460 予選三日目――おねえちゃん、うちら夕飯まだらてー、なんか作ってー!
おっはー!
いやあ、オナモミ妖精くんよ、昨夜はとんでもなかったぜ。
なんと本物の逆バニーがいたんだ。
モルガーナダンジョンって、もしかして女の子型モンスターばっかり出てくる系ダンジョンなのか!? 昔のエロゲーみたく――とか思ったけどそうじゃなかった。■■■■■男爵邸で催されてたパーティーの派遣コンパニオンの逆バニーで、倒したら捕獲・お持ち帰りOKの野生の逆バニーじゃなかったんだ。残念ながら。
――え? 逆バニーってのはだな、普通のバニーガールとはコスチュームが違ってだな……。
一夜明けて、おれ――こと、ヤマダは練兵場でモルガーナ公爵のルール説明を聞いている。内容は昨日も聞いたご新規さん向けのやつなので、適当に聞き流している。
「――ふあぁぁ、面倒だねぇ。今頃第一チェックポイント到着のヤツらは、やる気あんのかい?! まあいいさ、記念メダルは一個100万G!! この後、そこの仮設店舗で販売開始さ!! 払うもん払えば、一人何個だって売ってやるよ、以上だ!!」
――な、なにぃ!? マジかよ……レナリス婦人とキャプティンが昨夜そんなことに? ごくり……。
キャプティンのスキル【キャラクリ】で顔を変えて、二人で夜の街へ……!? スキル【マジックミラー】で……ってまじか……!! たまたま通りかかったファンの皆さんに、ダブルピースしながら「キミたぴぃ~ごめんんん~」とか……まじか……!! レナリス婦人の「あなたぁ、ごめんなしゃい~」よりも、なんかちょっと股間にくるのは、おれがファンの皆さんにシンパシーを感じているからだろうか……?
二人の腹には、地下歓楽街の王アマルスキン・カムリィに付与された【淫紋】があったんよな……、すげぇな【淫紋】……!!
――な、なにぃっ!? 撮影したの!? オナモミ君、撮影しちゃったの!? ……い、いやぁ、さすがにそれは……犯罪臭が……ううっ……いや、顔を変えてるなら、ワンチャン有りか……?
しかし、昨夜そんなことがあったっていうのにレナリス婦人もキャプティンもすました顔しやがって……! 顔面包帯男スプリングさんなんか、帰って来たの明け方近くだったっていうのに! まあ、街中ではち合わせになんなくてよかったのかもしれないけど。
なお、昨夜遅くに二人の【淫紋】は消えたらしい。
多分、ジャヤコディさんがアマルスキン・カムリィをぶっすりやったタイミングだと思う。
なにも殺さなくてもいいのに……とその時は思ったが、聞けば何人もの女性に【淫紋】を付与して身体を売らせたりお金を貢がせたりしていたそうなので、なら死んでも仕方ないかーと、すぐに考えを改めた。
世に蔓延らせてはいけない悪はいる、それをどう排除するかはその時できる人ができるようにやるしかないんじゃないかとおれは思う。岡っ引きだったり、水戸の御老公だったり、仕事人だったり、悪を排除してくれるなら、襟足の長いパラディンだって別にいいとおれは思う。
すまし顔のオトナ女子二人に比べてキャサリン嬢が初々しい。
あの憔悴しきった顔、きっとウィリアム君のことが心配で眠れなかったに違いない。
そのウィリアム君だけど、昨夜は領主館で秘密のアルバイト予定だったが、キャサリン嬢がさらわれたと聞いて、勝手に領主館を抜け出したそうな。スキル【動物変化】でコウモリに変身して、■■■■■男爵邸に侵入していたというから驚きである。圧倒的、光の主人公ムーブ! フォーリンさんをダイヤモンドで買収してなんだかんだ他人任せにしてしまったおれとしては恥じ入るばかりである。
ウィリアム君がキャサリン嬢救出にどの程度貢献できたのかは不明だが、逆バニーさんに連れられて地下第二階層に現れた彼を見た時には、ちょっと見ない間に男になりやがって! と思ったものである。男爵邸で何があったか、彼は多くを語らないけれど。
キャサリン嬢救出後、ウィリアム君は再び領主館に戻った。そして何事もなかったかのように、さっきおれ達と合流している。
モルガーナ公爵側でもなにかトラブルがあったようで、ウィリアム君が領主館を抜け出していたことに気付かれていなかったらしい。領主館で彼は何もしていないが、バイト代はきっちり貰えたとのこと。
「ふぁぁ~い! わたくしからぁ、少しだけ捕捉の説明をいたしますわぁ~。説明が終わったらぁ、記念メダルの販売をはじめますね~」
いつの間にかモルガーナ公爵の説明が終わり、今はエマ様の捕捉説明が始まっている。
三日目ともなると、なんだかすごく緩くて適当な感じだ。てか、とても眠そうだ。
昨日は参加者からヤジが飛んだりして、公爵に「アンタらに100万Gの価値があんのかい!?」的なことを言われて怒られたり、下品なヤジを飛ばした参加者が不敬罪で捕まったりするくだりがあったけど、今日はそれもない。そもそも聞いている参加者の人数が昨日の半分にも満たないから、そういう集団心理も働き難いんじゃないかと思う。
ともかく、今日はさっさと記念メダルを手に入れて、午前中の内に第二チェックポイントに向けて出発したいところである。
***
結局昼近くまでかかって、やっとおれ達は記念メダルを手に入れることができた。
地下歓楽街の王アマルスキン・カムリィの生首を懸賞金一千二百万Gに換金したおれだったが、レナリス婦人が「わたくしと夫の分は、昨夜夫が仕留めた分の懸賞金で足りるので大丈夫です」と言うので、キャサリン嬢、ウィリアム君、キャプティン、シャオさんと自分の分、それから念のためリスピーナさんの分で計6個の記念メダルを600万Gで買った。
それでも600万G残るので、ムシャウジガールズ――こと、セリオラ様とグレイス様がやったように、飛竜の運送業者を雇って第二チェックポイント「ケルピーランド」に直行だ! と思ったのだが――、
考えることは皆同じのようで、飛竜便は明後日まで予約でいっぱいとのことだった。
「走るしかないですかね」
――と、おれが言うと、
レナリス婦人と顔面包帯男スプリングさんは、お互いに耳元でなにごとかを囁きあって相談を始めた。かなり嫌みたいだ。
キャサリン嬢は「ウィル、飛竜に変身できませんの?」と言って、ウィリアム君を困らせている。どうやら、スキル【動物変化】で魔物には変身できないらしい。
船があればなあ――とキャプティン。確かに、ミーム川を下って海に出られれば、海沿いにあるという「ケルピーランド」には近いのかもしれない。ただこの辺、ミズチが棲息してるせいか漁船一隻見当たらないんよな。
「なんや、お困りのようですなぁ」
例によって、パラディン№8のジャヤコディさんである。
いつの間にか、おれ達の傍を歩いていたらしい。
キャサリン嬢とウィリアム君とは昨夜顔を合わせており、その時に、「それほど仲良くない友達」とだけ説明してあるが、オトナ組とは初対面だったはず。
レナリス婦人に「どちらさまですか」と聞かれたので、「こちら、ネムジア教会関係のジャヤコディさんです」と紹介した。
おれ達がジャヤコディさんに案内されてやって来たのは、モルガーナダンジョン地下第四階層。
そこは、だだっ広い平原だった。
はるか遠くに、円柱状の岩山が天井を支えるように突っ立っているぐらいで、基本平らなフロアのようだ。
地下第三階層から四階層へ、おれ達が通ってきた所謂「正規ルート」とは別に、■■■■■男爵邸の地下から通じる「隠しルート」があるという。
おれ達が向かうのは、そちらの方向。だからといって別に「隠しルート」から男爵邸に潜入しようとしてるわけではない。
■■■■■男爵邸の地下から四階層へ下りて…………ってなんだこれ? さっきから■■■■■男爵、■■■■■男爵って、昨日まではこの男爵の名前を普通に呼んでた気がするのに、なんて名前だったか全然思い出せない……!
――ド忘れってやつか? 痴呆症とかじゃないよね? そんな小難しい名前だったっけか? うう、もやもやする。誰かに聞いてみたい気もするが……、そこまで知りたいか? ■■■■■男爵の名前。もやもやするが……でもまあ、そんなお貴族様と関わることなんて今後もうないだろうし、忘れたら忘れたで別にいいのか? ……別にいいか、■■■■■男爵で。
まーそんな■■■■■男爵邸の地下から四階層へ下りてすぐの場所に、それはある。
「駅だ。本当にあった……!」
屋根のない私鉄の無人駅のような駅舎があり、巨大な貨物列車が停車していた。
地平線の彼方へと線路が一本続いている。
ああ、テンション上がるぜ! 誰も理解してくれないとは思うけど。
貨物列車の屋根の上に、尻尾のある女子が二人立っている。
どうやら、昨日戦ったドラゴン系姉妹っぽいけど、知らない子かな?
……いや、巻き毛の子は昨夜、逆バニーさんにおんぶされてた子だ。彼女もなぜか逆バニーだった。今日はさすがに、タイトスカートに色タイツのきっちりした格好だけど。
もう一人の黒髪の子は多分、初対面のはず……多分。
「巻き毛の子は確かグレーテル。黒髪の子は、エブリィって呼ばれてたかしら」
「僕ら、昨日ここを通ったんです、逃げるとき」
キャサリン嬢とウィリアム君が言った。
もしかして、彼女達とまた戦わなければならないのだろうか? もう嫌なんだが?
ジャヤコディさんが前に出て、いつもの胡散臭い感じで声をかける。
「あのー、フォーリンちゃんおらんの? これ、使うてええて言われてますねんけど」
『ジャヤコディ?』
「せやで」
『姉様は来ない、一生会いたくないって。乗って。発車するから』
黒髪のエブリィさんにそう言われて、肩をすくめるジャヤコディさん。
まあ、フォーリンさんの気持ちも判らないでもない。
ともかく、お許しがでたので、貨物列車に乗り込むおれ達。
エブリィさんと、グレーテルちゃんも乗り込む。
エブリィさんは運転手をやってくれるのだろうか?
グレーテルちゃんは……なんだ?
「エブリィちゃん、運転してくれますのん? フォーリンちゃんから、だいたいの操作は聞いてますけど」
『ダメ。ヘタクソはよく脱線するから。そもそも誰が戻すの、ここに』
『ねえねえ、エブリィ姉様! アタチは、アタチは!?』
『ダメ。ヘタクソだから』
『えー! できるもーん! アタチ、できるもーん! ヤラチて、ヤラチて、ヤラチてよー!』
『ダメ』
確かに、上りも下りも線路一本のこの貨物列車は、誰か戻す人がいないと、行ったきりになってしまう。ここは、慣れてるエブリィさんにお任せするべきだろう。脱線とかおっかないし。
――さて、この貨物列車だけど、海辺の大都市「アルザウス」まで直通らしい。
なんと、ここモルガーナダンジョン地下第四階層はアルザウスダンジョンの地下第五階層と地続きとのことで、どこぞから船で密輸されてくる”中毒性のある粉薬”を、この貨物列車によって■■■■■男爵邸へ輸送しているというわけだ。
これら、昨日の夜、フォーリンさんに張り付いたジャヤコディさん分身体の調査によって判明したことである。
大きな港のある「アルザウス」まで行って船に乗れれば、明日には第二チェックポイント「ケルピーランド」に到着できるはず。
というわけで、出発進行である!
異世界の貨物列車は魔力で動くと聞いていたのだが――、
エブリィさんは、列車全体を【ドラゴンフィールド】の青いエネルギーで包み込んだ。
ぶおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉんんん――!!
お、おお……!! すごいぞ異世界列車!! 【ドラゴンフィールド】の重力操作で新幹線並のスピードと安定感――!!
「ぇえ~ご乗車ありがとうございます! この電車はモルガーナダンジョン発”中毒性のある粉薬”運搬用貨物列車アルザウスダンジョン行きでぇ~す! ナンツッテ」
お馴染みの鼻にかかった独特の発声、久しぶりの列車でテンションが上がったおれは、ついつい持ちネタの「車掌さんのマネ」を空気も読まずに披露してしまった。
……フフッ、構うものか! 誰の理解も得られずとも――今、万感の想いを込めて、列車は行く!
「ぶほっ!!」
――え? ウソ!? ウケた!?
かつておれが職場の忘年会で一度だけ披露してややウケだったこのネタに、まさかこんな異世界で手応えを感じる日が来るなんて……!!
てか、今の声って顔面包帯男のスプリングさんか? 何気に、声聞いたの初めてなんだが……!?
思わずその包帯顔をまじまじと見つめたら、目を逸らされてしまう。
代わりに、隣にいたレナリス婦人と目が合って、にっこり微笑まれてしまった。
……ふむ。ここは、「ドア閉まりま~す」とか「優先席のご案内」とかで畳みかける局面か? と口を開きかけたが――、
「そらアカンで、ヤマダはん。雑にやったらギャグが死んでまう」
――と、ジャヤコディさんに言われて止めておいた。
言われたときには少々ムカッときたが、思い返してみると確かに勝率は低かったかもと思わざるを得ない。
『ねえねえアンタ、チールの時の子だよね? アタチのおっぱいにチール貼ったでちょ?』
「え! し、知りません! 僕じゃないです……ひ、人違いです……!」
ふと見ると、巻き毛のグレーテルちゃんにウィリアム君が詰め寄られていた。
あの子、なんで付いてきたんだろ? てか、「おっぱいにチール」ってなんだ?
目で助けを求めるウィリアム少年を無視して、キャサリン嬢は窓辺で流れる景色を眺めているキャプティンのもとへと歩み寄る。
孤立しそうなメンバーへの気遣いか? 昨夜、■■■■■男爵邸で彼女に何があったか知らないけれど、どこか険が取れて、ちょっと大人になった印象すらある。
「浮かない顔ですわねキャプティン・アザリン様、昨日のことをまだ……?」
「ああ、いえ……そのことはもう、ぜんぜん。心配無用です。ムフフ、むしろ乱れがちだったホルモンのバランスが整った感までありますねー」
「そ、そうですの? 言われてみれば、確かになんかツヤツヤしてるような……」
「あーそうですねー、もしもキャプティンの表情が浮かない感じに見えたとしたら、それはこれから向かう先――アルザウスのことですかね? ……キャプティンが多感な少女時代を過ごした忘れ得ぬ……そして、捨てきれぬ故郷アルザウス」
「ほう! キャプティン、アルザウスの出身やったんですか。親御さんは何してはりますのん?」
二人の会話にジャヤコディさんが口を挟んだ。
「あーまー、時々、漁師? みたいなー?」
「えー! だったら、『ケルピーランド』の近くまで船で送って貰えたりしませんかね!?」
背中からグレーテルちゃんに抱きつかれたまま、ウィリアム君も会話に加わる。
キャサリン嬢から冷ややかな視線を浴びているが、船の件は皆が聞きたいところ。
「うーん、どうですかねー? 頼んではみますけどぉ……、船はお姉ちゃん次第なんですよねー」
……船はお姉ちゃん次第? どういう事だろう? お姉ちゃんが船長なのか? てか、キャプティン、お姉ちゃんいるんだ。見てー!
『ねえねえウィル、「ケルピーランド」ってなにさ?』
「有名な巨大ドーム型リゾート都市だよ。スタジアム、劇場、遊園地、カジノとか、いろいろまとまってあるんだ。一年中、何かしらコンサートとかイベントとかパレードとかやってて、僕も一回だけ家族と行ったことあるけど、すごく楽しかった」
いつの間にかウィル呼びになっているグレーテルちゃんからの質問に、なかなかの熱量で答えるウィリアム君。
どうやら、本当に楽しい場所みたいだけど、キャサリン嬢のご機嫌は大丈夫か少年?
そんなウィリアム君の熱量にあてられたのか、グレーテルちゃんは運転席のエブリィさんの元へと走った。
『エブリィ姉様、「ケルピーランド」よ! アタチも、「ケルピーランド」行きたい! 劇場とか遊園地とかあって、毎日コンサートとかパレードとかやってるの! ねえねえ、行ってもいいでちょ!? いいでちょ!?』
『ダメ。貨物列車戻すから』
『ええー、そんなのいつだっていいでちょ!? エブリィ姉様もいっちょに行こう!? ケルピーランド! ケルピーランド! ケルピーランド! ケルピーランド~!』
『……お金が、ない』
『そんなの、オトナのおじちゃんがだちてくれるよー! だから行こー!? エブリィ姉様も「ケルピーランド」行こー!?』
……え? エブリィさんがこっちをチラチラ見ている。
おれが金出すのか? まあ、懸賞金の余りがあるっちゃあるが……。
「しゃあない。ヤマダはん、出したり。お金、持ってましたやろ?」
まあ結果的に、賞金首のアマルスキン・カムリィにトドメ刺したのはジャヤコディさんだから、懸賞金のことについて口出す権利はなくはない。
ただなんとなく、他所様の家の娘さんにお金を出すという行為自体に抵抗感がある。
いやまてよ……、そもそも彼女達って人化したドラゴンじゃねーか。
「……だったらこうしませんか? お金出しますんで、エブリィさんとグレーテルちゃんはドラゴンの姿に変身して、おれ達を『ケルピーランド』まで乗っけてってくれるってことでどうです?」
『嫌! お金を貰って男の人を乗せるのは、エッチなことだから。エッチなことは嫌!』
『アタチ、ウィルだったらいいかもだけどー、アンタはイヤ!』
あわわ……そうなの? エッチなことなの? 二人がおれを見る目、完全に変質者を見る目だ。
「それができるんやったら、こんな列車なんか使わんと、最初からフォーリンちゃんに頼んでるっちゅうねん」
「……それは、エロースンマセン」
おれはふて腐れた。せっかくの貨物列車なのに嫌な気分だ。
いいもんね。そっちがそういう態度なら、金なんか1Gだって出してやるもんか。
そんなちっちゃいおれを嘲笑うかのように、顔面包帯男スプリングさんがレナリス婦人の耳元でなにごとか囁き、レナリス婦人がその声を代弁する。
「お金は、夫が出すと申しております。お二人は、わたくし達を列車で送ってくださってるんですもの、その対価ということで。――ヤマダさん、よろしいでしょう?」
おれは黙ってうなずいた。
そういえば、オウガス殿下とギース君がいなくなったから、もしかしてサブリーダーのおれが繰り上がってリーダーみたいなことになってるのか? ツライ。
『ヤッター!! ありがとう、包帯のおじちゃん!!』
『ありがとう、包帯の人。ケガ?』
「うふふ、大丈夫よ。夫は少し肌が弱いの。でもね、包帯の下の素顔は結構ハンサムなのよ」
静かにその場を離れるおれ。
列車も風呂も、ひとりで味わうのがおれの流儀だ。
今、万感の想いを込めて――(おい、ヤマダーーーっ!!)って、何だ!? オナモミ妖精かよ。どしたー?
(俺サマ達をおいてくんじゃねーよ!!)
あ! ああああ~イカン!! 久々の列車にテンション上がりすぎて、亜空間で撮影中のオナモミ妖精とシャオさんのこと、今の今まですっかり忘れてたわ。
列車に追いつける――わけないか。かといって、今更、引き返してくれとも――言えんな、特に今は。
……スマン、オナモミ妖精。シャオさんにも、ごめんなさいって言っといてくれ。
***
およそ7~8時間後、貨物列車はアルザウスダンジョン地下第五階層の駅に到着した。
そこから地上へダンジョン攻略かと思いきや、なんと地上への直通エレベーターがあった。
エレベーターに乗って地上に出ると、そこはだだっ広い倉庫の中。なんとなく磯のニオイがしたりして、おそらくは港の倉庫なのかも。
従業員詰所みたいな所から、エレベーターの稼働音を聞きつけてガラの悪そうな連中がぞろぞろ出てきて凄んできたが、エブリィさんとグレーテルちゃんの姿を見て態度を一変、急にペコペコし始めて事なきを得た。
外に出ると、もうすっかり夜だった。
多分、午後8時~9時ぐらいじゃないかと思う。
海辺の倉庫街は人気もなく寒々しい。遠くから、酔っ払いの騒ぐ声が聞こえてくる。
スキル【環境適応】のおかげで時々忘れそうになるが、季節は冬。実はとても寒いのである。
「ああー、この辺よく知ってます。キャプティンの実家、結構近いですねー。狭いですけど、よかったらご案内しますー」
とのことで、スプリング夫妻、キャサリン嬢、ウィリアム君、ドラゴン姉妹、キャプティンとおれの計8名は、今夜、急遽キャプティンのご実家でお世話になることにした。
「ワイはここから別行動させてもらいますわ。皆さんのご健闘、お祈りしてます」
そう言い残し、ジャヤコディさんは夜の街へと去って行く。
海沿いを歩くこと数十分。
キャプティンの実家は、なんと港の片隅に停泊している古びたイカ釣り漁船だった。
いや、実際にイカ釣り漁船なのかどうかは定かではない。船上に水銀灯みたいなライトがいっぱい吊ってあるので、そう思ったわけである。
船体の側面の「まんげつ丸」という船名がかすれて「まんけつ丸」になっているようだが、指摘するのは止めておこう。
岸から渡された細い板を身軽に渡って、キャプティンが乗船した。
おれ達も、彼女に倣って順番にその板を渡る。
「おとうちゃん、ただいまー! 友達連れてきたすけ、今夜泊まってってもらうねー!」
「なっ!? アザリンじゃねぇか! こんげ夜更けに、いったいどうしたんだて!? 友だちって……おいおい、何人おるんさ? こんな狭ぇ船のどこで寝かす気なんだよ!?」
髪の毛のない、キャプティンのおとうちゃん。
言い換えるなら、髪の毛のない中年漁師である。
少しお酒も入っているようだが、別の街で暮らしている娘が夜更けに突然尋ねてきたら、「いったいどうしたんだて!?」となるのも無理はない。
……すんません。大勢で尋ねて、すんません。
キャプティン込みで8人です。
ちなみに、うち3人は貴族で、うち2人はドラゴンです。
「おねえちゃん、うちら夕飯まだらてー、なんか作ってー!」
「うちらって……アザリンちゃん、お友達も一緒なん? うどんぐれぇしか無ぇけど……って、キャーッ!! お、男の人!? なんで知らねぇ男の人おるんさ!? む、無理……無理無理無理らてぇぇー!!」
美人だが明らかに陰キャっぽいキャプティンのおねえちゃん。
こっちをちらっと見た瞬間取り乱して、奥に引っ込んでしまった。
どうやら、男性が苦手らしい。
「ありゃ、どうにもなんねぇぞ。俺ぁ知らんわ」
「相変わらずらね、おねえちゃん。仕方ないね、うどんはうちが作るすけ。みんな、そのへん適当に座って待っててください」
キャプティンが台所に行ってしまったので、おれ達は言われたとおり、適当な場所に座って待つことにした。
うどんができあがるのを待つあいだ、レナリス婦人がおとうちゃんに事情を説明する。
「勇者選考会だと? なんでうちのアザリンがそんげもんに出るんだて。あの子の仕事は、確かアナウンサーだって聞いてたんだがの」
「詳しくは本人に聞いて欲しいんですけど、なんか仕事上の悩みとかあるみたいですよ」
そう口を挟んだおれを、おとうちゃんはジロリとにらみつけて続けた。
「ま、アンタさんと結婚するとかそんげ報告じゃねぇんなら、俺ぁなんだっていいて。だども、明日船出せるかどうかは、ミカリン次第らろ」
ミカリンというのはおねえちゃんの名前だろう。
キャプティンも、おねえちゃん次第みたいなことを列車で言っていた気がする。
ちゅるちゅるちゅるちゅるちゅる。
キャプティン作の煮込みうどんをいただくおれ達。
ほほう! なかなか美味いじゃないか。
しかし、お箸が使えるのは、スプリング夫妻とキャプティンとおれ。
キャサリン嬢とウィリアム君、ドラゴン姉妹はフォークで四苦八苦している。
結局おねえちゃんは、自室に引きこもったまま一度も姿を現していない。
一行の腹がふくれると、キャプティンが話し出した。
「先ず、誤解があると思うのですけどー、この実家の船はもう動きません。浮かんでますけど、もう航行には耐えないのです。おとうちゃんとおねえちゃんが漁に使っている船は、この船とは別の船になります。早い話ー、おねえちゃんのスキル【船召喚】で召喚した船を使って漁をしてるんです。だから、明日、船が出せるかどうかはおねえちゃん次第というわけなんです」
なるほど、【船召喚】なんてスキルがあるのか。
まあ、駆け出し三人組のマイちゃんのスキル【携帯ハウス】なんて家召喚だしな。
ともかく、おれ達を「ケルピーランド」まで運べそうな船はおねえちゃんのスキル。
皆がうなずくと、キャプティンは話を続ける。
「――で、おねえちゃんですけど、あんな感じで、男性がすごい苦手……というか、こじらせまくって恐怖症みたいなことになってまして。今夜、キャプティンの方でできる限りの説得は試みるつもりですが、最悪、男性陣にはご不便をおかけすることになってしまうかもということなのですー」
『ねえねえ、おとうちゃん! アタチ、男の子達は走って行けばいいと思うんでちゅ!』
「がははっ、だよなぁ! グレーテルちゃんは、ほんにかしこいのぉ!」
『おとうちゃん、お酒、どうぞ』
「おっとっと、ありがとよ〜、エブリィちゃん! うちの子らも、昔はエブリィちゃんみてぇにかわいかったんだけどなぁ」
そしてなぜか、おとうちゃんと妙に仲がいいドラゴン姉妹。なんだこれ?
そんなことより、具体的にどんな不便がおれ達男性陣に?
「えー具体的にはー、男性陣だけ小舟に分乗してもらって縄で引っ張るとかですかね? あ、ウィリアム君にイルカとかクジラとかに変身してもらって、そっちに乗ってもらうとかー?」
「……確か海には、大海獣とかいう凶暴な生き物が棲息してるって聞いたことあるんですけど?」
「そんげらよ、海なめちゃいけねぇて! 岸から離れた黒ぇ海んとこは、あいつらのテリトリーらろ。ちっちぇ舟なんぞ、丸呑みにされっぞ」
現役漁師おとうちゃんの言葉は説得力が違う。
やはりどうあっても、キャプティンには、おねえちゃんの説得を成功させていただきたい。
そして、そのためにおれのできることは、コレしか思いつかん……!
おれは、キャプティンの前に10万G硬貨を10枚積み上げた。
「ヤマダさん、これは……?」
「100万G! キャプティン、こいつをおねえちゃんに食らわせて、無理無理言ってる口を黙らせて欲しいっす」
サブリーダーとして、メンバーの命を守るための決断。
おれを変質者扱いするドラゴン娘に貢ぐ金はねぇ!
今こそ、オトナの財力をふりかざす時!
ガタッ――100万Gを見て、おとうちゃんが立ち上がった。
「やっぞ、アザリン……!」
「え……う、うん」
10万G硬貨10枚を掴み、おとうちゃんとキャプティンは、おねえちゃんの部屋へと向かった。
あの父と娘なら、きっと説得を成し遂げてくれると思わせるスゴ味がある!
てか、何とかしてくれ……!
関西弁、新潟弁翻訳にAI使用




