↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『勇者パーティを追放された「妖怪拾い」、実は倒した妖怪の力を使える最強職でした』   作者: 水原伊織


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/48

第43話 最後の記録

――――――――――――

**東京都北区・旧研究センター跡**

**午前零時十二分**

――――――――――――


夜の静けさが戻っていた。


つい先ほどまで空を覆っていた黒い亀裂は消え、街には少しずつ明かりが戻り始めている。


それでも。


蓮たちは誰一人、動かなかった。


目の前にいる研究者。


十年前と変わらない姿をした男が、深く頭を下げている。


「すまなかった」


蓮は黙って男を見る。


「何についてだ?」


研究者は顔を上げた。


「すべてだ」


「君を実験に利用したこと」


「零を利用したこと」


「そして、あの子たちを作ったこと」


研究者は第一号たちへ視線を向ける。


「すべて私の責任だ」


零が一歩前へ出る。


「だったら聞かせろ」


「十年前、何があった?」


研究者はしばらく黙っていた。


そして。


「記録を見せよう」


男が研究施設跡へ戻る。


蓮たちも後を追った。


―――――――――――――


地下へ戻ると。


研究者は一台だけ残っていた端末を起動した。


画面に古い映像が映し出される。


十年前。


まだ研究施設が稼働していた頃の記録だった。


白衣を着た研究員たち。


その中央に。


幼い蓮がいる。


そして。


隣には零がいた。


「……俺たちだ」


零が呟く。


研究者は映像を止めた。


「この時点では、まだ妖怪は存在していなかった」


蓮は画面を見る。


「じゃあ、妖魂は?」


「存在していた」


研究者は答える。


「ただし、人間の世界からは認識できなかった」


「別の場所に存在していたんだ」


画面が切り替わる。


黒い空間。


そこに無数の光が浮かんでいる。


「私たちは、それを妖魂と呼んだ」


「そして研究を始めた」


研究者の声が重くなる。


「最初は単純な研究だった」


「妖魂とは何なのか」


「なぜ存在するのか」


「人間と接触できるのか」


「そして――」


画面に一人の研究員が映る。


「融合できるのか」


蓮は拳を握った。


「それが……始まりだったんだな」


「そうだ」


研究者は頷いた。


「人間の魂と妖魂を融合させる」


「それが成功すれば、病気も、肉体の限界も超えられると考えた」


零が睨む。


「そして俺たちを使った」


「最初は違った」


「何?」


研究者は画面を見る。


「最初の被験者は、私自身だった」


映像の中。


若い研究者が装置の中に立っている。


妖魂が身体へ流れ込む。


研究者は苦痛に顔を歪める。


しかし。


死ななかった。


「私は生き残った」


「妖魂に適応した人間として」


蓮が尋ねる。


「だから、今も十年前と同じ姿なのか」


「ああ」


研究者は自分の手を見る。


「老化が止まったわけではない」


「妖魂が私の細胞を修復し続けている」


「その代わり」


男は苦笑した。


「人間としての寿命も、もう分からない」


沈黙が落ちる。


研究者は話を続けた。


「私は成功例になった」


「だから研究は止まらなかった」


画面が切り替わる。


そこには。


**第零号**


の文字。


「これが最初の実験体だ」


空が画面を見る。


自分と同じ顔。


「零号は、人間と妖魂を完全に融合させるために作られた」


「だが、完全ではなかった」


次に。


**第一号**


「第一号は、蓮の魂から切り離した適合核を使った」


第一号が画面を見る。


「だから俺は……」


「君は蓮の一部から生まれた」


研究者は淡々と答えた。


「だが、今の君はもう蓮の一部ではない」


第一号が顔を上げる。


研究者は続けた。


「君自身の魂を持っている」


第一号はしばらく黙っていた。


そして。


「……それならいい」


小さく笑った。


次に。


**第二号**


**第三号**


**第四号**


次々と記録が流れる。


蓮は画面を見つめる。


誰もが。


自分を完成させるための部品として作られていた。


「最低だな」


零が呟く。


研究者は否定しなかった。


「その通りだ」


映像が最後の記録へ切り替わる。


日付は十年前。


そこには。


巨大な黒い球体が映っていた。


「これが……」


蓮が呟く。


「第一妖魂だ」


研究者が答える。


「私たちは、ついに妖魂の中心へ触れた」


「そして」


画面が激しく揺れる。


警報。


研究員たちの悲鳴。


黒い光。


「扉が開いた」


研究者の声が震える。


「こちら側と、あちら側が繋がった」


画面の中で。


無数の妖魂が研究施設へ流れ込む。


その直後。


日本各地で妖気反応が発生している。


「これが……妖異災害」


「そうだ」


研究者は目を閉じる。


「私たちは扉を閉じようとした」


「でも、間に合わなかった」


蓮が尋ねる。


「その時、俺は何をしていた?」


研究者は画面を切り替える。


幼い蓮が映る。


少年は泣きながら。


装置の前に立っている。


「零を助けて」


幼い蓮が言っている。


「兄ちゃんを助けて」


研究者が答える。


『君の魂を使えば、零を救える』


蓮の顔が固まる。


「……嘘だったんだな」


「ああ」


研究者は認めた。


「零を救う方法などなかった」


「私は君の魂を研究したかった」


「だから嘘をついた」


零が拳を握る。


「俺のために……」


蓮は兄を見る。


「兄さんのせいじゃない」


「俺が勝手に信じただけだ」


「違う」


零は首を振った。


「子供だったんだ」


「俺たちは、まだ何も知らなかった」


蓮は黙った。


研究者が続ける。


「そして私は、君の魂から適合核を切り離した」


「それが第一号になった」


「さらに別の魂を使って、第二号、第三号、第四号を作った」


「だが」


研究者は画面を見る。


「一つだけ、計画通りにならなかった」


蓮が顔を上げる。


「何が?」


「君自身だ」


研究者は蓮を見た。


「私は君を器にするつもりだった」


「妖魂を吸収し続ける、人間と妖怪の完成体に」


「だが君は」


「妖魂を吸収するだけではなく、守り始めた」


蓮は自分の手を見る。


「妖魂保護……」


「あれは、研究では確認されていない能力だった」


研究者は苦笑する。


「君自身が、私たちの計画を壊したんだ」


その言葉を聞いた瞬間。


第一号が笑った。


「なるほどな」


第三号も頷く。


「だから、蓮だけは予測できなかった」


第四号が拳を握る。


「俺たちが部品じゃなくなったのも、そのせいか」


第二号が蓮を見る。


「蓮が私たちを守ったから」


零号も。


空も。


蓮の隣に立った。


研究者は静かに言う。


「君は十年前から変わっていない」


「何?」


「誰かを助けようとする」


「自分が傷ついても」


「誰かを置いていかない」


蓮は研究者を見る。


「だったら」


「なぜ今まで止めなかった?」


研究者は答えなかった。


長い沈黙の後。


「怖かったんだ」


その一言に。


蓮たちは黙った。


「自分が間違っていたと認めるのが」


研究者は俯く。


「十年間」


「私は研究を続ければ、いつかすべてを取り戻せると思っていた」


「君の魂も」


「零の人生も」


「失われた命も」


「だが」


男は顔を上げる。


「取り戻そうとするほど」


「私は多くのものを壊していった」


蓮は何も言わない。


研究者は最後に。


一枚の古い記録を端末へ表示した。


そこには。


十年前の実験記録の最後に。


一行だけ文字が残っていた。


【実験対象・神谷蓮】


【適合率――測定不能】


蓮の目が見開かれる。


「……測定不能?」


研究者が頷く。


「当時の君の適合率は」


「23%ではなかった」


「最初から、測定そのものができなかった」


蓮の胸の奥で。


魂環が微かに輝いた。


そして。


第一号たちの魂も。


同時に反応する。


研究者が呟いた。


「君の本当の能力は」


「妖魂を拾うことではない」


蓮は黙って男を見る。


研究者は。


静かに告げた。


「魂と魂を繋ぐことだ」


―――――――――――――


画面が暗くなる。


十年前の記録は。


そこで終わっていた。


蓮はしばらく動かなかった。


そして。


ゆっくりと刀を鞘へ戻した。


「……もういい」


研究者が顔を上げる。


「え?」


「十年前のことは分かった」


蓮は仲間たちを見る。


第一号。


第二号。


第三号。


第四号。


零号。


空。


そして。


兄の零。


「これからどうするかは」


蓮は前を向いた。


「俺たちで決める」


研究者は目を閉じた。


「……そうか」


その顔には。


初めて。


安堵のような表情が浮かんでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。