第46話 追放した者たち
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**東京都・妖異対策本部**
**午後一時二十分**
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「神谷蓮さん」
廊下を歩いていた蓮は、後ろから呼び止められた。
振り返ると、朝の会議にいた政府職員が立っている。
「少し時間をいただけますか?」
「はい」
「会議室に、以前の勇者パーティの皆さんが来ています」
その言葉を聞いた瞬間。
蓮の足が止まった。
佐伯蓮司。
白石美咲。
黒川玲奈。
高橋豪。
かつて自分を追放した四人。
蓮はしばらく黙っていた。
「……分かりました」
会議室へ向かう。
扉の前まで来ると。
中から声が聞こえた。
「本当に来るのか?」
豪の声だった。
「来るだろ」
玲奈が答える。
「政府から呼ばれているんだから」
「そうじゃない」
豪が言う。
「俺たちが追放したんだぞ」
その声には。
以前のような自信がなかった。
蓮は扉を開けた。
四人の視線が一斉に集まる。
誰も。
すぐには口を開かなかった。
最初に立ち上がったのは美咲だった。
「蓮……」
蓮は四人を見る。
以前なら。
この場に立つだけで胸が苦しくなっていたかもしれない。
追放された日のこと。
「妖怪拾いなんて必要ない」
そう言われた日のこと。
何度も思い出した。
けれど。
今は不思議なくらい、心が静かだった。
佐伯が立ち上がる。
「久しぶりだな」
「そうですね」
それだけだった。
佐伯の表情が少し曇る。
「……聞いた」
「何を?」
「十年前の研究施設のことだ」
蓮は黙っている。
「お前が、あの事件の中心にいたことも」
「俺だけじゃないです」
蓮は答えた。
「兄さんも、他のみんなも関係しています」
佐伯は頷いた。
「そうだな」
そして。
深く頭を下げた。
「すまなかった」
蓮は少し驚いた。
佐伯が頭を下げる。
あの佐伯が。
以前の彼からは想像できない姿だった。
「俺は、お前を弱いと思っていた」
佐伯は続ける。
「戦闘能力がない。妖怪の死体を拾っているだけ。俺たちが戦っている間に後ろで作業しているだけだと思っていた」
豪が俯く。
美咲も黙っている。
玲奈は蓮をまっすぐ見ていた。
「だから、追放した」
佐伯の声が低くなる。
「でも」
拳を握る。
「間違っていた」
蓮は何も言わない。
佐伯は続けた。
「お前が一人で妖怪を倒したことも知っている」
「Aランクの大鬼まで倒したことも」
「そして」
一度、言葉を止める。
「俺たちにはできなかったことを、お前はやった」
蓮は首を振る。
「それだけじゃないですよ」
「え?」
「俺は一人で戦っていたわけじゃない」
蓮は後ろを見る。
会議室の外には。
第一号たちが待っている。
「俺には仲間がいるから」
佐伯はその姿を見る。
「……そうか」
その時。
豪が口を開いた。
「蓮」
「はい」
「俺も謝る」
豪は頭を下げた。
「お前を馬鹿にしてた」
「妖怪拾いなんて誰でもできるって言った」
「……はい」
「でも」
豪は顔を上げる。
「俺には、できなかった」
その言葉は。
悔しさを含んでいた。
「お前みたいに、妖怪の魂まで背負って戦うなんて、俺にはできなかった」
蓮は豪を見る。
以前なら。
ここで「ざまあみろ」と思ったかもしれない。
けれど。
今はそう思わなかった。
「もういいですよ」
蓮が言う。
豪が目を見開く。
「許してくれるのか?」
「許すというより」
蓮は少し考える。
「もう、気にしてないです」
その言葉に。
佐伯が苦笑した。
「それが一番きついな」
「え?」
「俺たちはずっと、お前に恨まれていると思っていた」
佐伯は椅子に座る。
「いつか追いつかれるんじゃないか」
「いつか見返されるんじゃないか」
「そんなことばかり考えていた」
蓮は黙って聞く。
「でも」
佐伯は蓮を見る。
「お前は、もう俺たちなんか見ていなかったんだな」
蓮は答えなかった。
その沈黙が。
答えだった。
玲奈が小さく笑った。
「……本当に、変わったね」
「そうですか?」
「うん」
玲奈は頷く。
「昔の蓮なら、もっと自分を小さく見せていた」
「今は違う」
蓮は窓の外を見る。
「自分が何者なのか、少し分かっただけです」
美咲が尋ねる。
「妖怪拾いとして?」
「はい」
「それが、そんなに大事?」
蓮は少し考えた。
そして。
「大事です」
はっきり答えた。
「俺は、妖怪拾いだから」
佐伯が静かに笑った。
「そうか」
その時。
会議室の扉が開いた。
政府職員が入ってくる。
「話は終わりましたか?」
「はい」
佐伯が立ち上がる。
「神谷」
「はい」
「一つだけ言わせてくれ」
蓮を見る。
「お前は、もう俺たちのパーティに戻る必要はない」
蓮は少し驚いた。
佐伯は続ける。
「戻ってきてくれと言うつもりだった」
「でも」
一瞬だけ笑う。
「今のお前を見たら、そんなことを言うのは違うと思った」
蓮は黙っている。
「俺たちは勇者パーティだ」
佐伯が自分の胸元を見る。
そこには。
政府から与えられた勇者の徽章がある。
「今まで俺は、勇者だから強いと思っていた」
徽章を外す。
「でも違った」
それを机の上に置いた。
「勇者だから誰かを守るんじゃない」
「誰かを守ろうとする人間が、勇者なんだ」
蓮は佐伯を見る。
その言葉には。
以前にはなかった重みがあった。
「だから俺は」
佐伯は立ち上がる。
「もう一度、自分たちの仕事をやり直す」
「蓮に追いつくためじゃない」
「自分たちが、本当に人を守れるのか確かめるために」
蓮は笑った。
「頑張ってください」
「お前もな」
佐伯が笑う。
そして。
四人は会議室を出ていった。
扉が閉まる。
蓮はしばらく、その方向を見ていた。
零が隣に来る。
「寂しいか?」
「どうだろう」
蓮は少し笑った。
「でも」
「うん?」
「これで、本当に終わった気がする」
十年前の事件。
研究者。
実験。
追放。
そして。
かつての仲間たち。
いろいろなものが。
少しずつ過去になっていく。
その時。
本部全体に警報が鳴り響いた。
《緊急警報》
蓮が顔を上げる。
政府職員が端末を確認する。
「妖怪反応です」
「どこですか?」
「東京都内」
画面に地図が表示された。
赤い点が一つ。
「……Aランク相当」
零が立ち上がる。
第一号たちも動く。
蓮は腰の刀に手を添えた。
さっきまでとは。
空気が違う。
これは。
過去の戦いではない。
今を生きている人たちを守るための戦いだ。
蓮は立ち上がる。
「行こう」
第一号が笑った。
「今度は、誰かに命令されたからじゃない」
第二号が続ける。
「私たちが、自分で選んで行く」
蓮は頷いた。
「そうだな」
扉を開ける。
外へ出る。
東京の空には。
雲が広がっていた。
その向こうから。
かすかに。
妖気が流れてくる。
蓮は空を見上げた。
そして。
静かに笑った。
「妖怪拾いの仕事だ」
仲間たちとともに。
蓮は走り出した。




