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『勇者パーティを追放された「妖怪拾い」、実は倒した妖怪の力を使える最強職でした』   作者: 水原伊織


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第2話 初めて拾った妖魂

 勇者パーティを追放されてから、三時間。


 神谷蓮は、一人で街を歩いていた。


「……静かだな」


 さっきまで、佐伯たちと一緒だった。


 勇者。


 聖女。


 魔導師。


 剣士。


 そして――妖怪拾い。


 五人パーティの中で、蓮だけが戦闘に参加していなかった。


 だから、追放されても仕方がない。


 少なくとも、蓮自身はそう思っていた。


「俺は……本当に役立たずだったのか?」


 答えは出ない。


 だが、ひとつだけ気になることがあった。


 あの鬼を倒したとき。


 自分の中に入ってきた黒い光。


 そして、


《固有能力『鬼腕』を獲得しました》


 という声。


「……鬼腕」


 蓮は右手を握った。


 グッ。


 何も変わらない。


 普通の手だ。


「やっぱり、気のせいだったのかな」


 そのときだった。


 ――カサッ。


 路地裏から音がした。


 蓮が振り向く。


 暗い路地。


 誰もいない。


「……?」


 もう一度。


 ――カサ。


 何かがいる。


 蓮は腰の刀に手をかけた。


 政府から支給された妖怪討伐用の刀。


 勇者パーティにいた頃は、ほとんど使ったことがない。


 なぜなら、蓮の役割は戦闘後の回収だったからだ。


「いるなら出てこい」


 返事はない。


 蓮が一歩、路地へ入る。


 すると――。


「ギィ……」


 ゴミ袋の陰から、何かが這い出してきた。


 小さい。


 人間の子供ほどの大きさ。


 痩せ細った身体。


 異様に大きな口。


 黄色く濁った目。


「……餓鬼」


 妖怪図鑑で見たことがある。


 人間の食べ物や生命力を奪う、最下級の妖怪。


 危険度はEランク。


 初心者でも倒せる程度の妖怪だ。


 ――普通なら。


「グギィィィ!」


 餓鬼が飛びかかってきた。


「うわっ!」


 蓮は慌てて横へ飛ぶ。


 餓鬼の爪が、ジャケットを切り裂いた。


「こいつ……!」


 思っていたより速い。


 蓮は刀を抜く。


 だが、次の攻撃が来ない。


 餓鬼が地面に落ちていたコンビニ弁当を拾い上げていた。


 そして――。


 むさぼり食っている。


「……なんだ?」


 餓鬼の身体が、少しずつ膨らんでいく。


「まさか、食べたものを力に変えてるのか?」


 蓮は一歩下がった。


 餓鬼がこちらを見る。


 その目が赤く光った。


「グギャアアアアッ!」


 今度は真正面から突っ込んでくる。


「くっ!」


 刀を振る。


 ガキンッ!


 爪と刀がぶつかった。


「重い……!」


 蓮の腕が痺れる。


 さらに餓鬼が爪を振り下ろす。


 避ける。


 また避ける。


「こいつ、Eランクだよな……?」


 息が上がる。


 勇者パーティにいた頃。


 蓮は何度も妖怪討伐を見てきた。


 だが、自分で戦うのは初めてだった。


「こんなに……怖いのか」


 足が震える。


 餓鬼が笑った。


 そして、飛びかかってくる。


「――っ!」


 もう避けられない。


 蓮は反射的に右腕を前へ出した。


 ――ドゴォンッ!


「え?」


 衝撃が走った。


 餓鬼の身体が、吹き飛んだ。


 壁に叩きつけられる。


 ズズズ……。


 蓮は呆然と右腕を見る。


「今の……俺が?」


 右腕に、薄い赤黒い紋様が浮かんでいた。


 鬼の角を思わせる紋様。


 そして。


《固有能力『鬼腕』を発動しました》


《一時的に身体能力が上昇します》


「……本当に、ある」


 蓮の口元がわずかに緩んだ。


「これが……鬼の力」


 餓鬼が立ち上がった。


 まだ生きている。


「だったら――」


 蓮は刀を構え直した。


「試してみるか」


 餓鬼が襲いかかる。


 今度は怖くなかった。


 一歩踏み込む。


 刀を振る。


 ――ザンッ!


 餓鬼の身体が地面に転がった。


 動かない。


 そして。


 黒い煙が、その身体から立ち上った。


 鬼のときと同じだ。


「これが……妖魂」


 蓮が手を伸ばす。


 黒い光が、指先に触れる。


《妖魂を確認しました》


《対象――餓鬼》


《妖魂の回収を開始します》


 黒い光が蓮の身体へ吸い込まれていく。


《妖魂の取得に成功しました》


《固有能力『飢餓耐性』を獲得しました》


「……また?」


 蓮は目を丸くする。


 鬼からは『鬼腕』。


 餓鬼からは『飢餓耐性』。


「まさか……」


 蓮は周囲を見渡した。


 路地裏。


 街灯。


 ゴミ袋。


 そして、倒れた餓鬼。


 誰もいない。


 誰にも見られていない。


 だからこそ――。


 蓮は初めて、自分の職業について考えた。


「妖怪拾いって……」


 胸の奥が高鳴る。


「倒した妖怪の力を……全部、使えるのか?」


 その瞬間。


 遠くからサイレンが聞こえてきた。


 妖怪討伐隊が、この地域に向かっているらしい。


 蓮は刀を納める。


「……帰ろう」


 歩き出す。


 だが、その足取りは追放された直後とは違っていた。


 少しだけ軽い。


 そして蓮は、まだ知らなかった。


 今、自分の中にある妖魂が――二つだけではないことを。


 鬼。


 餓鬼。


 そして。


 日本中に存在する無数の妖怪たち。


 そのすべてが――


 **蓮にとって「力」になり得ることを。**


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