第27話 第一号の選択
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**長野県上田市・地下研究施設**
**最深部**
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「今度は、俺が助ける番だ」
暗闇の中から現れた第一号――もう一人の神谷蓮を見て、蓮は刀を構えたまま動かなかった。
先ほどまで自分と殺し合っていた相手だ。
それなのに、今の声には敵意がなかった。
「……助けるって、どういう意味だ?」
蓮が尋ねる。
第一号は、自分の胸元へ視線を落とした。
身体には無数の亀裂が走っている。
それでも、その奥では黒い妖気が脈動していた。
「俺は、お前から切り離された」
「十年前、研究者たちは俺を作った。お前の適合核を利用してな」
「だから俺の中には、お前の記憶がある」
第一号は拳を握る。
「お前が怖かったことも」
「兄さんを助けたかったことも」
「研究者たちを憎んだことも」
蓮は黙って聞いていた。
第一号は続ける。
「そして……お前が最後に選んだことも」
蓮の胸がざわつく。
「最後に、何を選んだ?」
第一号は蓮を見つめた。
「自分の魂を二つに分けることだ」
その言葉に、蓮は十年前の記憶を思い出す。
白い部屋。
泣いている自分。
倒れている零。
そして、自分の胸から黒い光が抜けていく感覚。
『これを持っていけ』
幼い蓮が、誰かに向かってそう言っている。
けれど、誰に渡したのかまでは思い出せない。
「俺は……誰かに渡したのか?」
「違う」
第一号が首を振る。
「お前は、誰にも渡さなかった」
「自分から捨てたんだ」
蓮が息を呑む。
「……捨てた?」
「お前自身を守るためにな」
その時。
背後から、少女の声がした。
「だから私たちが必要だった」
蓮が振り返る。
第二号の少女が、蓮たちを見ている。
その隣には、四本の腕を持つ実験体が立っていた。
先ほどまで蓮たちを襲っていた怪物だ。
「この人の中には、七つの魂がある」
少女は言った。
「一つは、この人自身」
「残りの六つは……実験で無理やり入れられた魂」
怪物の身体が震える。
「……タスケテ」
蓮は妖魂解析を発動した。
視界の中で、七つの光がはっきりと浮かび上がる。
中央に一つ。
その周囲を六つの黒い光が取り囲んでいる。
しかも。
中央の光は、まだ人間の形を保っていた。
「分離できる」
蓮が呟く。
第一号が頷く。
「お前ならできる」
「なぜ分かる?」
「俺も、お前だからだ」
第一号は少し笑った。
「俺には、お前の能力が分かる」
蓮は刀を握り直した。
「なら、やる」
「俺は、この人を救う」
政府職員が驚いたように声を上げる。
「蓮さん! あれを倒さずにどうやって……」
「妖魂保護を使います」
蓮は怪物へ向かって歩き出した。
怪物が唸る。
四本の腕が持ち上がる。
「来るぞ!」
零が叫んだ。
巨大な拳が振り下ろされる。
蓮は横へ飛んだ。
床が砕ける。
続けて二本目、三本目の腕が襲ってくる。
蓮は鬼腕で受け流し、伸縮で身体を引き、風刃を怪物の腕ではなく、その周囲へ放った。
「切るのは身体じゃない」
妖魂解析で見える六つの黒い線。
それぞれが、怪物の中心にある人間の魂へ絡みついている。
蓮はその線だけを狙う。
「魂の繋がりだ!」
風刃が走る。
一本。
二本。
黒い線が切れた。
怪物が悲鳴を上げる。
「グアアアアッ!」
残った四本の腕が一斉に襲いかかる。
蓮は金剛体を発動し、正面から受け止めた。
衝撃で床が沈む。
腕が痺れる。
それでも離さない。
「まだだ……!」
蓮は怪物の胸へ手を伸ばす。
黒い妖魂が暴れ回っている。
「お前たちも、苦しいんだろ」
六つの魂が、一瞬だけ静かになった。
蓮はその隙を逃さない。
「だったら――俺が拾う」
《妖魂保護を発動します》
《対象妖魂――六》
《保護処理を開始》
黒い光が一つずつ、蓮の手の中へ吸い込まれていく。
けれど、蓮は吸収しなかった。
すべてを自分の力にはしない。
ただ、守る。
「……これでいい」
六つの魂が蓮の中ではなく、その周囲に浮かぶ。
《六つの妖魂を保護しました》
《対象妖魂は一時保護状態です》
怪物の身体から、黒い妖気が消えていく。
四本の腕がゆっくりと縮んだ。
そして。
一人の青年が、その場に倒れた。
「……人間に戻った」
政府職員が呟く。
零が駆け寄る。
青年は弱々しく目を開いた。
「……俺は……」
「もう大丈夫だ」
蓮が答える。
「お前の中にいた魂は、全部助けた」
青年の目から涙が流れた。
「……ありがとう」
蓮は静かに頷いた。
その瞬間。
《特殊条件を達成しました》
《妖魂保護――対象六体》
《保護能力が一時的に上昇します》
蓮の胸の奥で、特殊な魂がまた脈動する。
《適合率――25%》
数字は変わらない。
けれど、蓮には分かった。
自分の力が少し変わっている。
今までなら、妖怪を倒して魂を拾えば強くなった。
今は違う。
**守った魂そのものが、蓮の力を支えている。**
その変化を見ていた第一号が、静かに笑った。
「やっぱり……」
「お前は俺とは違う」
蓮が第一号を見る。
「どういう意味だ?」
「俺は、強くなることしか考えられなかった」
第一号は自分の胸を押さえる。
「お前は、強くなる以外の方法を選べる」
その言葉に、蓮は黙った。
その時。
研究施設全体に、再び男の声が響いた。
「素晴らしい」
蓮が顔を上げる。
「……まだいたのか」
「当然だ」
男は笑った。
「君がどこまで成長するのか、私は最後まで見届ける」
「ふざけるな」
蓮の声が低くなる。
「お前が俺たちにしたことを、全部終わらせる」
「終わらせる?」
男が笑う。
「それは無理だ」
「なぜなら――」
施設の巨大モニターが一斉に点灯した。
そこに映し出されたのは、十年前の研究記録。
そして。
蓮が見たことのない一枚の写真だった。
写真には、幼い蓮。
兄の零。
第一号。
第二号。
そして、その後ろに立つ――もう一人の少年が写っていた。
蓮の顔から血の気が引く。
「……誰だ?」
第一号が写真を見て、初めて表情を変えた。
「……そんなはずはない」
第二号の少女も震えている。
「まだ……残ってたの?」
モニターに文字が表示された。
【実験体・第三号】
【状態――活動中】
そして最後に。
【所在地――東京都】
蓮は写真を睨みつけた。
研究施設の地下にいると思っていた「実験体」は、まだ他にも存在していた。
しかも。
その第三号は――
**すでに東京へ出ている。**
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「蓮」
零が呼びかける。
蓮はゆっくりと刀を収めた。
「……帰ろう」
「東京へ?」
「ああ」
蓮はモニターを見上げる。
「今度は、俺たちから探しに行く」
そして。
地下研究施設での十年前の因縁は、新たな舞台へと繋がり始めた。
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