第4話 河童の妖魂
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**東京都北区・荒川河川敷**
**午後八時**
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「ギィィィィッ!」
河童が地面を蹴った。
巨体が一気に迫ってくる。
「速い……!」
蓮は刀を構えた。
距離が縮まる。
河童の爪が振り下ろされた。
「くっ!」
蓮は横へ飛んだ。
ドンッ!
地面に爪が突き刺さる。
アスファルトが砕け、土煙が舞った。
「今のを食らったら、終わるな……」
昨日戦った餓鬼とは、明らかに動きが違う。
これがDランク妖怪。
蓮は刀を握り直した。
「落ち着け」
相手の動きを見る。
河童は力任せに突っ込んでくる。
右腕。
左腕。
爪。
そして――。
「頭の皿……」
河童の頭頂部にある円形の皿。
そこから、青白い妖気が漏れている。
蓮は昨日のニュースで見た討伐士の解説を思い出した。
『河童は水場では非常に高い戦闘能力を発揮します。特に頭部の皿に蓄えられた妖力には注意してください』
「水場じゃなければ……」
勝機はある。
河童が再び突進してきた。
「来い!」
蓮は正面から迎え撃つ。
河童の爪が迫る。
その瞬間。
蓮は右腕に力を込めた。
「――鬼腕!」
ドンッ!
拳と爪がぶつかった。
「ギャッ!」
河童の巨体が吹き飛ぶ。
数メートル転がり、地面に叩きつけられた。
「……やっぱり、すごいな」
鬼から拾った力。
普通の人間なら、あれほどの巨体を殴り飛ばすことはできない。
蓮は自分の右腕を見る。
傷一つない。
「これなら……戦える」
河童が起き上がった。
「ギィィ……!」
怒りの声。
頭の皿から妖気が噴き出す。
周囲の空気が震えた。
「まだ終わってないか」
河童が川へ向かって走り出す。
「逃げる?」
蓮が追う。
河童は水際で振り返った。
そして――。
川へ飛び込んだ。
「しまった!」
バシャーン!
水面が大きく揺れる。
河童の姿が消えた。
蓮は川岸で足を止める。
「……水の中か」
静かな川面。
河童の姿は見えない。
周囲の討伐士たちから声が飛ぶ。
「追うな!」
「水中じゃ河童の領域だ!」
「一度、陸に誘い出せ!」
蓮は黙って川を見つめた。
水中。
河童の得意な場所。
そこへ入れば、自分は圧倒的に不利になる。
普通なら。
「普通なら……か」
蓮は自分の中にある二つの力を思い出す。
鬼腕。
飢餓耐性。
まだ二つしかない。
もし、この河童からも力を拾えるなら。
「やってみるか」
蓮は刀を鞘に戻した。
「おい!」
討伐士の一人が叫ぶ。
「何をするつもりだ!」
蓮は答えなかった。
そのまま川へ入っていく。
膝まで水に浸かる。
腰まで。
胸まで。
「……冷たいな」
そして。
蓮は川へ潜った。
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**荒川・水中**
**午後八時五分**
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視界が一気に暗くなった。
「……!」
息が苦しい。
水の中では、まともに呼吸できない。
河童の姿も見えない。
蓮は周囲を探す。
そのとき。
水中から巨大な影が迫ってきた。
「!」
河童。
口を大きく開き、蓮へ襲いかかってくる。
蓮は体をひねった。
爪が頬をかすめる。
血が水へ流れていく。
「……!」
息が限界に近づく。
河童は水中を自由自在に動いている。
速度も陸上とは比較にならない。
蓮は刀を抜いた。
河童が再び突っ込んでくる。
今度は逃げない。
「ここだ……!」
河童の攻撃を待つ。
距離が縮まる。
そして――。
蓮は右腕を振り抜いた。
「鬼腕!」
拳が河童の胸部へ直撃した。
ドゴンッ!
水中なのに、凄まじい衝撃が走った。
河童の体が吹き飛ぶ。
蓮は一気に距離を詰めた。
刀を振る。
斬撃が河童の肩を捉えた。
「ギィィィィッ!」
河童が暴れる。
その動きが鈍くなる。
蓮は最後の力を振り絞った。
刀を両手で握る。
「これで――終わりだ!」
振り下ろす。
刃が河童を捉えた。
河童の体から、青白い光が溢れ出す。
そして――。
河童の姿が崩れていった。
「……勝った」
蓮は水中で息を吐いた。
その直後。
目の前に、黒と青が混ざった光が現れる。
昨日と同じ。
妖魂だ。
《妖魂を確認しました》
《対象――河童》
《妖魂を取得できます》
蓮は手を伸ばした。
「拾う」
光に触れた瞬間。
《妖魂の取得に成功しました》
《固有能力『水中呼吸』を獲得しました》
その瞬間。
苦しかった胸が――楽になった。
「……!」
水の中なのに呼吸ができる。
蓮は目を見開いた。
口から息を吸う。
水中なのに、普通に呼吸できる。
「これが……河童の力」
蓮は思わず笑った。
鬼腕。
飢餓耐性。
そして、水中呼吸。
妖怪を倒すたびに、自分の力が増えていく。
「面白いな……」
蓮は水面を見上げた。
昨日まで、自分は役立たずだった。
妖怪を拾うだけの人間だった。
今は違う。
妖怪を倒せる。
そして――その力まで拾える。
「もっと強い妖怪を倒せば……」
どんな力が手に入るのだろう。
蓮は川底を蹴った。
一気に水面へ浮上する。
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**荒川河川敷**
**午後八時十分**
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バシャッ!
蓮が水面から顔を出した。
「神谷!」
河川敷にいた討伐士たちが騒ぎ始める。
「生きてるぞ!」
「河童はどうした!」
蓮は川岸へ上がった。
服はびしょ濡れ。
頬には小さな傷。
それでも――。
手には何も持っていない。
「河童は?」
討伐士が尋ねる。
蓮は川を振り返った。
「倒しました」
「……は?」
誰も言葉を返せなかった。
Dランク妖怪。
河童。
それを一人で倒した。
しかも、水中で。
蓮は自分の手を握る。
「妖怪拾い……」
小さく呟いた。
「思ってたより、ずっと面白い仕事かもしれない」
そのとき。
スマートフォンが鳴った。
政府アプリから新しい通知。
【妖異災害情報】
【新規発生を確認】
【東京都足立区】
【対象:大百足】
【危険度:Cランク】
蓮は画面を見つめた。
「……Cランク」
口元が少しだけ上がる。
「次は、こいつか」
新しい妖怪。
新しい妖魂。
そして、新しい力。
蓮の妖怪拾いは――始まったばかりだった。




