第7話 空を飛ぶ妖怪
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**東京都台東区・上野公園**
**午後十一時四十分**
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「できるものなら、やってみよ」
天狗が翼を広げた。
次の瞬間。
ゴォォォォッ!
強烈な風が公園を駆け抜ける。
「くっ!」
蓮は腕で顔を覆った。
砂埃が舞い、木の葉が空へ巻き上げられる。
視界が悪い。
「どこだ……?」
返事の代わりに――。
ヒュンッ!
風を切る音。
蓮は反射的に横へ飛んだ。
ザシュッ!
地面が斜めに切り裂かれた。
「風の刃……!」
見えない。
それなのに攻撃だけが飛んでくる。
蓮は木の陰へ身を隠した。
ドンッ!
直後、木の幹に斬撃が走る。
太い木が大きく傾いた。
「隠れても無駄だ」
上空から天狗の声が響く。
「風は我が手足」
蓮は空を見上げる。
月明かりの中。
天狗がこちらを見下ろしている。
「……厄介だな」
地上にいる限り、一方的に攻撃される。
距離を詰めることもできない。
蓮は刀を握った。
「どうやって落とす?」
考える。
鬼腕で殴る。
届かない。
刀で斬る。
届かない。
なら――。
「近づくしかない」
蓮は走り出した。
「愚かな!」
天狗が刀を振る。
風の刃が飛んでくる。
ヒュンッ!
「右!」
避ける。
次。
「左!」
避ける。
さらに一発。
ザンッ!
頬をかすめた。
「……速い!」
血が一筋流れる。
蓮は走り続ける。
天狗との距離が少しずつ縮まっていく。
「そこだ!」
蓮は地面を蹴った。
鬼腕の力を使い、大きく跳ぶ。
「届く!」
刀を振り上げる。
天狗の翼まで、あと数メートル。
しかし――。
天狗が翼を一振りした。
ゴォォォッ!
「うわっ!」
蓮の身体が吹き飛ばされる。
地面へ叩きつけられた。
「ぐっ……!」
背中に激痛が走る。
天狗は再び上空へ戻った。
「人間が空を飛ぶ我に勝てると思うか」
蓮は立ち上がる。
刀を支えにしながら、天狗を見上げた。
「……勝てるかどうかは」
口元を拭う。
「やってみないと分からないだろ」
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**上野公園・東側広場**
**午後十一時五十分**
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蓮は走った。
天狗も追ってくる。
風の刃。
斬撃。
突風。
次々と攻撃が飛んでくる。
蓮は避ける。
転がる。
木の陰へ逃げる。
そして、また走る。
「何をしている?」
天狗が不審そうに見下ろす。
「逃げているだけか?」
「違う」
蓮は公園の中央にある大きな木へ向かった。
そして――。
木の幹を蹴った。
ドンッ!
鬼腕の力で身体を跳ね上げる。
枝を掴む。
さらに上へ。
「何っ!」
天狗の目が見開かれた。
蓮は木の頂上付近まで登った。
「ここなら!」
枝から飛ぶ。
天狗へ向かって一直線に跳んだ。
「小細工を!」
天狗が刀を振る。
風の刃が迫る。
蓮は身体をひねった。
刃が服を切り裂く。
さらに一発。
蓮は刀で受け流す。
そして――。
「捕まえた!」
蓮の左手が、天狗の翼を掴んだ。
「なっ!」
天狗の身体が大きく揺れる。
「離せ!」
「嫌だ!」
蓮は翼を掴んだまま、鬼腕を発動する。
「落ちろ!」
ドゴォン!
天狗の身体が地面へ叩きつけられた。
土煙が舞う。
蓮も着地する。
「……どうだ!」
土煙の向こうから、天狗が立ち上がった。
「……見事」
口元から血が流れている。
それでも、まだ立っている。
「人間にしては、よく動く」
天狗が刀を構えた。
「ならば、我も本気を出そう」
妖気が膨れ上がる。
周囲の風が渦を巻き始める。
「まずい……!」
空気そのものが重くなる。
天狗の背後に、巨大な風の渦が生まれた。
「これで終わりだ」
蓮は刀を構える。
逃げ場はない。
風が迫る。
「……!」
蓮は目を閉じた。
そして――。
天狗の動きを思い出した。
翼。
風。
空中での移動。
それなら。
「風を利用する」
蓮は地面を蹴った。
風に逆らわない。
流れに合わせる。
身体が軽くなる。
天狗の横を通り抜ける。
「何っ!」
蓮は振り返った。
天狗の背中が見える。
「そこだ!」
刀を振る。
ズバッ!
翼の根元を斬り裂いた。
「グァァァァッ!」
天狗が叫ぶ。
片翼が大きく裂ける。
飛べない。
天狗が地面へ落ちた。
蓮は一気に距離を詰める。
「終わりだ!」
鬼腕を発動。
拳を叩き込む。
ドォン!
天狗の身体が地面へ沈む。
妖気が消えていく。
やがて。
天狗は完全に動かなくなった。
「……勝った」
蓮はその場に座り込んだ。
全身が痛い。
服はボロボロ。
頬から血が流れている。
それでも。
胸の奥には、不思議な高揚感があった。
「Bランク……」
一人で倒した。
そして――。
天狗の身体から、黄金色の光が浮かび上がる。
「妖魂……!」
蓮は立ち上がった。
光へ手を伸ばす。
《妖魂を確認しました》
《対象――天狗》
《妖魂を取得できます》
「拾う」
指先が光に触れる。
瞬間。
全身を風が駆け抜けた。
《妖魂の取得に成功しました》
《固有能力『風刃』を獲得しました》
「……風刃」
蓮が手を前へ向ける。
ヒュッ。
空気が震えた。
目には見えない。
それでも。
確かに何かが飛んでいった。
数メートル先の木。
その枝が――。
スパッ。
綺麗に切れた。
「……すごい」
これまでの能力とは違う。
鬼腕は近距離。
水中呼吸は特殊能力。
毒耐性も防御能力。
風刃は――。
「遠距離攻撃か」
蓮は自分の手を見る。
妖怪を倒す。
妖魂を拾う。
力を手に入れる。
その力で、さらに強い妖怪を倒す。
「本当に……強くなれるんだ」
そのとき。
スマートフォンが鳴った。
【討伐完了】
【対象:Bランク・天狗】
【討伐者:神谷蓮】
【討伐士ランクを更新します】
蓮は画面を確認する。
【現在ランク:C】
「……Cランク」
昨日までEだった。
そこからD。
そして今日、C。
蓮は少しだけ笑った。
「次はBか」
その瞬間。
遠くから、サイレンの音が聞こえてきた。
妖怪討伐隊が到着したらしい。
蓮は刀を鞘へ戻す。
そして、その場を離れようとした。
まだ誰も知らない。
たった数日で。
一人の妖怪拾いが――。
Cランク討伐士になったことを。
そして。
その名前が、少しずつ討伐士たちの間で知られ始めていることを。




