第10話 Aランク妖怪・大鬼
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**東京都江東区・臨海工業地帯**
**午後十一時四十八分**
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遠くで、何かが崩れる音がした。
地面が揺れる。
続けて、黒煙が夜空へと噴き上がった。
「……あれか」
神谷蓮は足を止めた。
目の前に広がる工業地帯。
その中央に、巨大な影が立っている。
身長は五メートルを超えていた。
全身を赤黒い皮膚で覆い、額には二本の角。
手には巨大な鉄棒を握っている。
その姿を見ただけで分かる。
今まで戦ってきた妖怪とは、明らかに格が違う。
「Aランク……」
蓮は刀を抜いた。
その瞬間。
大鬼がこちらを向いた。
「人間か」
低い声が響く。
それだけで空気が震えた。
「喰らうぞ」
大鬼が鉄棒を振り上げる。
次の瞬間――。
轟音。
鉄棒が地面を叩き割った。
「っ!」
蓮は横へ飛んだ。
さっきまで立っていた場所が、大きく陥没している。
「一発でもまともに受けたら終わるな」
蓮は刀を構え直した。
大鬼が笑う。
「逃げるだけか、小僧」
「……試してみる」
蓮は地面を蹴った。
鬼腕を発動する。
身体能力が一気に跳ね上がる。
大鬼の懐へ入り込む。
「そこだ!」
刀を振り抜く。
ガキィン!
「なっ……」
刀が弾かれた。
大鬼の皮膚には、傷すらついていない。
「硬い……!」
「その程度か」
大鬼の拳が飛んできた。
蓮は咄嗟に腕を交差させる。
直撃。
「ぐっ……!」
身体が宙に浮いた。
そのまま十メートル以上吹き飛ばされ、コンテナへ叩きつけられる。
鉄板が大きくへこんだ。
「……痛いな」
蓮はゆっくり立ち上がった。
腕が痺れている。
肋骨も何本か痛む。
鬼腕を使っている。
それでも、この差。
「これが……Aランクか」
今まで戦った妖怪とは別物だった。
大鬼が歩いてくる。
一歩。
二歩。
そのたびに地面が揺れる。
「終わりだ」
鉄棒が振り下ろされる。
蓮は走った。
横へ。
さらに横へ。
風刃を放つ。
「風刃!」
斬撃が大鬼の腕へ飛んでいく。
ズバッ!
初めて傷が入った。
「効いた……!」
蓮の目が鋭くなる。
傷は浅い。
それでも、攻撃が通った。
「なら――」
蓮は風刃を連続して放った。
一本。
二本。
三本。
大鬼の身体を狙う。
「小賢しい!」
大鬼が腕を振り回した。
突風が発生する。
「うわっ!」
蓮の身体が吹き飛ばされた。
地面を転がる。
その先には、大鬼がいた。
「捕まえたぞ」
巨大な手が迫る。
「くっ!」
蓮は伸縮を使った。
腕を伸ばし、近くの鉄柱を掴む。
一気に身体を引き寄せた。
大鬼の手が空を切る。
「なるほど」
蓮は鉄柱の上へ飛び乗った。
高所から大鬼を見下ろす。
「こいつ……」
考える。
硬い。
速い。
力も強い。
正面から斬っても通らない。
風刃なら傷をつけられる。
なら、狙う場所は決まっている。
「目だ」
蓮は走った。
鉄柱から跳躍。
風刃を放つ。
「風刃!」
大鬼が腕で防ぐ。
その瞬間。
蓮は伸縮を使った。
右腕が伸びる。
大鬼の腕を越える。
そのまま顔面へ。
「なにっ!」
蓮の拳が大鬼の頬を捉えた。
ドンッ!
巨大な頭部が横へ弾かれる。
隙が生まれた。
「今だ!」
蓮は刀を握り直す。
風刃を刀身へまとわせる。
今までよりも強く。
集中する。
風が刀へ集まっていく。
「これなら……!」
大鬼の首へ向かって跳ぶ。
「舐めるなぁ!」
大鬼も鉄棒を振り上げた。
互いの攻撃が交差する。
――ズガァァン!
爆音。
蓮の身体が吹き飛んだ。
地面を何度も転がる。
「ぐっ……!」
刀が手から離れた。
右肩から血が流れている。
大鬼の首にも、深い傷が入っていた。
「……やった」
蓮が息を吐く。
ところが。
大鬼は倒れなかった。
ゆっくりと立ち上がる。
「まだ……立つのかよ」
大鬼が首を鳴らす。
傷口から黒い妖気が噴き出した。
「この程度の傷で、俺を倒せると思ったか?」
妖気が膨れ上がる。
身体がさらに巨大になる。
筋肉が盛り上がった。
「まずい……!」
大鬼が迫る。
速い。
さっきまでとは比較にならない。
拳が飛んでくる。
避ける。
鉄棒。
避ける。
蹴り。
受ける。
「ぐあっ!」
吹き飛ばされる。
蓮は地面に倒れた。
身体が動かない。
視界が霞む。
「……まだ、終われない」
立とうとする。
足に力が入らない。
大鬼が近づいてくる。
「終わりだ」
巨大な足が上がった。
蓮は拳を握った。
その瞬間。
頭の中に声が響いた。
《所持妖魂――五》
《対象妖怪の妖気濃度が一定値を突破》
《妖魂共鳴が発生します》
「……共鳴?」
知らない表示だった。
鬼腕。
飢餓耐性。
水中呼吸。
毒耐性。
風刃。
伸縮。
今まで拾ってきた妖怪の力。
それらが一瞬だけ重なった。
身体の奥で、何かが弾ける。
《固有能力『鬼力増幅』を一時発動します》
「……!」
身体に力が戻った。
蓮は立ち上がる。
「まだ……やれる」
大鬼が目を見開いた。
「なぜ立てる!」
蓮は拳を握った。
鬼腕。
そこへ新たな力が重なる。
身体能力が跳ね上がる。
地面が砕けた。
「これで――」
蓮は消えた。
大鬼の懐へ。
「終わらせる!」
拳が腹部へ突き刺さる。
「ぐおおおおっ!」
大鬼の身体が浮いた。
そのまま十メートル近く吹き飛び、工場の壁へ激突する。
蓮は追った。
風刃を展開。
刀を握る。
「これで最後だ!」
風の刃が大鬼の首を走った。
――ズバァッ!
巨大な身体が崩れ落ちる。
轟音とともに、工場の床へ倒れた。
静寂。
蓮は荒い息を吐いた。
「……勝った」
大鬼の身体から、黒い光が浮かび上がる。
それは今まで拾ってきた妖魂とは比べものにならないほど濃い。
巨大な黒い魂。
蓮は手を伸ばした。
触れた瞬間。
――ドクン。
心臓が大きく鳴った。
《Aランク妖怪・大鬼》
《妖魂の取得に成功しました》
《固有能力『金剛体』を獲得しました》
「金剛体……」
新しい力が身体へ流れ込んでくる。
蓮は拳を握った。
今までとは違う。
身体そのものが、硬くなっている。
妖怪の攻撃を受けても耐えられる。
そんな感覚があった。
そのとき。
遠くからサイレンが聞こえてきた。
政府の討伐隊だ。
蓮は刀を拾い上げる。
もう一度、大鬼の死体を見る。
「Aランクを……一人で倒した」
自分でも信じられなかった。
その直後。
政府の緊急通信が、街中に響き渡る。
『緊急速報です』
『江東区で発生したAランク妖異について、政府は現在――』
通信が一瞬途切れた。
続いて流れた言葉に、蓮は足を止める。
『現場に到着した討伐隊によると――』
『Aランク妖怪は、すでに討伐されています』
『討伐者は――』
蓮は空を見上げた。
自分の名前が呼ばれる。
その瞬間。
日本中に、神谷蓮の存在が知られることになった。
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そして。
同じ頃。
政府の妖異対策本部では、一人の女性職員が震える手で画面を見つめていた。
「……Aランクを単独討伐?」
画面には、蓮の討伐記録。
その横には、異常な数字が並んでいる。
Eランク。
Dランク。
Cランク。
Bランク。
そして――Aランク。
たった数日。
あまりにも速すぎる。
女性職員は、静かに呟いた。
「この人……本当に、ただの妖怪拾いなの?」
画面の中で。
神谷蓮の能力欄だけが、異常な速度で更新されていた。




