1.lowest
「部屋、どんな感じなの、今。」
「結構お洒落になったよ。今度、来てみてよ。」
「まぁ最近、行ってないし。たまには行こうかな。」
「なんか、家具とか置いた?」
「Amazonで、買ってくれたやつだけ。」
「じゃあ、また何か買わされるな。」
「ふふっ。」
彼女は不敵な笑みを浮かべる。
「てか、学校、終わるの遅くない?」
「放課後、部活あったんだよ。」
「部活って、思い出作り以外に、良いことあるの?」
「あるだろ。」
「へぇー。」
とはいいつつ、私も良い所の具体例があまり思い浮かばない……。
これ以上聞かれなかったのは幸運だった。
「今日は、駅地下で食べようよ。」
「私の金で、だろ。」
「ん??」
また不敵な笑みで、聞き返してくる。
「何、食べたいの?」
「予算は?」
「多く見積もって、五百円。」
「ん??」
「え??」
私も、同じ微笑みで返信する。
「寿司にしよ。」
「え。」
「前に行った、立ち食い寿司。」
「……。」
「あの、前の人が握る寿司、めっちゃうまいの!」
「そう……。」
「ね!!」
「はい……。」
私はいつも通り負けた。
「てか、私、家に帰ろうと思ってたのに。」
「どうせ家帰っても、何もすることないでしょ。」
ぐうの音も出ない程の正論。
「引き返すのが、面倒臭いんだよな……。」
「まぁまぁ、そんなこと言わず。ほら。」
と言うと、何故か私の自転車が逆側を向いた。
「はいはい……。」
私たちは、また駅に向かう道へ入る。
「うわ、電車来てるじゃん。
ここの踏切、1回閉まると長いんだよね……。」
「朝とか、ほんとに開かないよな。」
辺りに、遮断機の音が鳴り響く。
私は暫く、なんとなくそれを眺めていた。
「ねぇ、何してるの?」
私はその声につられ、目の前に視点を合わせた。
「えっ……。」
女の子だろうか。私と同い年か、少し年下くらい。
肩をすくめるように、こちらを見ている。
「なんで、遮断機なんかに手をかけてるの?」
「あっ……。ごめんなさい……。」
彼女は、さっと遮断機から手を離した。
「別に、謝る必要はないの。危ないよ?」
「ごめんなさい……。」
「いや、たまたま、触っちゃっただけだろ。」
私が、すかさずフォローを入れる。
「そう……。なら、いっか。」
遮断機の音が、鳴り響く。
いや確かに。
よく考えると上から触るのではなく、
下から手をかけていた。
持ち上げるように。
寄りかかるなら、上から掴むはず。
私はその点が少し気がかりだった。
暫くして、遮断機が上がる。
彼女が歩き出し、私たちもそれに続いた。
踏切を渡り終えたところで、彼女が聞いてきた。
「あの……。わざとですか?」
瑠璃は、きょとんとしている。
「ん……?」
と言いかけた瑠璃の言葉を遮って、
私は口を開いた。
「わざとですよ。」
「そうですか……。
…助けたつもりですか?」
仮説は正しかったようだ。
「いや。この子は、そんなこと思ってないと思いますよ。
私も、助けたなんて思ってないですし…。」
「じゃあ、なんで。」
ここに置く妥当な理由が思いつかなかった。
続けざまに彼女は言う。
「どうせ自分達の為なんでしょ。したり顔で、
私達が助けてあげた。みたいに思ってるんでしょ?」
彼女は続ける。
「私にとってはいい迷惑だったんですけど。
全然私の為になってないし、、。」
「いや、危なかったから言っただけだよ。」
「……。」
瑠璃の一言が、彼女を黙らせた。
「危なかったから教える。
別にそれ以上でもそれ以下でもない。どうしたの?」
瑠璃はまだ、彼女の意図が分かっていないようだった。
「そうですか……。」
彼女は、嘲笑するように言い放った。
「先、行かないんですか?」
彼女が、私たちに問う。
「行きますけど。あなたは?」
「私はここに用事があるので。」
「遮断機に用事があるんですか?」
瑠璃が言う。
「バカにしてるんですか?」
「遮断機好きなの?
電車が好きとか?
私も好きな電車とかあるよ。
あんまり詳しくないけどね。」
「……もういいです。」
「どこ行くの?」
「帰るんです。」
彼女は少し怒っている。
「じゃあ、一緒にご飯食べに行こっか!」
瑠璃が唐突に誘った。
きっと私の金でだろう。
まぁ一人の命が救えるなら安いものだよな。
これも彼女の言う通り、自己肯定感のためなのかな。
彼女の言葉が少し遅れて効いてくる。
「いいです。不愉快です。」
「いや、そんなこと言わずに!」
そう言うと、彼女の体の向きが駅の方へ向いた。
私の自転車と同じ向きだ……。
そうして私たちは歩き出した。




