積み上げ
初めての協会依頼から数日。俺たちは、第4標識の先で白脈草を摘んでいた。
正確には俺とナギが摘んでいる。シズルは少し離れた岩の上に立って、通路の奥を見ていた。
「これで8束?」
「7です。それ、白脈草じゃなくて灰葉苔」
手に持っていた草を戻す。見た目が似すぎていると思う。
ナギは何も言わず、俺が抜きかけた灰葉苔の根元へ土を寄せた。
「最初の頃よりは見分けられるようになったんだけどな」
「最初は全部雑草でしたからね」
否定できない。
その間にもナギは8束目を見つけ、傷んでいない葉だけを選んで袋へ入れた。
協会依頼としては3件目だった。
1件目が救難備蓄箱の補充。2件目は第4標識北側の通路確認。
崩落しかけた壁があるという報告を受け、位置と状態を記録して帰った。
戦闘は2回。どちらも鉤爪猿で、以前なら少し身構えた相手だった。
今は違う。
頭上で石が転がる音がした。
「左上、2」
シズルの声と同時に、俺は草の袋を腰へ固定した。
鉤爪猿が2匹、岩棚から飛び降りる。
1匹はシズルへ。
もう1匹は俺たちの後ろへ回ろうとする。
【加速補助】
シズルの踏み込みが伸びた。
俺はその結果を見届ける前に視線を外す。
後ろへ回る1匹へはナギの水魔法。
【水縛】
足首へ絡むのではなく、着地予定の岩へ薄く水を這わせる。
猿の足が滑る。
身体が沈む。
銃を抜く。
ナギの位置。シズルの位置。射線。
1発。
肩へ当たった魔力弾で猿の身体がさらに横へ流れた。
そこへナギの【水弾】が入る。
1匹目を処理したシズルが振り返った時には、2匹目も動かなくなっていた。
「圭くん、射撃上手くなってきた」
自分でもそう思っていたが、シズルに言われると嬉しかった。
◇
白脈草を納品した2日後は、第5標識へ続く候補ルートの手前まで行き、古い目印の位置を確認した。さらに3日後は、別のパーティが落とした測量端末を探した。
測量端末は、岩殻蟹が2匹いる水溜まりの奥に落ちていた。
前なら1匹ずつ崩していた相手だ。
ナギが手を上げる。
【水弾】
小さく固めた水が1匹の顔へぶつかり、鋏ごと上体がわずかに外へ向く。
同時に、もう1匹の足元へ水が走った。
【水縛】
踏ん張る脚だけが流れる。
シズルが空いた側面へ入った。
【加速補助】
俺は支援を切った直後、そのまま銃へ魔力を回す。
傷んだ関節へ1発。
撃った直後、体内の魔力の流れが1度乱れる。それを無意識に整えようとする感覚も、前よりはっきり分かるようになってきた。
もう1発撃てる。
でも撃たない。
ナギが次の水を作っている。
【制御補助】
水流の形が1段締まる。
腹側へ回り込んだ水が、岩殻蟹の身体をわずかに持ち上げた。
シズルの剣が入る。
2匹目も、それほど時間はかからなかった。
測量端末を拾い上げたナギが泥を拭う。
「水原さん、最近撃つ回数減りました?」
「やみくもに撃つのはやめた」
銃で倒せそうなら少し前までなら撃っていた。
でも俺の魔力は、シズルを1歩速くするのにも、ナギの水を整えるのにも使える。
「俺が撃つより、支援魔法入れた方が早い時あるし」
ナギが少し笑った。
「支援術師っぽくなってきましたね」
◇
その日の帰還後、測量端末を受付へ返した。
依頼主のパーティがまだ探索中なので礼は後日になるらしい。俺たちには規定の捜索報酬が支払われた。
これで正式依頼は5件達成。
第4標識以遠の探索記録も増えた。危険区域への無断侵入なし。予定超過なし。救難要請なし。
パーティ画面を開いた瞬間、いつもと違う表示が1つ増えた。
『パーティ:《暁》』
『探索パーティ等級:初級』
『中級昇級試験:申請可能』
3人とも、しばらく画面を見た。
「押す?」
「早いな」
シズルの指はもう申請ボタンの近くにある。
ナギは俺の反対側から画面を覗き込んだ。
「水原さん、どうします?」
最初に初級と表示された時は、中級なんてずっと先の話に見えた。
第4標識まで行って、依頼を受けて、何度も同じ道を歩いた。
今はその文字が、押せる場所にある。
「受けよう」
俺が押すより先に、シズルが押した。
端末が申請を受け付ける。
『中級昇級試験 申請受付』
『実施日:3日後』
『判定役:協会認定上位探索パーティ』
『判定責任者:久我怜司』
「……誰だ」
思わずそう呟く。
「結構すごい人ですよ」
「有名?」
ナギが頷く横で、シズルも珍しく少し反応した。
「強いパーティの人」
支援術師の名前だということまでは、その時の俺は知らなかった。
3日後。
俺は、以前道を教えてくれた関西弁の男と、もう1度会うことになる。




