第38話 誰も捨てない
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**東京都北区・旧妖異対策研究センター**
**地下最深部・「拾」の扉の奥**
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「……誰かいる」
蓮は扉の奥を見つめていた。
暗闇の向こうから聞こえた声。
それは確かに、人間のものだった。
『……れん』
もう一度。
小さな声が響く。
『たすけて……』
蓮は一歩踏み出した。
「蓮!」
零が呼び止める。
「罠かもしれない」
「分かってる」
蓮は振り返る。
「それでも行く」
第一号が蓮の横に立った。
「なら俺も行く」
第二号も続く。
「私も」
第三号は肩をすくめた。
「ここまで来たら、最後まで付き合うよ」
第四号も頷いた。
「俺も行く」
政府職員は少し迷った後、端末を握り締めた。
「私も残ります」
零が笑う。
「全員で行くか」
蓮は頷いた。
「うん」
研究者だけが、その場に残っていた。
「……愚かな選択だ」
蓮は振り返る。
「そうかもしれない」
「でも」
蓮は扉の奥へ進んだ。
「一人も置いていかない」
研究者は何も言わなかった。
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扉の奥は、巨大な空間になっていた。
壁一面に。
無数の文字が刻まれている。
「妖魂」
「適合」
「器」
そして。
「拾」
蓮は足を止めた。
「……これ」
第一号が壁を見る。
「俺たちの記録だ」
そこには。
第一号。
第二号。
第三号。
第四号。
そして。
**神谷蓮**
という名前が並んでいた。
さらにその下。
一つだけ。
名前のない項目がある。
【第零号】
蓮が眉をひそめる。
「第零号……?」
零の表情が変わった。
「俺は……聞いたことがない」
その瞬間。
部屋の中央に明かりが灯った。
巨大な装置。
その中に。
一人の少年が眠っていた。
年齢は。
十歳ほど。
黒い髪。
白い肌。
目を閉じている。
そして。
その顔は。
蓮にそっくりだった。
「……俺?」
蓮が呟く。
第一号が首を振る。
「違う」
「こいつは……」
第三号が装置へ近づく。
「蓮の魂を使って作られた存在じゃない」
「じゃあ何だ?」
第三号は答えた。
「蓮が生まれる前に作られた」
蓮の表情が変わる。
「……どういうこと?」
装置の横に古い記録が表示された。
【第零号】
【人間と妖魂の完全融合実験】
【被験者――神谷家】
蓮は息を呑んだ。
「神谷家……」
零が装置を見つめる。
「俺たちの家族が……?」
その瞬間。
少年の目が開いた。
赤い瞳。
蓮と零を見つめる。
「……兄さん」
零が凍りつく。
「兄さん……?」
少年はゆっくり口を開く。
「ずっと……待ってた」
蓮の胸の奥で。
適合核が激しく震えた。
《未知の魂――接続》
《魂域――反応》
《適合率――28%》
「また上がった……」
政府職員が端末を見る。
28%。
少年が蓮を見る。
「あなたが……蓮?」
「そうだ」
「……やっぱり」
少年は微笑んだ。
「同じ匂いがする」
蓮は警戒したまま尋ねる。
「君は誰?」
少年は答えた。
「分からない」
「名前は?」
「ない」
その答えに。
蓮は少しだけ表情を緩めた。
「じゃあ、名前を決めればいい」
少年が驚く。
「……決めていいの?」
「自分の名前なんだから」
少年は蓮を見つめる。
「あなたは……優しいね」
その瞬間。
部屋の奥から声が響いた。
「優しさではない」
全員が振り返る。
研究者がいつの間にか立っていた。
「彼は、第零号」
「私が最初に作った実験体だ」
蓮は睨む。
「どうしてここにいる?」
「彼は十年間、この場所で眠っていた」
「そして」
研究者は少年を見る。
「君を待っていた」
少年が怯えたように研究者を見る。
「……嫌だ」
「何?」
「もう……実験は嫌だ」
研究者は黙った。
少年は震えている。
「痛かった」
「ずっと痛かった」
蓮の拳が強く握られる。
零が一歩前へ出た。
「蓮」
「分かってる」
蓮は少年の前へ歩く。
「もう大丈夫だ」
研究者が言う。
「近づくな」
蓮は止まらない。
「この子も連れていく」
「できない」
「なぜ?」
研究者の声が低くなる。
「第零号は、君の適合核を安定させるために必要な存在だ」
「つまり?」
「彼を連れて行けば」
研究者は蓮を見つめた。
「君は完成しない」
蓮は少年を見る。
そして。
静かに答えた。
「それでいい」
研究者の表情が固まる。
「……何?」
「完成なんてしなくていい」
蓮は少年へ手を伸ばした。
「俺はこの子を置いていかない」
「第一号も」
「第二号も」
「第三号も」
「第四号も」
「兄さんも」
「誰も捨てない」
研究者が怒鳴る。
「それでは世界を救えない!」
蓮は振り返る。
「世界を救うために、誰かを捨てるなら」
「俺はそんな世界を救いたくない」
静寂。
その言葉に。
第一号が笑った。
「……やっぱり、お前は変わらないな」
第二号も頷く。
「だから私は、あなたを守りたかった」
第三号が苦笑する。
「計画が全部狂ったよ」
第四号は拳を握る。
「でも」
「こっちのほうがいい」
零が蓮の肩に手を置く。
「それでいい」
蓮は少年を見る。
「行こう」
少年は少し迷った。
それから。
蓮の手を握った。
「……うん」
その瞬間。
研究者の身体から大量の妖魂が噴き出した。
「ならば」
男の身体が黒く染まる。
「君たち全員を、ここで止める」
地下施設が震えた。
第一号が構える。
「来るぞ!」
第二号が結界を展開する。
第三号が妖魂を操る。
第四号が前へ出る。
零も拳を握った。
蓮は少年の手を離さない。
そして。
研究者の身体から巨大な妖怪の腕が伸びてきた。
「蓮!」
蓮は刀を抜く。
「大丈夫」
胸の奥で。
魂域が広がっていく。
第一号。
第二号。
第三号。
第四号。
零。
そして。
第零号。
すべての魂が。
一つの領域の中でつながった。
《魂域――完全展開》
《保護対象――6》
《特殊条件を確認》
《新たな能力を獲得》
《固有能力――魂鎧》
蓮の身体を。
無数の魂が光となって包み込む。
研究者が目を見開いた。
「それは……」
蓮は刀を構えた。
「俺たちの力だ」
そして。
研究者へ向かって踏み込んだ。




