第8話 妖怪拾いの噂
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**東京都台東区・上野公園**
**午前零時十分**
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「……神谷蓮?」
到着した討伐士が、倒れている天狗を見て呟いた。
「これ、本当に一人でやったのか?」
「討伐記録はそうなってる」
別の討伐士がスマートフォンを確認する。
「Bランク・天狗。討伐者、神谷蓮」
「神谷って……あの妖怪拾い?」
「ああ」
数人の討伐士が顔を見合わせた。
誰もすぐには信じられない。
妖怪拾い。
戦闘職ではない。
少なくとも、昨日までの認識ではそうだった。
「河童も一人で倒したらしいぞ」
「河童?」
「その前は餓鬼。その後に大百足。そして今回が天狗」
「……四体?」
「しかも全部、短期間でだ」
その場の空気が変わった。
単なる偶然ではない。
何かがおかしい。
その頃。
本人はすでに、その場を離れていた。
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**東京都台東区・上野駅周辺**
**午前零時二十分**
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蓮は歩きながら、何度も右手を見ていた。
「風刃……」
天狗から拾った能力。
試しに手を前へ出す。
「……こうか?」
ヒュッ。
小さな風が起こった。
「おお」
もう一度。
今度は少し力を込める。
「風刃」
ヒュンッ!
近くの街路樹から、葉が数枚落ちた。
「まだ弱いな」
天狗が使った風刃とは比べものにならない。
当然だ。
蓮が拾ったのは、天狗そのものではない。
妖魂から得た能力の一部。
使い始めたばかりなのだから、力を引き出せなくても不思議ではない。
「使い込めば強くなるのかな」
蓮は歩きながら考える。
鬼腕もそうだった。
初めて使ったときより、今の方が感覚を掴めている。
「能力にも慣れが必要なのかもしれない」
それなら。
やることは決まっている。
使う。
何度も。
実戦で。
「……もっと強くなろう」
蓮は前を向いた。
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**東京都千代田区・妖異対策本部**
**午前零時四十分**
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「また更新されました」
女性職員がモニターを見つめる。
【神谷蓮】
【討伐士ランク:C】
【討伐数:4】
【単独討伐:4】
河童。
大百足。
天狗。
そして、その前の餓鬼。
たった数日で、これだけの記録を残している。
「……普通じゃありませんね」
女性職員が呟く。
隣の男性職員も画面を見た。
「戦闘能力がないという話は?」
「勇者パーティ時代の記録では、戦闘評価は最低ランクです」
「なのに今は?」
「Cランク妖怪を単独討伐」
女性職員は資料を閉じた。
「能力が変化したと考えるのが自然です」
「覚醒系のスキルか?」
「分かりません」
女性職員は少し考えた。
「ただ……」
彼女は大鬼討伐時の記録映像を再生した。
倒された大鬼。
その死体へ近づく蓮。
そして――。
黒い光。
「このとき、神谷さんは何かを取得しています」
「妖怪の素材じゃないのか?」
「可能性は低いです」
映像を拡大する。
「通常の妖怪素材には、こんな反応はありません」
女性職員は画面を見つめる。
「一度、本人に確認した方がいいかもしれません」
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**東京都新宿区・勇者パーティ宿舎**
**午前一時**
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「Cランク?」
佐伯がスマートフォンを見る。
「神谷が?」
「そうみたい」
美咲が答える。
「天狗を倒したって」
「天狗……」
高橋が笑う。
「さすがに嘘だろ」
「討伐記録は本物よ」
玲奈が言った。
全員が黙る。
Bランク妖怪。
天狗。
それを一人で倒した。
「……あいつに、そんな力があったのか?」
佐伯が呟く。
玲奈は答えなかった。
彼女の頭には、大鬼討伐の日の光景が残っている。
蓮が妖怪の死体に触れた瞬間。
黒い光が生まれた。
「もしかして……」
「何か言ったか?」
「いえ」
玲奈は首を振った。
「まだ分からないわ」
ただ。
胸の中に、小さな不安が生まれていた。
自分たちは。
本当に正しい人間を追放したのだろうか。
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**東京都足立区・神谷蓮のアパート**
**午前一時三十分**
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「眠い……」
蓮はベッドへ倒れ込んだ。
今日は天狗との戦闘だった。
身体が重い。
明日はゆっくり休もう。
そう思った瞬間。
――ピコン。
「また?」
スマートフォンを見る。
【新規妖異情報】
【発生地域:東京都葛飾区】
【対象:ろくろ首】
【危険度:Cランク】
【発生件数:三件】
蓮は画面を見つめる。
「ろくろ首……」
昔話で聞いたことがある妖怪。
首が伸びる。
それだけなら、そこまで怖くない。
けれど。
政府の詳細情報を開いた蓮の表情が変わった。
【注意事項】
【対象は遠距離からの攻撃能力を有する可能性あり】
「遠距離……」
蓮は少し考えた。
自分にも、今日手に入れた風刃がある。
近距離では鬼腕。
遠距離では風刃。
戦い方が少しずつ増えている。
「……行ってみるか」
時計を見る。
午前一時三十分。
「いや」
一度、布団へ入った。
目を閉じる。
十秒。
二十秒。
三十秒。
目を開ける。
「気になるな」
蓮は起き上がった。
刀を手に取る。
「ろくろ首からは……何が拾えるんだろう」
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**東京都葛飾区・住宅街**
**午前二時十分**
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街灯が静かに道路を照らしている。
人の姿はない。
蓮は慎重に歩いていた。
「この辺りか……」
そのとき。
電柱の陰から――。
何かが動いた。
「……?」
蓮が振り返る。
誰もいない。
前を見る。
やはり誰もいない。
その瞬間。
「こんばんは」
頭上から声がした。
「!」
蓮が顔を上げる。
民家の屋根。
そこに、一人の女が立っていた。
長い黒髪。
白い着物。
そして――。
異様に長く伸びた首。
女の顔が、屋根の上からゆっくりと蓮へ近づいてくる。
「見つけた」
ろくろ首が笑った。
蓮は刀を抜く。
「……なるほど」
相手の首は、どこまでも伸びる。
地上と屋根の距離など関係ない。
「遠距離攻撃って、そういうことか」
ろくろ首の口が大きく開いた。
「食べてあげる」
長い首が、一気に蓮へ伸びてくる。
蓮は風刃を構えた。
「今度は――」
目の前まで迫った顔を睨む。
「こっちから試させてもらう」
風が、蓮の右手に集まり始めた。




