっと見つめた。
よし、沙耶ちゃんに電話してみよう。
もし草壁君と電話してなかったら電話に出られるよね?
私はスマホの電話帳から沙耶ちゃんを選んで発信マークを見つめた。
あと一つボタンを押したら発信する状態だ。
う~緊張する! もし話し中だったらどうしよう。
でも気になるし。
悩んでても仕方ないよね?
私は思い切って最後のボタンを押した。
『通話中のため応答することができません』
うおおおおーーーー!!!
本当に通話中でどうするのよ!
真剣に終わった。
こうして会話をしていくうちに愛が芽生えるんだ。
「柚衣! うるせいぞ!」
窓の外で琉生の声がする。
「そんな大きな声出してないよ」
「俺の部屋まで聞こえてきたぞ」
そんな大きな声だったみたい。
「どうかしたのか?」
「琉生には関係ないでしょ」
「心配してやったのに随分ひどい待遇だな?」
確かにちょっと酷かったかな?
「ごめん。史上最大のピンチなの」
よく考えたらこの頃の私ってピンチばかりだよね?
「草壁に振られたのか?」
「何ちゅうこと言うんじゃい!」
「この言葉遣いだと正解だな」
まだ振られたわけじゃないもん。
私はほっぺを膨らませて琉生を見た。
「早かれ遅かれこうなる運命だったんだよ」
こいつ絶対に殺す!
琉生なら草壁君の普段の様子を知ってるよね?
いつもどんな話をしてるんだろう。
沙耶ちゃんのことが話題に出てきたりしてるのかなあ?
よし、聞いてみよう。
「琉生って草壁君とよく話するよね?」
「するな」
「どんな話をしてるの?」
琉生は少し考えた。早く言いなさいよね。
「野球のこととか。女の子のこととか」
女の子のことも話すんだ。
「女の子って好きな子とか?」
「好みのタイプとかかな?」
何ですと! これは聞きたい!
「草壁君てどんな子が好みなの?」
「気になるか?」
何よ。気になるに決まってるじゃない。
「教えないぜ」
「何でよ!」
「一つだけ言っておくと柚衣のことが話題になったことはないな」
やっぱり。
私が落ち込んでいると琉生が窓を閉めた。




