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文明の樹  作者: 小息片刻 / ショウソクヘンコク (田中俊)


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第二章 濁流(上)

記憶の濁流が、堤を切ったように押し寄せてきた。

第一の波は、この世界そのものの記憶だった。

一片の星雲が、引力によって螺旋を描きつつ収斂していく。

塵は塵を引き寄せ、岩は岩と衝突し、飛び散った破片は数百万年にわたる星の雨となる。衝突は止まず、天体の塊は膨らみ、煮えたぎり、星全体が灼熱のマグマの海へと沈む。それから長い沈黙の果て、ゆっくりと地殻を纏い、冷え固まっていく。

焦げた地殻の上に、この世最初の雨が降り注ぐ。

雨粒はまだ余熱を帯びた岩盤に叩きつけられ、激しい音を立てて白い霧となり、昇り、また落ちる。これが百万年、また百万年と繰り返され、生命なき世界へ降り続けた。低地には次第に水が溜まり、細流が集い、最初の海が形作られた。

海は、この星が開いた最初の瞳であり、静かに星空を見つめている。瞳の奥に、命の最初の吐息が漏れ、その底で原初の生命が蠢き始める。この瞬間から、薄暗い海水の底に、捕食と存続の法則がひっそりと目覚める。食うか、食われるか――このあと四十億年、この法則は一字たりとも書き換えられない。

それから、観客のいない、あまりに緩慢で静止に近い叙事詩が始まる。

緑藻が海域を染め上げ、やがて天穹の姿を塗り替えていく。毒に満ち濁った大気は少しずつ置き換えられ、澄んだ青空へと生まれ変わる。古き群れは時の流れの中で枯れ、新しい命がこの変化を糧に繁栄を極める。海の中に甲殻を纏うものが現れ、やがて体内に骨格を持つ生命が生まれ、骨格が血肉を支える。脊椎を持つ生き物が陸へと這い上がり、太古の荒砂に最初の足跡を刻む。大地は広大な林海を支え、樹冠は丘陵を越え、緑の領域が初めて水の境を越えて広がっていった。

虫が先に翅を震わせ、虚空を切り裂く。続いて翼膜を持つ生き物たちが現れる。名もなき無数の巨獣がぬかるんだ沼地を踏みしめ、その重々しい足音は雷鳴のように大陸を揺るがし、やがて群れごと時代の亀裂へと堕ち、虚無の中へ消え去っていった。

この世界は幾度も覆された。天火が降り、極寒がすべてを封じ込め、海は砂漠へと退き、砂漠はまた海底へと沈んだ。どの災厄の後にも、深海からは再び泡が浮かび上がり、命は廃墟の底から這い出て、一代また一代と複雑に、逞しくなっていった。

四十数億年の歳月が、こうして駆け抜けていった。

虚無の中から凝結したばかりのこの世界にとって、命の目覚めは、長い長い静寂の最後に訪れた一瞬の火花に過ぎない。

視線は、つい先ほどの生と死の追跡劇へと落ち着いた。

恐竜たちは、大真面目にその役割を演じていた。草食のものは新鮮なシダの葉を味わい、肉食のものはあたりを窺い、夕餉を探している。無数の歳月が待ち望んだ、その午後。生も死も、取るに足らなかった。


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