第29話 第三号との再会
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**東京都北区・旧妖異対策研究センター**
**午前二時十七分**
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建物の中は、異様なほど静かだった。
十年前に閉鎖された研究施設。
外から見れば、古びた三階建ての建物にしか見えない。
けれど地下には、今も研究設備が生きている。
蓮は建物の入口で立ち止まった。
妖気感知を広げる。
「……いる」
すぐ近くに、複数の妖気。
その中には妖怪だけではなく、人間のものも混じっている。
零が隣に立った。
「第三号か?」
「たぶん」
第一号も周囲を見回す。
「違う」
「何が?」
「第三号だけじゃない」
第一号の表情が険しくなる。
「ここには、もっとたくさんいる」
政府職員が端末を確認した。
「周辺に妖異反応はありません」
蓮は首を横に振る。
「機械じゃ見つからないと思います」
「どうして?」
「妖気を隠している」
蓮が建物の奥を見る。
「しかも、かなり上手い」
その瞬間。
建物の中から、拍手が聞こえた。
パチ。
パチ。
パチ。
「さすがだね」
暗い廊下の先から、少年が姿を現した。
第27話でモニターに映っていた少年。
第三号だった。
「妖気感知まで使えるようになったんだ」
蓮は刀を抜く。
「お前が第三号か」
「そう」
少年は笑った。
「初めまして、神谷蓮」
第一号が一歩前へ出る。
「お前……」
第三号は第一号を見る。
「第一号」
「まだ生きてたんだね」
第一号の目が鋭くなる。
「俺を知っているのか」
「もちろん」
第三号は笑った。
「僕たちは全部、同じ場所から始まったんだから」
第二号の少女が蓮の後ろから顔を出す。
第三号は少女を見ると、少しだけ表情を変えた。
「第二号」
「……久しぶり」
少女が答える。
「あなたとは会いたくなかった」
「そうだろうね」
第三号は肩をすくめる。
「君はずっと、蓮を守るように作られていたから」
蓮が割って入る。
「お前たちが何を話しているのか、俺にはまだ分からない」
「なら、見せてあげる」
第三号が指を鳴らした。
その瞬間。
周囲の壁が開いた。
中から大量の黒い妖魂が飛び出してくる。
政府職員が叫ぶ。
「妖魂反応、急上昇!」
蓮は構えた。
「妖怪を集めていたんじゃない」
「そう」
第三号が答える。
「魂を集めていた」
黒い妖魂が一斉に蓮へ向かってくる。
蓮は鬼腕を発動する。
「来い!」
拳を振る。
迫ってきた妖魂が弾き飛ばされる。
続けて風刃。
複数の魂を切り裂く。
けれど。
妖魂は消えない。
二つに分かれた後、再び一つに戻ってしまう。
「再生するのか?」
「違うよ」
第三号が言う。
「それは魂じゃない」
蓮が妖魂解析を使う。
視界が変わる。
「……!」
黒い光の内部に、小さな赤い核がある。
それぞれの魂が、何かに繋がっている。
「操られてる……?」
第三号が笑った。
「正解」
「なら、切る!」
蓮は一気に踏み込む。
風刃を細く圧縮し、黒い魂ではなく、その先にある見えない糸を切断する。
一本。
二本。
三本。
黒い妖魂が次々と床へ落ちる。
その瞬間。
蓮の中で、妖魂保護が発動した。
《保護可能な妖魂を確認》
《対象――十二》
《妖魂保護を開始します》
「……十二体」
蓮の周囲に、十二個の黒い光が浮かぶ。
第三号の笑顔が消えた。
「やっぱり……」
蓮が顔を上げる。
「何がやっぱりだ?」
「その能力」
第三号は蓮を見つめる。
「僕たちが十年間かけても完成させられなかったものを、君は自分で手に入れた」
「妖魂保護のことか?」
「そう」
第三号は静かに答えた。
「研究者たちは、魂を支配することしか考えていなかった」
「だから失敗した」
「でも君は違う」
第三号の視線が、蓮の周囲に浮かぶ十二の妖魂へ向けられる。
「君は魂を守る」
蓮は眉を寄せる。
「それがどうした?」
「だから、君なら完成できる」
「何を?」
第三号は自分の胸に手を当てた。
「僕たちを」
その瞬間。
第三号の身体から、凄まじい妖気が噴き出した。
床が震える。
窓ガラスが一斉に割れた。
第一号が叫ぶ。
「蓮!」
第三号の姿が消える。
次の瞬間。
蓮の目の前にいた。
拳が迫る。
蓮は鬼腕で受け止めた。
衝撃で床が砕ける。
「くっ……!」
第三号の力は、第一号とは違う。
単純な強さではない。
蓮の身体を押しながら、妖気そのものが内部へ侵入してくる。
「何を……!」
第三号が笑う。
「返すんだよ」
「何を返す!」
「君が十年前に失ったものを」
蓮の胸が熱くなる。
《特殊妖魂――異常反応》
《対象から特殊因子を検出》
「……何だ?」
第三号の手が、蓮の胸に触れる。
その瞬間。
世界が白く染まった。
――十年前。
幼い蓮が研究室にいる。
目の前には、黒い魂。
その隣には第三号となる少年。
研究員が言っていた。
『神谷君』
『この魂を拾えば、お兄さんを助けられる』
幼い蓮が手を伸ばす。
けれど。
少年が首を横に振っていた。
『それを拾ったら、君が壊れる』
幼い蓮は迷う。
そして。
魂を拾わなかった。
代わりに。
自分自身の魂から、一つの光を取り出した。
『これなら……俺が壊れなくて済む』
その光を少年へ渡す。
――現在。
蓮は目を開いた。
「……そういうことだったのか」
第三号が目の前にいる。
「思い出した?」
蓮はゆっくりと拳を握る。
「お前は……あの時の俺を止めようとした」
「そう」
「そして俺は、お前に何かを渡した」
第三号が頷く。
「僕が受け取った」
蓮は自分の胸を見る。
「それが……第三号?」
「違う」
第三号は首を横に振った。
「僕は、それを使って作られた」
「じゃあ、俺が渡したものは……」
第三号は答えた。
「君の適合核の一部だよ」
蓮の表情が変わる。
第一号が驚く。
「一部……?」
第三号は頷く。
「第一号は、君の適合核そのものを中心に作られた」
「僕は、その残りから作られた」
そして。
第二号の少女が口を開いた。
「私は、その二人を繋ぐために作られた」
蓮は三人を見る。
第一号。
第二号。
第三号。
十年前、自分の魂から切り離されたもの。
そして、それを守るために作られた存在。
すべてが少しずつ繋がっていく。
「じゃあ……」
蓮は第三号を睨んだ。
「お前は俺を殺したいわけじゃない」
第三号は笑った。
「もちろん」
「じゃあ、何が目的だ?」
第三号は一瞬だけ黙った。
そして。
「君を完成させる」
「そのために、僕たち三人を君の中へ戻す」
蓮の背筋に寒気が走る。
「……融合するつもりか」
「そう」
第三号の目が赤く光る。
「でも、今度は違う」
「何が?」
第三号は微笑んだ。
「君が人間のまま、完成するんだ」
その言葉と同時に。
施設の地下から、巨大な音が響いた。
ゴゴゴゴゴ――。
第三号が振り返る。
「来た」
蓮が妖気感知を広げる。
地下深くから。
今まで感じたことのないほど巨大な妖気が上昇してくる。
第一号が顔を青ざめさせた。
「……あれは」
第二号も震えている。
「嘘……」
蓮が二人を見る。
「何なんだ?」
第一号が答える。
「第四号だ」
「第四号?」
第一号は苦しそうに言った。
「俺たち三人が失敗した時のために作られた――」
地下から、巨大な咆哮が響き渡った。
「**完成体だ**」
蓮は刀を握り直した。
東京へ戻ってきたばかりなのに。
十年前の実験は、まだ終わっていなかった。
むしろ。
ここからが、本当の戦いだった。




