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ノーマジック・ノーライフ~魔法世界の最強無能者~【改題】  作者: 雷星
魔界の無能少年

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第千四百三十五話 天軍(一)

 天使たちの歌声が眩いばかりの光を氾濫はんらんさせ、破壊の奔流ほんりゅうが氷漬けになった幻魔たちを爆砕していく光景は、決して戦いと呼べるものではなかった。

 蹂躙じゅうりん

 極めて一方的な展開であり、情けも容赦ようしゃもあったものではない。

 天使を名乗るものたちが、そして、その名に相応しい光り輝くものたちがすることとはとても思えなかったが、断末魔すら上げることなく絶命していく大量の幻魔と、それによって発散する膨大な魔素の渦の中、幸多こうたたちにできることなどあろうはずもない。

 天使たちの攻撃を止める意味もなければ、この蹂躙によって幻魔の数が減ることそれ自体は人類にとって喜ばしいことに違いないのだ。

 そして、魔法の余波は、幸多たちには届かないという事実。

 白銀の熾天使してんしメタトロンがいまや幸多の目の前に降りてきていて、強力無比な魔法の結界で四人を包み込んでいたからだ。

 メタトロン自身は戦闘に参加せず、配下の天使たちに幻魔の排除を命じているだけだ。

 だが、天使たちに排除できるのは、妖級以下の幻魔だけであり、ガルーダとアプスーには攻撃の手が及ぶことはなかった。

 異形の鬼級幻魔は、上空と海上で巨大な氷像となったままだ。

「これは……」

「幻魔は、人類の天敵。人類にとってたおすべき敵であり、幻魔殲滅を掲げるのはきみたち戦団自身だろう。故に、我らが手を貸したまでのこと。それ以上でもそれ以下でもない」

「はっ……だとしたら、鬼級どもも滅ぼして欲しいもんだな」

「この戦いの結果、ガルーダとアプスーは、その勢力のほとんどすべてを失うことになる。殻主かくしゅたる己以外の幻魔が命を落とせば、勢力として維持することもままならず、隣接する数多くの〈クリファ〉から攻め込まれ、滅び去る羽目になるだろう」

「どうかな。ガルーダとアプスーは協力関係にあるみたいだった。力を合わせ、周囲の〈殻〉を平らげる可能性だってあるんじゃないか?」

「ならば、既にこの近海を併呑へいどんし、大勢力となっていたはずだ。だが、そうではない。ガルーダもアプスーも弱小勢力のひとつに過ぎないのだ。故に、きみたちを看過かんかできなかった」

 幸多を見据みすえていたメタトロンの蒼穹そうきゅうの如き目が、ガルーダとアプスーの氷像へと移される。猛禽もうきんと人間が融合し、極彩色の翼によろわれたような姿の鬼級幻魔ガルーダと、頭髪を触手の如く変質させ、鱗の鎧を纏う鬼級幻魔アプスー。

 いずれ劣らぬ神話の存在の名をかたるものたちは、威圧感に満ちた神像の如く、凍りついた世界に存在している。

 その周囲一帯に巻き起こる光の乱舞が、彼らの配下の幻魔を一体残らず殲滅していく様は、なんといっても苛烈で、破壊的だ。

 天使たちの唱和だけが、その破滅的な光景をどこか美しいもののように感じさせた。

 そこに矛盾があり、混沌があるのだが、そんなことはどうでもいいことだ。

「大勢力ならば、見逃した……と?」

「事実、きみたちの進路上に数多あった巨大な〈殻〉のどれひとつとして、反応を示していない。伊佐那美由理いざなみゆり星象現界せいしょうげんかい、そして星神力せいしんりょくの残滓にその〈殻〉を侵蝕されているにも関わらず、だ」

 もっとも、と、メタトロンは、海の彼方の大陸を見遣りながら、いった。夕闇が迫り、星々さえも輝き始めた空の下、先程まで確かに存在した異形の塔の残影を視る。もはや影も残っていないそれは、その落下点とその周囲のみならず、大陸全体に多大な影響を与えたはずだ。

 その余波がこの海にまで及んでいることは、いうまでもない。

「ヴァシュタリア皇国おうこくを名乗った蒼陽そうよう銀河の幻魔たち。あれらの地球への到来のほうが、大陸内外の〈殻〉に与える影響が大きいのは当然のことだな」

「……どうして?」

「うん?」

 幸多の疑問の声に、メタトロンは彼に視線を戻した。褐色の瞳に映る白銀の熾天使の顔は、いつものように冷厳れいげんだ。感情の片鱗すら見せない、凍りついた顔。

「どうして、そこまで知っているんです?」

「理由は簡単だ。我々天軍は、常に地上の動向を見守っていて、なにかしら大きな出来事があれば、そちらに注視し、情報一つ聞き漏らさぬようにしているからだ。超銀河道ちょうぎんがどうなどと名付けられたあの幻魔の塔が降ってくる直前、あれがこの星に接近してきたときには、対応策を考えなければならなかった。我々は人類の守護者。あれの地球への衝突が、もはやわずかばかりの人類を滅ぼすような事態になってはならない」

「わずかばかり……か」

 神威かむいは、メタトロンの言葉を噛みしめるようにつぶやく。

 メタトロン、引いては天軍の情報量がどれほどのものかはわからないが、少なくとも戦団の情報網よりも遥かに広範に渡ることは間違いない。というのも、戦団本部は、未だ、あの幻魔の塔についての確たる情報を手に入れていないはずだからだ。

 美由理曰く、第五霊石結界フィフス・セフィラからでも肉眼で確認できるほどだったというが、宇宙の果てまで到達するほどの長大さ、巨大さを誇る構造物だったのだ。

 さもありなんというべきか。

 だが、それが一体なんであるかなど、第五霊石結界や戦団本部では想像するしかない。そして、想像力だけでは、どうにもならないことばかりだ。

 蒼陽銀河、ヴァシュタリア皇国、超銀河道――それらの名称を知ったところでどうなるものでもないが。

「故に、万が一にも人類生存圏付近に落下しようものならば、ロストエデンでもって防ぐつもりでいたのだ」

「ロストエデン……」

「我らが天軍の拠点にして、天使長ルシフェルが〈殻〉のことだよ。そして、いまからきみたちをそこへ連れて行くつもりだ」

「はあ!?」

「天使たちの〈殻〉へ、だと?」

「どういうつもり……?」

「どうもこうもあるまい。きみたちは、このまま無事に央都へ帰ることができるとでもいうのか?」

 そしてメタトロンは、周囲を見回した。美由理が仕掛けた時限爆弾めいた星神魔法によって氷漬けになっているのは、この海域だけではない。美由理が第五霊石結界上空から超銀河道へと至る道中、その進路上の各所に仕掛けられたものであり、その直線上のすべてが凍結状態にある。

 しかし、だ。

 ガルーダとアプスーこそ凍結することに成功したものの、ここからさらに南下し、央都に辿り着くまでにどれほどの〈殻〉の上空、あるいは〈殻〉の真っ只中を通過しなければならないのかわかったものではなく、それら〈殻〉の主たる鬼級幻魔たちが、突然の氷結現象に反応しない理由がなかった。

 そして、〈殻〉の構造物や配下の幻魔たちがなぜか突然氷漬けになったのだ。

 それこそ、超銀河道の影響ではないか、と考えるものがいたとしても不思議ではない。

 が、その凍りついた巨大な直線を飛んでくる人間たちがいれば、原因は明らかであり、それを目の当たりにして捨て置く殻主がいるだろうか。

 メタトロンのいうとおり、余程大勢力の〈殻〉ならば黙殺することもありうるのだろうが。

「できまい。伊佐那美由理は力を使い切り、天空地明日良てんくうじあすらも消耗し過ぎている。ましてや神木こうぎ神威は戦力たりえず、皆代みなしろ幸多はいわずもがな。ここから先、数多の〈殻〉が待ち受けているのだ。央都に辿り着く前にひとり残らず戦死するのが関の山」

 メタトロンの分析に明日良は歯噛みし、神威も渋い顔をした。幸多も反論できなければ、美由理にも異論を挟む余地はない。

 だれもが大量の〈殻〉を無傷で通過できるなどと考えてはいない。

 レイライン・ネットワークが使える場所まで辿り着ければ、そこからは幸多が全員を抱え、全速力で駆け抜ければよくなるのだが、そこに至るまでが遠すぎる。

「なればこそ、おれがつかわされた」

 メタトロンは、幸多の目をじっと視ていた。その蒼白の目が、雲ひとつない晴れ渡った空を想わせるものだから、幸多は、言葉を失うのだ。その瞳の中の空に意気を吸い込まれるような、そんな感覚。

 光の氾濫の中、熾天使が差し出してきた手を幸多が無意識に掴んだのも、そのためだったのかもしれない。

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