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FXで破産した俺、地下40kmから人生をやり直す  作者: 旗良北 九内
地下で生きる

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登録

 翌朝、俺はもう1度新人センターへ来ていた。

 昨日までは魔法の検査を受ける場所という印象しかなかったが、入口の案内板を見直すと『探索者登録』『初心者講習』『装備貸与』の文字がちゃんと並んでいる。ナギさんに言われなければ、たぶん気づかないままだった。

 受付で「迷宮に興味があって」と伝えると、話は思ったより早かった。本人確認と健康状態、探索経験の有無を端末へ入力し、数分待つ。


【初心者区画・仮登録完了】


「……もう終わりですか?」

「最初はここからです。担当講師から装備と注意事項の説明を受けてください」


 役所みたいに半日かかる覚悟をしていたので、少し拍子抜けした。


「君、今度は探索者?」


 振り向くと、鳴海先生が紙コップ片手に立っていた。


「まだ登録しただけです」

「支援魔法覚えたての人が、今日は迷宮か。展開早いね」

「ちょっと興味出ちゃって、ええと、鳴海先生」

「トウカでいいわよ」


 トウカ先生は俺の端末に表示された仮登録証を1度見て、そのまま廊下の奥を指した。


「じゃ、装備見よっか。こういうのは実物見た方が早いから」



◇



 連れていかれた部屋には、防護服やブーツ、ライト、救急用品が棚いっぱいに並んでいた。奥には鍵付きの武器棚まである。『冒険者の店』っぽい見た目なのに、値札の代わりに管理番号と返却期限が貼られているあたりは妙に現実的だった。


「まずこれ。着てみて」


 渡されたのは灰色の防護服だった。胸と肩、前腕だけ少し厚くなっているが、持ってみるとかなり軽い。


「もっと鎧みたいなの着るのかと思ってました」

「初心者が重い鎧着て転んだら本末転倒でしょ。浅い場所なら、まずは動ける方が大事」


 防護服の上からベルトを締め、足首まで固定するブーツに履き替える。腰には救急用の小さなポーチと、水と携帯食。最後に簡易地図が表示される探索端末を渡された。


「迷宮の中じゃ地上のGPSみたいにはいかないからね。入口と中継点で位置は補正できるけど、最終的には自分で地図を見る」

「道に迷うって話、本当にあるんですね」

「ある。魔獣より先に道で詰む新人もいるよ」


 怖い話なのに言い方が軽い。

 一通り身につけて鏡を見ると、昨日まで解体場で作業着を着ていた自分とはかなり違って見えた。装備だけなら、ちゃんと探索者っぽい。


「なんか、それっぽくなりましたね」

「見た目だけならね」


 トウカ先生は笑いながら、今度は鍵付きの棚の前で足を止めた。


「で、問題は武器」


 棚には短剣、長剣、槍、弓。どれも触った経験すらない。


「剣って今からでも使えます?」

「振るだけなら今日からでも。魔獣相手に使うならやめといた方がいい」

「ですよね」

「君は攻撃属性もないし……最初はこっちかな」


 隣の棚から取り出されたのは、黒い拳銃だった。

 形は地上の銃に近い。ただ、銃身の側面には細い銀色の線が走り、グリップには半透明の石のような部品が埋め込まれている。


「……銃あるんだ」

「魔力銃。普通の弾を撃つんじゃなくて、使う人の魔力を内部で弾にして飛ばす」

「俺でも使えるんです?」

「属性魔法適性はいらないから。魔力を流せれば使える」


 手渡された銃は、見た目より重かった。

 本物の銃を持っている。そう意識した瞬間、さっきまで少し浮ついていた気分が落ち着く。


「ただし、これで前に出て戦おうとか考えないこと。小型相手の自衛と援護用。硬い相手には何発撃っても止まらないことがある」

「じゃあ、俺の役割はやっぱり支援?」

「基本はね」


 そこで先生が、銃の側面を指で軽く叩いた。


「あと、これも支援魔法も使うのは君の魔力だから。撃てば撃つほど、その分だけ魔法に回せる量は減る」


 言われて初めて気づいた。


「銃を撃ちすぎたら魔力切れになるってこと?」

「そういうこと。まあ君の場合、魔力量はそこそこあるからそこまで気にしなくてもいいけど」


 攻撃手段をもらったというより、選択肢が1つ増えた、という方が近いらしい。


 トウカ先生はそのまま銃を貸与登録機へ置いた。

 探索者登録とは別に、魔獣用の武器には使用者登録が必要らしい。現代製の探索用武器は登録者の魔力情報と紐づいていて、拾った人間がそのまま使えるようにはなっていないという。


「結構ちゃんとしてるんですね」

「銃と剣がその辺で自由に使えたら怖いでしょ」


 たしかにそれはそうだ。

 言われるまま透明な板へ右手を載せると、白い光が指先から手首へ走った。数秒後、銃身の銀色の線が淡く光る。


【貸与登録完了】


「はい。これで君が使える」


 もう1度握ると、グリップの奥がほんの少し温かくなった。俺の魔力を認識したらしい。


「撃ち方は?」

「構えて、魔力を流して、狙って引く。引き金に指をかけるのは撃つ時だけ。人には向けない。撃つ気がないなら魔力も流さない」

「試し撃ちは?」


 トウカ先生は俺の防護服のベルトを引っ張って緩みを確認し、次にブーツ、腰のポーチ、探索端末、最後に魔力銃のホルスターまで一通り見た。


「『今』はいいかな」

「いいんです?」

「的に撃つだけなら、この後できるし」


 その言い方に少し引っかかったが、装備確認はそこで終わった。

 探索者登録もした。防具も借りた。武器も持った。これなら次にナギさんと休みが合った時、迷宮へ連れていってもらえる。

 思ったより1日でずいぶん進んだな、と考えている横で、トウカ先生は紙コップを捨てると、そのまま入口へ向かって歩き出した。


「じゃ、行こっか」


 反射的についていきかけて、俺は足を止めた。


「行くって、どこに?」

「迷宮」

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