第9話 伸びる首と風の刃
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**東京都葛飾区・住宅街**
**午前二時十分**
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ろくろ首の首が伸びる。
屋根の上から。
電柱の横を通り。
そして――。
蓮の目の前まで。
「食べてあげる」
大きく開かれた口。
鋭い牙。
「……気持ち悪いな」
蓮は一歩後ろへ下がった。
ろくろ首の顔が追ってくる。
さらに首が伸びる。
「どこまで伸びるんだよ……!」
蓮は刀を振った。
ザンッ!
首を斬りつける。
「ギャッ!」
ろくろ首が悲鳴を上げた。
けれど、首は止まらない。
傷口から血を流しながら、さらに伸びてくる。
「再生するのか?」
蓮は距離を取った。
普通の妖怪とは違う。
身体そのものが武器になっている。
しかも――。
長い。
あまりにも長い。
「これなら……」
蓮は右手を前へ向けた。
天狗から拾った能力。
「風刃」
ヒュンッ!
見えない刃が飛ぶ。
ろくろ首の首を切り裂いた。
「ギィィッ!」
首が大きく揺れる。
「効いてる!」
蓮は続けて手を伸ばす。
「もう一発!」
風刃。
ヒュンッ!
今度は避けられた。
ろくろ首の首が大きく曲がる。
まるで蛇のように。
「そんな動きもできるのか……!」
ろくろ首が蓮の背後へ回り込む。
「後ろ!」
蓮は振り返る。
目の前に女の顔。
「見つけた」
口が開く。
蓮は刀を横に振った。
ガキィン!
牙と刀がぶつかる。
「ぐっ!」
力では蓮が押される。
ろくろ首は首だけで刀を押し込んでくる。
「このままじゃ……!」
蓮は鬼腕を発動した。
「鬼腕!」
ドンッ!
ろくろ首の顔を殴り飛ばす。
首が大きく後ろへ伸びる。
その隙に、蓮は距離を取った。
「近づかれると厄介だ」
なら。
遠距離から攻撃する。
蓮は風刃を構えた。
「風刃!」
ヒュンッ!
斬撃が飛ぶ。
ろくろ首は首を曲げて避ける。
「また!」
ヒュンッ!
今度は逆方向。
避けられる。
「……速いな」
風刃の威力はある。
けれど、狙いが単純すぎる。
相手が動きを読めば避けられる。
蓮は考えた。
風刃は見えない。
それなら――。
「狙う場所を変える」
ろくろ首は首を伸ばして攻撃してくる。
その動きは速い。
けれど。
「伸びた首を戻すとき」
必ず一瞬、動きが止まる。
「そこだ!」
ろくろ首が突っ込んできた。
蓮は逃げる。
首が伸びる。
さらに伸びる。
蓮の横を通り過ぎる。
「今!」
振り返る。
「風刃!」
ヒュンッ!
風の刃が首の根元へ飛んだ。
ズバッ!
「ギャアアアアアッ!」
ろくろ首が叫んだ。
首が大きく縮む。
屋根の上まで戻っていく。
蓮は追う。
屋根へ飛び乗る。
「逃がすか!」
ろくろ首が振り返った。
その顔には怒りが浮かんでいる。
「人間……!」
首が再び伸びる。
今度は――。
一本ではない。
二本。
三本。
「なっ……!」
首が枝分かれする。
まるで巨大な蛇が何匹も襲ってくるようだった。
「これは……反則だろ!」
蓮は走る。
一本を避ける。
二本目。
しゃがむ。
三本目。
刀で弾く。
屋根の上を走りながら、必死に攻撃をかわす。
「数が多すぎる!」
そのとき。
蓮の目に、ろくろ首の身体が見えた。
屋根の端。
首を伸ばしているせいで、身体はほとんど動いていない。
「……そこか」
蓮は方向を変えた。
首ではなく。
本体へ向かう。
「待て!」
ろくろ首が叫ぶ。
蓮は一気に距離を詰めた。
「これで終わりだ!」
鬼腕。
右拳を握る。
ろくろ首の身体へ――。
「鬼腕!」
ドゴォン!
身体が吹き飛んだ。
「ギャアアアッ!」
屋根から転げ落ちる。
蓮も飛び降りた。
ろくろ首は道路に倒れている。
まだ動いている。
「しぶといな……」
蓮は刀を構えた。
ろくろ首が起き上がる。
最後の力を振り絞り、首を伸ばす。
「死ねぇぇぇ!」
蓮は真正面から見据えた。
「もう見切った」
首が迫る。
蓮は一歩だけ横へ動いた。
そして――。
「風刃」
ヒュンッ!
風の刃が首の根元を斬り裂いた。
ろくろ首の動きが止まる。
その身体から、黒い煙が立ち上った。
そして。
静かに崩れ落ちる。
「……終わった」
蓮は息を吐いた。
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**東京都葛飾区・住宅街**
**午前二時二十分**
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ろくろ首の死体から、白い光が浮かび上がる。
蓮はそれを見つめた。
「妖魂……」
これで五体目。
蓮は手を伸ばす。
《妖魂を確認しました》
《対象――ろくろ首》
《妖魂を取得できます》
「拾う」
光が蓮の身体へ吸い込まれる。
《妖魂の取得に成功しました》
《固有能力『伸縮』を獲得しました》
「伸縮……?」
蓮は首を触った。
特に変化はない。
「どういう能力だ?」
試しに腕を伸ばしてみる。
何も起こらない。
「……首だけじゃないのか?」
意識を腕へ集中する。
すると。
グッ。
「!」
右腕が伸びた。
「うわっ!」
腕が一メートルほど伸びている。
蓮は慌てて力を抜いた。
元に戻る。
「……これ、便利すぎないか?」
もう一度。
腕を伸ばす。
今度は二メートル。
「届かない場所にも手が届く」
蓮は自分の腕を眺める。
「妖怪拾いには、かなり相性がいいな」
素材回収。
探索。
戦闘。
使い方次第では、かなり役立つ。
蓮は新しい能力を確認した。
「鬼腕」
「飢餓耐性」
「水中呼吸」
「毒耐性」
「風刃」
「伸縮」
六つ。
妖怪を倒すたび。
自分の力が増えている。
「……もっと欲しいな」
蓮は思った。
強くなる。
それが楽しくなってきていた。
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**東京都葛飾区・道路**
**午前二時三十分**
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討伐報告を送信する。
【対象:Cランク・ろくろ首】
【討伐者:神谷蓮】
【討伐完了】
数秒後。
【討伐士ランク:C】
【次回更新までの必要実績を表示します】
蓮は画面を確認する。
「あと少しか」
次のランク。
Bランク。
そこへ到達すれば――。
「Bランク討伐士」
元いた勇者パーティと同じランク帯へ近づいていく。
蓮は少しだけ足を止めた。
佐伯たちの顔が浮かぶ。
追放された日のこと。
『お前みたいな役立たずを置いておく意味がない』
あの言葉。
蓮は空を見上げた。
「……別に、戻りたいわけじゃない」
ただ。
自分がどこまで強くなれるのか。
それを知りたい。
蓮は歩き出した。
その直後。
スマートフォンが鳴った。
政府からの緊急通知。
【緊急妖異情報】
【発生地域:東京都江東区】
【対象:大鬼】
【危険度:Aランク】
【討伐隊を編成中】
蓮の足が止まった。
「……Aランク」
今まで倒した最高ランクはB。
その一つ上。
しかも――。
画面の下には、こう表示されていた。
【推定被害者数:多数】
蓮はスマートフォンを握り締める。
「行くか」
今度の相手は。
Aランク妖怪。
蓮にとって初めての――。
本当の強敵だった。




