七夕(夏緋)
コミカライズ5巻が7/31発売です!夏緋と楓のエンド、供給が半端ない描き下ろしをぜひ浴びていただきたいです!
今日は七夕だ。
昇降口には笹が飾られ、色とりどりの短冊が揺れている。
近くに置かれた机には、『自由に書いてください』という札がついた短冊の束があった。
これは生徒会が企画したものらしい。
ちなみに発案したのは、ぼっちの会長ではなく他のメンバーだ。
会長は学校に企画の承認を通しただけである。
放課後。いつものように生徒会室へ向かう僕は、取っておいた三枚の短冊を手にしていた。
生徒会室に入ると、会長の姿はなく、そこにいたのは夏緋先輩だけだった。
長い足を優雅に組み、いつものように椅子へ腰掛けている。
「夏緋先輩、短冊に願い事を書――」
「書かない」
「最後まで言わせてくださいよ」
一緒に書こうと楽しみに取っておいたのに冷たい。
まあ、「お願いごと、何か書こう」とわくわくする夏緋先輩を見られるとは思っていなかったが、受け取るくらいしてくれてもいいのに。
「いいですよ、一人でやるから!」
会長の分は一応置いておくけど、あの人も「短冊に願うことなどない。自分で実現すればいいだけだ」とか言いそうだよなあ。
もう三つ書いちゃおうかなー!
生徒会室に置いてある会長のボールペンを持ってきて、短冊と向かい合う。
「なんて書くんだ?」
「いっぱいゲームができますように」
「子供か」
ぱっと出てきたのがこれだからいいじゃないか。
僕には三つも短冊があるんだから。
「あとは……やっぱ『兄ちゃんが健やか&幸せに暮らせますように』かな」
そしていつまでも春兄と励んでください。
「お前が苦労をかけなければ叶うんじゃないか」
「ちょっと黙っててもらえますー?」
一緒にやらないのに、口だけは挟んでくるんだから!
気を取り直して最後の短冊を手に取る。
残りの願いは何にしよう。
うーんと熟考する僕を、夏緋先輩が薄ら笑みを浮かべて見ている。
「やっぱり何か書いてくださいよ」
「断る」
見ているくらいなら書け、と突き出したのだが、受け取る様子がない。
「じゃあ代理で書きますね。『一生兄貴と一緒にいられますように 青桐夏緋』っと」
「おい」
書き始めると、夏緋先輩が短冊を奪おうと手を伸ばしてきた。
腕でガードしながら書き進め、なんとか完成させた。
言葉通りの願いが書かれた短冊を満足げに眺めていると、不服そうにしていた夏緋先輩がニヤリと笑った。
こういう顔をするときは、ろくでもないことを思いついたに違いない……!
警戒していると、夏緋先輩が机に置いた短冊の『兄貴』の部分をトントンと長い指で突いた。
「ここをお前の名前に変えるなら、表に出してもいいぞ」
「は? 兄貴の部分が僕……って、はあ!?」
夏緋先輩が一生僕と一緒にいられるように願っている短冊になるのですが!?
正気ですか!?
さては、そんなことはしないだろうと高を括り、僕を照れさせようとしているな!?
「い、いいですよ! ほんとに出しますからね!」
「ああ。好きにしろ」
「ほ、ほんとに出してきますから! 一番目立つところにつけてやる!」
そう意気込んで兄貴の部分を訂正しようと、少し線を引いたところで気がついた。
「……はっ! これって……どう見ても僕の字! 結局恥ずかしいの、僕じゃないか!」
僕が夏緋先輩になりきり、自分と一生一緒にいたいと願っていることになる。
痛すぎる、恥ずかしすぎる!!
「気づいたか」と笑っている夏緋先輩に猛抗議しようとしたところで、生徒会室の扉が開いた。
「騒がしいな」
「会長! あっ」
会長の顔を見た瞬間、仕返しの方法を思いついた。
「これ、夏緋先輩のお願いです!! 僕が代理で書きました!!」
「おい!!!!」
兄貴と一緒にいたい夏緋先輩の短冊を、瞬時に会長へ手渡す。
夏緋先輩が本気で止めようとしている声がしたが、僕の勝ちだ!
短冊を読んだ会長が片眉を上げている。
「情けない。俺の上を行く、ぐらい書け。そもそも『願いごと』をしているようでだめだな」
そう言って夏緋先輩に短冊を渡した。
さっき考えていた通りのことを言ったなあ。
僕の『会長解像度』高すぎる。
「こいつが勝手に書いたんだよ!」
「……ところで、俺のところに訂正の線が引かれているが、何と書き直そうとしたんだ?」
「!」
どうして気がついてしまうんだ……!
また笑みを浮かべた夏緋先輩が目に入り、形勢の不利を悟った僕は、夏緋先輩の手から短冊を奪った。
「これは処分しますねー! ほかの短冊、笹につけてきます!」
逃げるように生徒会室を飛び出したのだった。
くそー! 勝ち逃げできると思ったのに!
親しい人以外、僕と夏緋先輩の字の区別なんてつかないだろうし、もうこの短冊をつけてやるー!
※本当につけましたが、夏緋がこんなことを書くわけないので、字を知らなくて央が書いたと周囲にはバレました。あと、訂正線が憶測を呼ぶことになりました。
昔SNSに書いた佐々木さんの七夕話の央織姫編。
『央総受け』を掲げる佐々木さんの話に、彦星の楓がないのはおかしいので追加しました。
※
「天地君、今日は七月七日――。彦星と織姫が一年に一度会える七夕ね。あなたが織姫の話をしましょう」
「……はい?」
「どの彦星がいいのか選んでね」
「彦星を……選ぶ??」
「天の川に橋を架けるのか、はたまた神様と交渉するのか……。とにかく、あらゆる力を使って、一年に一度という制約を消滅させる彦星と――」
「もしかして、会長のことを言ってる?」
「さすが、察しがいいわね。じゃあ、次ね」
「……まあ、聞くか」
「 『七夕以外もお前が天の川を渡って来い』と言いつつ、自分が必死に渡って迎えに行き……でも、必死感を隠して涼しく担いで自分のところに連れて帰る彦星と――」
「夏緋先輩だろうなあ。……本人とあまり話していないはずなのに、なんでこんなに解像度が高いんだ?」
「一度会ったら離さない、引き離すなら神だろうが何だろうが始末して天の川に流してや――」
「最後まで聞かなくても柊さん一択……」
「『せーので渡ろうよ!』と持ち掛け、そんな危ないことはさせられない! 待っていてくれ! と必死に渡ったところを『捕まえた』とぎゅっと捕獲され、まんまと乗せられたことを悟る――」
「楓だな」
「どの彦星にする? おすすめは『みんなで仲良く』よ」
「無理です。やっぱり彦星と織姫に謝ってくれ」




