第47話 妖怪拾いの戦い
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**東京都・隅田川沿岸**
**午後一時四十分**
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警報が鳴り続けていた。
川沿いの道路には、すでに規制線が張られている。
遠くでは避難する人々の姿が見えた。
蓮は規制線の向こう側を見る。
川面が異様に揺れていた。
「Aランク相当の妖気です」
政府職員が端末を確認する。
「ただ、通常のAランク妖怪とは反応が違います」
「どう違うんですか?」
「妖気が安定していません」
その瞬間。
川の中央が大きく盛り上がった。
巨大な腕が、水面を突き破る。
ズドォン!
大量の水が道路へ押し寄せた。
「来るぞ!」
蓮が叫ぶ。
全員が構える。
水の中から現れたのは。
巨大な妖怪だった。
体長は十メートルを超えている。
全身は黒い鱗に覆われ、頭には二本の角。
その背中には、いくつもの目が開いていた。
「……あれは」
第一号が呟く。
「百目鬼に似ている」
蓮も妖怪を見つめる。
確かに似ている。
けれど。
違う。
「もっと大きい」
妖怪が吠えた。
空気が震える。
周囲の窓ガラスが一斉に割れた。
《対象――Aランク》
端末が警告を表示する。
政府職員が叫ぶ。
「神谷さん、無理はしないでください!」
蓮は刀を抜いた。
「大丈夫です」
そして。
仲間たちを見る。
「みんな、いける?」
第一号が笑う。
「当然」
第二号が頷く。
「任せて」
第三号が拳を握る。
「やっと普通の妖怪退治ができるんだね」
第四号が一歩前へ出る。
「普通というには、かなり大きいがな」
零号も構えた。
空だけは少し離れている。
蓮が見る。
「空は無理するな」
「分かってる」
空は頷く。
「でも、僕にもできることはあるよ」
その言葉を聞いて。
蓮は笑った。
「じゃあ、頼む」
妖怪が動いた。
巨大な腕が振り下ろされる。
蓮たちは散開した。
ドゴォン!
道路が砕ける。
蓮は瓦礫を飛び越えながら距離を詰める。
「鬼腕!」
右腕に力が集まる。
刀を振る。
黒い鱗が裂けた。
しかし。
傷口が瞬時に塞がる。
「再生か!」
第三号が叫ぶ。
妖怪の背中にある無数の目が開いた。
次の瞬間。
光線が一斉に放たれる。
「来る!」
第二号が結界を張った。
轟音。
結界が大きく揺れる。
「数が多すぎる!」
第一号が飛び出した。
「こっちは任せろ!」
第一号が妖気をまとい、光線を切り裂く。
その隙に第四号が妖怪の足へ突っ込んだ。
「動きを止める!」
巨体が揺れる。
零が叫ぶ。
「蓮!」
「分かってる!」
蓮は走った。
妖怪の身体から。
いくつもの魂が見える。
以前なら。
そのまま吸収していた。
けれど。
今は違う。
「……苦しんでる」
蓮には分かった。
この妖怪の中にも。
意思を持たないまま、閉じ込められている妖魂が大量に存在している。
蓮は刀を下ろした。
「魂域!」
一気に。
周囲へ力が広がる。
空間そのものが変わった。
妖怪の中にある魂が。
一つずつ浮かび上がる。
「見える」
蓮が呟く。
「全部、見える」
その瞬間。
妖怪が咆哮した。
身体から大量の妖気が噴き出す。
蓮の魂域が押し返される。
「蓮!」
零が叫ぶ。
「大丈夫!」
蓮は踏みとどまった。
魂鎧を展開する。
身体を包む光が強くなる。
そして。
魂環を発動した。
第一号。
第二号。
第三号。
第四号。
零号。
空。
そして零。
全員の魂が一本につながる。
「これが……」
第一号が驚く。
「蓮の力か」
「違う」
蓮は答えた。
「俺たちの力だ」
魂環が広がる。
妖怪の身体から。
黒い光が次々と抜けていく。
一つ。
また一つ。
閉じ込められていた妖魂が解放される。
妖怪の動きが鈍くなった。
「今だ!」
第四号が叫ぶ。
全員が動く。
第一号が正面から攻撃する。
第二号が結界で妖怪の動きを封じる。
第三号が背後へ回る。
第四号が足を砕く。
零号が落ちてくる瓦礫を受け止める。
零が蓮の背後を守る。
そして。
空が叫んだ。
「蓮!」
「どうした!」
「右!」
蓮が振り向く。
妖怪の最後の目が開いていた。
巨大な光が集まっている。
蓮は刀を構えた。
「これで終わらせる!」
鬼腕。
金剛体。
風刃。
伸縮。
そして。
魂環。
すべての力を重ねる。
蓮は跳んだ。
「――終われ!」
風刃が妖怪の身体を切り裂く。
その中心へ。
刀が突き刺さる。
巨大な身体が止まった。
静寂。
次の瞬間。
妖怪の身体から。
大量の光が空へ昇っていった。
黒い妖気が消えていく。
巨体が崩れ。
川へ沈んだ。
蓮は着地した。
刀を下ろす。
誰も動かなかった。
やがて。
空が言った。
「……終わった?」
蓮は妖気を探る。
もう。
敵意はない。
「うん」
蓮は頷いた。
「終わった」
周囲から。
避難していた人々が戻ってくる。
政府の討伐隊も到着した。
誰かが叫ぶ。
「Aランク討伐成功!」
歓声が上がった。
蓮はその声を聞きながら。
静かに川を見る。
妖怪の身体は。
もう跡形もない。
残った妖魂も。
魂環によって穏やかに散っていった。
第一号が隣に立つ。
「吸収しなかったな」
「うん」
「強くなれたかもしれないのに」
蓮は少し笑った。
「必要なかったから」
第一号も笑う。
「なるほど」
零が歩いてくる。
「それがお前の答えなんだな」
「たぶん」
蓮は空を見上げる。
雲の隙間から。
青空が見えていた。
十年前。
この世界には突然、妖怪が現れた。
多くの人が傷ついた。
多くのものが失われた。
そして。
蓮自身も。
大切なものをたくさん失った。
それでも。
今は。
隣に仲間がいる。
兄がいる。
自分で選んだ道がある。
蓮は思った。
これで。
本当に最後の戦いだったのかもしれない。
少なくとも。
もう戦う理由を誰かに決めてもらう必要はない。
蓮は刀を納めた。
「帰ろう」
空が笑う。
「どこへ?」
蓮は振り返った。
「俺たちの帰る場所へ」
仲間たちが歩き出す。
その後ろ姿を。
東京の青空が静かに照らしていた。




