第50話 沙耶ちゃんと草壁君
「3人とも野球部のマネージャーにならないか?」
野球部の一人が私たちに話しかけてきた。
「あたしをレギュラーにしてくれたら入部してあげるよ」
「沙耶ちゃん、それ監督が決めることだから」
「ねえ草壁君、あそこで打っていい?」
沙耶ちゃん、私の話を聞いてる?
「今は休憩中だし打っていいよ」
草壁君は相変わらず優しいよ。
「じゃあ、僕が投げるよ」
部員の一人が勇敢に声を上げた。沙耶ちゃんのクラスメイトの人だ。
自信喪失しても知らないからね?
「伊藤、もしデッドボールを投げでもしたら抹殺されるかもよ」
「脅さないでよキャプテン」
たぶん脅しじゃないと思うよ。沙耶ちゃんはいったんターゲットをログオンしたら逃さない性格だから
「このバット借りていい?」
「いいよ」
沙耶ちゃんがバットを振りながら打席に向かうと草壁君がぼそっと呟いた。
「一番高いバットを選んだ。夏上さんてやはり只者じゃないな」
「じゃあ投げるよ」
「手加減なしで投げてきなさい」
沙耶ちゃん強すぎ。相手は野球部員だよ?
バシ。あら打たなかったよ。
やっぱり沙耶ちゃんでもあの速い球は打てないんだ?
「どうした? 手加減なしで投げてやったぞ。やはり打てないだろう?」
「今のはボールよ」
「ああ? 入ってたじゃん」
草壁君がじっと見ている。そして、
「ボールだな」
と言った。
「次はもっと速い球を投げるからな。覚悟しな夏上」
「ヘイカモーン」
沙耶ちゃん余裕だね?
カキーン!
「嘘だろう?」
ライナー性の速い打球が飛んでいく。
「今のはホームラン?」
私が草壁君に聞くと、
「ホームランじゃないな」
と答えた。
「なーんだ」
「ホームランよりライナーの方がいいよ」
「え? どうして?」
「スタンドまで飛ばすホームラン何て早々打てるもんじゃないからね。その点、速い打球のライナーは外野手が取れない可能性が高い。常にチャンスメーカーになれるってことだ」
何を言ってるんだかさっぱりわからないけど、草壁君が真剣に言ってることはわかる。
いいな沙耶ちゃん。私も草壁君に褒められたいよ。
その後、沙耶ちゃんは続けざまにライナーを打ちまくった。
「僕、野球止めようかな‥‥」
「クラスメイトの女の子にあれだけ打たれたら、そう言いたくなるのもわかるな」
草壁君が笑っている。
いいな、この雰囲気。
「よし、次は僕が投げるよ」
そう言うと草壁君がグラブを持ってマウンドへと歩いていく。
「手加減はしないからね」
「勿論。全力で投げてきなさい」
スカ。
あれ? 沙耶ちゃんが空振りしたよ。
さすが草壁君だ!
「どう? 僕のスライダー凄いだろ?」
「打撃練習で変化球なんか投げないでよ」
??? 何言ってるの?
スカ。また空振りした。
「やった~。キャプテン凄いぜ」
さっきぼろ負けを喫した伊藤君がはしゃいでいる。
「もう腹立つー!」
「ははは、ぼくのスライダーは試合でもほとんど打たれてないからね」
「わかったわ。もう許さない。本気出してあげる」
沙耶ちゃんが反対側の打席に移動した。どうしたんだろ?
「何で左打席に? まさか今まで普段とは違う打席で打ってたの?」
「これがわたしの本気モードよ。さっきのスライダー投げなよ。打ってあげるから」
「わかった。全力で投げるよ」
カキーン。今までで一番いい音がした。
「あちゃー。完璧なホームランだ」
伊藤君が頭を抱えて呟いた。
「凄いよ夏上さん。完敗だ。でも次は絶対に負けないから」
「いつでもかかって来なさい。何回やっても同じだからね」
はははと二人が大笑いしている。
なんかすっかり意気投合してるね。
沙耶ちゃんてこんなに凄い選手だったんだ。
そう言えば中学校の時、大会で優秀選手に選ばれてたっけ?
は! まさかこれがきっかけで草壁君が沙耶ちゃんを好きになるってことはないよね?
いや、これはあり得るよ。
ただでさえ草壁君は長い間沙耶ちゃんを意識してきたんだよ。
これって心の中には常に沙耶ちゃんがいたってことだよね?
「あの二人~とてもお似合いなの~」
ガーン! 野乃葉ちゃんが言ってはならない爆弾発言をした。
やっぱり周りの人が見てもそう思うんだ?
やばいよ。これって最大のピンチだよ。
不良に囲まれた時よりピンチだよ。
ただでさえ沙耶ちゃんは草壁君のお母さんが出した条件をクリアしてるんだよ。
こんなのライバルなんてもんじゃないよ。
「どうだった?」
ベンチに帰ってきた沙耶ちゃんが聞いてきた。
「凄かった」
「そうでしょ?」
沙耶ちゃんがウインクをする。
ダメだよ。そんな可愛い仕草をしちゃ。
草壁君が好きになったら大変だよ。
この二人が変な意識を持たないように仕向けなくちゃ。
「草壁君と~沙耶ちゃんて~とてもお似合いなの~」
何ちゅうことを本人たちに言い出すんじゃい!
「沙耶ちゃんはいつまでも私の見方だよね?」
思わず指を組んでお願いしてしまう私なのだった。




