第6話 勇者パーティの違和感
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**東京都千代田区・妖異対策本部**
**午後九時四十分**
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「神谷蓮……」
佐伯蓮司は、モニターに表示された名前を見つめていた。
昨日まで、同じパーティにいた男。
妖怪拾い。
戦闘では役に立たない。
だから追放した。
「こいつ、本当に一人で大百足を倒したのか?」
「討伐記録は本物です」
職員が答える。
「河童も、その前の餓鬼も単独討伐。今日の大百足はCランクです」
「Cランク……」
佐伯の表情が曇る。
「神谷に、そんな力があったのか?」
「現時点では不明です」
職員は資料をめくった。
「ただ、少し気になる点があります」
「何だ?」
「神谷さんは、昨日まで討伐士として目立った実績がありません」
「それは知ってる」
「ところが、追放された翌日から急に討伐記録が増えています」
佐伯は黙った。
偶然。
そう考えることもできる。
たまたま強くなった。
たまたま相性が良かった。
そういう可能性もある。
「……まあいい」
佐伯は椅子から立ち上がった。
「俺たちには関係ない」
「佐伯さん」
「神谷が何をしていようが、俺たちはSランクだ」
佐伯は自信を取り戻したように笑った。
「俺たちの方が強い」
その言葉に、職員は何も答えなかった。
モニターには、神谷蓮の討伐記録が残っている。
Eランク。
Dランク。
Cランク。
その数字は――。
今も更新され続けていた。
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**東京都新宿区・勇者パーティ宿舎**
**午後十時**
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「神谷くんの話?」
白石美咲が顔を上げた。
テーブルには、討伐後の食事が並んでいる。
「そう」
佐伯がスマートフォンを見せる。
「大百足を倒したらしい」
「一人で?」
「そうみたいだ」
美咲は驚いた顔をした。
「神谷くんが……?」
「何かの間違いじゃない?」
黒川玲奈が興味なさそうに言う。
「妖怪拾いがCランクを倒すなんて聞いたことないわ」
「俺もそう思ってる」
高橋豪が笑う。
「きっと誰かが手伝ったんだろ」
「ですよね」
美咲も頷く。
それぞれが納得した。
その中で。
黒川だけが少し考え込んでいた。
「……でも」
「どうした?」
「昨日の大鬼」
黒川が言った。
「討伐した後、神谷が妙なことをしてなかった?」
佐伯が眉を寄せる。
「妙なこと?」
「死体に触れてた」
「ああ、それか」
佐伯は笑った。
「妖怪拾いの仕事だろ」
「そうだけど……」
黒川は釈然としない表情を浮かべる。
「何か、黒い光みたいなものが見えた気がするのよ」
「疲れてたんじゃないか?」
高橋が笑う。
「そんなことより、明日の討伐だ」
話題はすぐに別のものへ変わった。
誰も気づいていない。
自分たちが追放した男が。
たった二日で、二体の妖怪を一人で倒していることを。
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**東京都足立区・神谷蓮のアパート**
**午後十一時**
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「……Dランクか」
蓮はスマートフォンの画面を眺めていた。
今日の大百足討伐によって、討伐士ランクがEからDへ上がった。
思ったより早い。
「この調子なら、Cランクも狙えるかもな」
蓮はベッドに寝転がった。
身体は疲れている。
大百足との戦闘は、かなり危険だった。
毒を受けた。
吹き飛ばされた。
一歩間違えば死んでいた。
それでも。
妖魂を手に入れたことで、蓮には新しい力が増えた。
鬼腕。
飢餓耐性。
水中呼吸。
毒耐性。
「能力が増えるのはいいけど……」
蓮はスマートフォンを操作する。
政府の討伐士アプリには、妖怪の情報が登録されている。
「もっと強い妖怪は……」
検索する。
Cランク。
Bランク。
Aランク。
そして――。
Sランク。
「……いるな」
全国には、数多くの妖怪が存在している。
その中には、街一つを壊滅させるほどの妖怪もいる。
蓮は一覧を眺める。
「いつか、ここまで行けるかな」
そのときだった。
――ピコン。
新しい通知が届いた。
【緊急妖異情報】
【発生地域:東京都台東区】
【対象:天狗】
【危険度:Bランク】
蓮の目が止まった。
「Bランク……」
今までとは違う。
Cランクの大百足より、さらに上。
しかも――。
【現在、討伐士を緊急募集しています】
【推定被害区域:上野公園周辺】
【一般人の避難誘導を開始】
蓮は起き上がった。
「Bランクか」
少し怖い。
正直に言えば、今の自分では勝てる保証はない。
それでも。
蓮は刀を手に取った。
「行ってみるか」
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**東京都台東区・上野公園**
**午後十一時四十分**
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公園内は異様なほど静かだった。
避難が進み、人の姿はほとんどない。
街灯だけが、薄暗い道を照らしている。
蓮は慎重に歩いていた。
「天狗……」
そのとき。
上空から風が吹いた。
ゴォォォォッ!
「!」
木々が激しく揺れる。
蓮は空を見上げた。
何かいる。
月明かりの中。
巨大な影が飛んでいる。
背中には――翼。
手には一本の長い刀。
赤い顔。
長い鼻。
そして、凄まじい妖気。
「……あれが」
天狗。
次の瞬間。
天狗が空中で刀を振った。
ズバァッ!
「なっ……!」
見えない何かが飛んできた。
蓮は横へ飛ぶ。
直後。
背後の大木が――。
スパッ。
真っ二つに切れた。
「風の刃……?」
蓮の額から汗が流れる。
大百足とは違う。
速い。
そして遠距離攻撃まで持っている。
天狗が空から蓮を見下ろした。
「人間……」
低い声が響く。
「我が山へ入るとは、愚かな」
蓮は刀を構えた。
天狗が翼を広げる。
風が巻き起こる。
砂埃が舞う。
蓮は目を細めた。
「……空を飛ぶ妖怪か」
そして。
蓮の口元に、わずかな笑みが浮かぶ。
「なら――」
鬼腕を発動する。
「地上から引きずり落とす」
天狗が笑った。
「できるものなら、やってみよ」
風が爆発した。
Bランク妖怪――天狗。
蓮にとって初めての、本格的な強敵との戦いが始まった。




