第14話 政府からの特別指名
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**東京都八王子市・高尾山麓**
**午前四時十六分**
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夜が、少しずつ薄くなっていた。
東の空がわずかに白み始めている。
それでも、山の中には昨夜の戦闘跡が残っていた。
なぎ倒された木々。
大きくえぐれた地面。
そして、討伐された百目鬼の巨体。
蓮はその前に立っていた。
「……百目鬼」
妖魂を拾ったことで、蓮にはその妖怪の情報が一部だけ見えるようになっている。
名称。
危険度。
保有していた能力。
そして、最後に表示された不可解な情報。
――自然発生した妖魂ではない。
「誰かが、妖魂に手を加えた」
蓮は呟いた。
その答えを知りたくて、もう一度百目鬼の死体を見る。
けれど、妖魂はすでに消えていた。
残っているのは、黒く焼け焦げた地面だけだった。
「神谷さん」
後ろから声がした。
振り返ると、女性職員が立っている。
昨夜からずっと現場にいたせいか、かなり疲れているようだった。
「少し話をしてもいいですか?」
「はい」
「ここでは何なので、政府の車まで来てください」
蓮は女性職員の顔を見る。
「何か分かったんですか?」
「……ええ」
その表情を見て、蓮は嫌な予感を覚えた。
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**妖異対策本部・臨時車両**
**午前四時三十二分**
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車内に入ると、女性職員はタブレットを蓮へ向けた。
「まず、百目鬼についてです」
画面には、討伐前の映像が映っている。
「この妖怪は、約三時間前まで政府の妖異データベースに存在していませんでした」
「新種ってことですか?」
「それだけではありません」
女性職員が画面を切り替える。
「通常、妖怪は発生地点と妖気濃度に一定の傾向があります。ところが、百目鬼にはその傾向がありませんでした」
「どういうことです?」
「まるで、最初から何者かに作られたような妖気構造なんです」
蓮は黙った。
やはり、自分が感じた違和感は間違っていなかった。
「それと、もう一つ」
女性職員が別の画面を表示する。
そこには蓮の能力情報が並んでいる。
「あなたの妖魂解析が、百目鬼の妖魂に残っていた痕跡を拾っています」
「何が分かったんですか?」
「百目鬼の妖魂には、外部から何かを埋め込まれた形跡がありました」
「外部から……」
「はい」
女性職員は一度言葉を止めた。
「問題は、それを誰がやったのかです」
蓮は画面を見つめた。
百目鬼が言っていた。
――俺と同じ器を持つ人間。
――お前を喰らえば、もっと強くなれる。
あの妖怪は、自分の存在について何か知っていた。
「百目鬼は、俺のことを知っていました」
「……やっぱり」
女性職員の表情が変わった。
「詳しく聞かせてもらえますか?」
蓮は戦闘中の会話を話した。
妖魂を喰らった者には匂いがある。
自分と同じ器を持っている。
そして、自分を喰らえば強くなれる。
そこまで話したところで、女性職員は黙り込んだ。
「どうしました?」
「神谷さん」
「はい」
「あなたは、これまで何体の妖怪から妖魂を拾いましたか?」
「六体です」
「六体……」
女性職員が指を折る。
鬼。
餓鬼。
河童。
大百足。
天狗。
ろくろ首。
そして大鬼。
実際には今回の百目鬼を含めれば七体。
「正確には七体です」
「そうですね」
女性職員は少し考えてから、蓮を見る。
「その能力、政府に登録しますか?」
「……登録?」
「あなたの妖魂取得能力を、正式な特殊能力として認定します」
蓮は眉をひそめた。
「今までは?」
「存在そのものを確認できていませんでした」
女性職員は真剣な顔で続ける。
「あなたの職業は『妖怪拾い』。登録上は戦闘能力を持たない支援職です」
「はい」
「ところが実際には、妖怪の能力を取得し、Aランク妖怪を単独で討伐できる」
「……」
「この能力を政府が把握しておく必要があります」
蓮は窓の外を見る。
空が少し明るくなってきた。
「それって、俺を政府の管理下に置くってことですか?」
「そういう意味ではありません」
「じゃあ、何です?」
女性職員は少しだけ笑った。
「あなたに、正式な討伐士として活動してもらいたいんです」
蓮は黙った。
「今のあなたはCランクです。でも、実力はAランク相当。場合によっては、それ以上と判断されています」
「それ以上?」
「はい」
女性職員が一枚の資料を取り出す。
そこには、蓮の討伐記録がまとめられていた。
短期間で異常な速度で上昇する討伐実績。
取得能力の増加。
そして、Aランク二体の単独討伐。
「審査を通せば、あなたは一気にAランクへ昇格できる可能性があります」
「Aランク……」
蓮は資料を見つめた。
少し前まで、自分には縁のない世界だった。
勇者パーティの最後尾で、仲間の戦闘を眺めていた。
そんな自分が、Aランク。
「……受けます」
蓮は答えた。
「ただ、一つ条件があります」
「何でしょう?」
「俺が拾った妖魂について、調べさせてください」
女性職員が目を見開いた。
「百目鬼の件ですか?」
「それもあります。でも、もっと前から気になっていました」
蓮は自分の胸に手を当てた。
「俺が持っている力が何なのか、知りたいんです」
「……分かりました」
女性職員は頷いた。
「上に掛け合います」
そのとき。
タブレットから警告音が鳴った。
女性職員が画面を見る。
「……また?」
「何かありました?」
「新しい妖異反応です」
画面には日本地図が表示されている。
赤い点が一つ。
東京都ではない。
「長野県……?」
蓮が呟く。
「発生地点は?」
「上田市です」
女性職員の顔が険しくなる。
「危険度は?」
「まだ判定中です」
そこで画面が更新された。
【妖気濃度測定不能】
【既存の妖怪データとの一致率――0%】
「……」
二人とも言葉を失った。
さらに一行。
【現地討伐士から緊急報告】
【対象は人間の言葉を理解している可能性あり】
蓮は画面を見つめた。
百目鬼と同じだ。
普通の妖怪ではない。
「神谷さん」
「はい」
女性職員が蓮を見る。
「さすがに、今度は一人で行かないでください」
蓮は苦笑した。
「善処します」
「絶対に一人で行く顔ですよね、それ」
「……そう見えます?」
「見えます」
車内に、ほんの少しだけ笑いが起きた。
けれど。
次に表示された情報を見た瞬間、二人とも笑えなくなった。
【追加情報】
【対象妖異が発した言葉を確認】
【――「神谷蓮は、どこにいる?」】
「……」
蓮の表情から笑みが消えた。
女性職員も画面を凝視している。
「どうして……」
蓮は小さく呟いた。
自分の名前を知っている。
百目鬼だけではなかった。
誰かが、自分を探している。
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**東京都内・某所**
**午前五時〇三分**
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薄暗い部屋の中。
一人の男が、モニターに映し出された蓮の映像を見ていた。
その隣には、百目鬼の討伐映像。
さらに別の画面には、長野県の妖異反応。
「予想より早いな」
男は椅子に深く腰掛ける。
「妖魂を七つも拾ったか」
その声には、明らかな愉悦が含まれていた。
「やはり間違いない」
男が画面を拡大する。
そこに映っていたのは、蓮の能力欄だった。
【職業:妖怪拾い】
「その職業を持つ者は、十年前に一人だけだった」
男は静かに笑う。
「そして、もう一人が現れた」
モニターの隅に、小さな文字が表示される。
【妖魂適合率――23%】
男はその数字を見つめた。
「まだ低い」
それでも、満足そうだった。
「十分だ」
男が立ち上がる。
「神谷蓮」
「お前が本当に『器』なら――」
暗闇の中で、男の目が赤く光った。
「いずれ、こちらへ来ることになる」
その頃。
蓮はまだ知らなかった。
自分を追放した勇者パーティとの因縁よりも先に――。
**妖怪拾いという職業そのものを巡る戦いが、すでに始まっていることを。**




