第28話 東京にいる第三号
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**長野県上田市・地下研究施設**
**最深部**
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「所在地――東京都」
モニターに表示された文字を見つめながら、蓮は動かなかった。
第三号。
十年前の研究施設で作られた実験体。
それが、すでに東京へ出ている。
「いつからだ?」
蓮が尋ねる。
スピーカーの向こうから、研究者の声が返ってきた。
「三日前だ」
「三日前……」
「正確には、三日前の午前二時十三分」
政府職員がすぐに端末を取り出す。
「東京で妖異災害が発生していないか確認します」
数秒後。
彼女の顔色が変わった。
「……あります」
「何が?」
「三日前から、東京各地で小規模な妖異反応が連続して発生しています」
蓮が眉を寄せる。
「被害は?」
「ほとんどありません」
「ほとんど?」
「妖怪は出現しているのですが……討伐された形跡も、死体もありません」
蓮はモニターを見る。
「まるで、誰かが妖怪だけを連れていってるみたいだな」
第一号が静かに呟いた。
「違う」
「え?」
「連れていってるんじゃない」
第一号はモニターの地図を見つめていた。
東京に表示された複数の赤い点。
「集めてるんだ」
蓮の表情が変わる。
「妖怪を?」
「そう」
第一号が答える。
「十年前、研究者たちがやっていたことと同じだ」
零が顔をしかめる。
「妖魂を集めているのか?」
「たぶん」
その瞬間。
モニターの映像が切り替わった。
東京の地図が拡大される。
赤い点が、ある場所を中心にして集まっている。
「ここは……」
政府職員が息を呑んだ。
「東京都北区」
蓮の目が細くなる。
その場所には、見覚えがあった。
「荒川……」
十年前の研究施設とは違う。
それでも。
何かが、同じ場所へ集められている。
そして地図の中心には、一つの施設が表示された。
【旧・妖異対策研究センター】
「ここは現在使われていません」
政府職員が説明する。
「十年前の妖異災害後に閉鎖された施設です」
蓮は第一号を見る。
「知ってるか?」
第一号はしばらく黙っていた。
やがて、首を横に振る。
「知らない」
「本当に?」
「ああ」
第一号は胸を押さえた。
「俺が知っているのは、あの地下施設だけだ」
第二号の少女が静かに口を開いた。
「私も知らない」
蓮は二人を見た。
「じゃあ、第三号は何をしようとしてる?」
少女は答えなかった。
代わりに。
モニターに新しい映像が映った。
監視カメラの映像だった。
薄暗い研究室。
床には妖怪の死体が並んでいる。
その中央に、一人の少年が立っている。
年齢は十七、八歳ほど。
黒い髪。
白いシャツ。
細身の身体。
顔は普通の少年に見える。
けれど。
少年が振り返った瞬間。
蓮の身体が強く反応した。
《特殊妖魂――共鳴》
《対象――第三号》
《適合率――25%》
「……こいつ」
少年が監視カメラを見上げる。
まるで、こちらから見られていることを知っているようだった。
そして。
口元を少しだけ上げる。
『神谷蓮』
蓮の背筋に寒気が走った。
『やっと来る気になったんだね』
「……俺を知っている」
第一号が画面を見つめる。
「当然だ」
「何?」
「第三号は、俺たちより後に作られた」
「それなら、俺のことを知らないはずだ」
「違う」
第一号は首を振る。
「第三号は、俺たちとは目的が違う」
少年がカメラへ向かって話し始める。
『第一号は、あなたの失われた魂』
『第二号は、あなたを守るための器』
『そして僕は――』
そこで少年は言葉を止めた。
「……何だ?」
蓮が画面に近づく。
少年は笑った。
『あなたを完成させるための存在だよ』
映像が途切れた。
地下室が静まり返る。
蓮はしばらく画面を見つめていた。
「完成……?」
零が低い声で言う。
「蓮」
「ああ」
「絶対に一人で行くな」
蓮は頷いた。
「分かってる」
その時だった。
少女が蓮の袖を掴んだ。
「私も行く」
「危険だ」
「それでも行く」
少女は蓮を見上げる。
「第三号は、あなたを殺すためには動いていない」
「じゃあ何のためだ?」
「たぶん……」
少女は少しだけ震えながら答えた。
「あなたの中にあるものを、取り出すため」
蓮の表情が険しくなる。
「適合核か」
少女は頷いた。
「うん」
第一号が立ち上がる。
「なら、俺も行く」
零も続く。
「俺もだ」
政府職員が三人を見る。
「……全員で東京へ戻る、ということですね」
蓮は頷いた。
「はい」
そして。
蓮はもう一度、モニターに映った第三号の顔を見る。
なぜか。
初めて会ったはずなのに、どこか懐かしい。
その理由が分からない。
ただ一つだけ分かる。
第三号は、自分を待っている。
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**東京都北区・旧妖異対策研究センター**
**同日・深夜**
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誰もいないはずの建物の中。
少年は、一人で研究室に立っていた。
周囲には、数十個の透明な容器。
その中には、黒い妖魂が浮かんでいる。
少年は一つの容器を手に取った。
「もうすぐだ」
黒い魂が激しく脈動する。
「神谷蓮が来る」
少年は容器を中央の装置へ置いた。
「そうしたら、全部返してあげる」
その言葉に反応するように。
研究室の奥にある巨大な装置が起動した。
画面に文字が表示される。
【第三号】
【妖魂収集――完了】
【対象――神谷蓮】
【適合核回収準備――開始】
少年は静かに笑った。
「今度こそ――」
その目が、赤く光る。
「十年前の続きを始めよう」
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同じ頃。
長野を出発した車の中で、蓮は眠れずにいた。
窓の外を流れる夜景を眺めている。
その時。
胸の奥で、特殊な魂が震えた。
一度。
二度。
そして。
三度。
蓮は目を閉じる。
「……何だ?」
聞こえた。
声ではない。
言葉でもない。
けれど。
確かに何かが伝わってくる。
**逃げろ。**
蓮は目を開いた。
「……違う」
もう一度、感じ取る。
今度は、はっきり分かった。
特殊な魂が伝えているのは、
**「急げ」**
だった。
蓮は前を向いた。
東京まで、あと少し。
第三号との再会は、もう始まっている。




