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FXで破産した俺、地下40kmから人生をやり直す  作者: 旗良北 九内
地下で生きる

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11/26

奥へ

 3匹の角兎が、岩陰からほとんど同時に飛び出した。灰色の毛並み。発達した後脚。額から伸びる短い角。


「左、2匹」


 ナギさんが言うより早く、俺はもう魔力を伸ばしていた。


 肩。手首。呼吸。

 次に何をするか、今はかなり分かる。


【制御補助】


 ナギさんの前に集まった水が、一瞬で形を整える。


【水弾】


 圧縮された水が先頭の角兎の前脚を撃ち抜いた。

 1匹目が崩れる。

 その背を飛び越えて、2匹目。

 俺は魔力銃を抜いた。


 1発。


 白い魔力弾が額の少し下へ当たる。

 銃口が跳ねる。


 2発目。


 1発目とほとんど同じ場所で白い光が弾け、2匹目が地面へ落ちる。

 残った1匹が俺へ向きを変えた。


 速い。

 けれど、その足元を先に水が走った。

 前脚が滑る。

 身体が傾く。


「もらった」


 1発。


 喉元に入った。

 角兎は2度転がり、そのまま動かなくなった。


「射撃、早くなりましたね」

「俺もそう思う」

「自分で言います?」


 そう言いながら、ナギさんも少しだけ笑った。

 初めて2人で迷宮へ入ってから、3週間。日雇いを続けながら休みが合えば潜り、今日で6回目になる。最初は小型魔獣が1匹出るたびに立ち止まっていたのに、今では数匹程度なら大きく崩れず処理できるようになった。


 俺の【制御補助】は以前より長く安定し、ナギさんも俺の支援が入る前提で水魔法の無駄を削るようになっている。

 ナギさんが前へ出れば俺が支援し、敵が抜ければ魔力銃で止める。俺が狙っている間はナギさんが足を崩す。いちいち確認しなくても、それが自然にできるようになってきた。


 ナギさんが3匹から魔石を回収して袋へ入れる。


「3つ。今日はもう元取れましたね」

「まだ午前中だよ」

「幸先良いですね」


 以前なら1日かけて6000円ほどだった俺の取り分も、最近は1万円を超える日が増えている。

 もちろん外れの日もあるが、日雇いと迷宮を並行する生活は思っていたより順調だった。

 問題があるとすれば、浅い区画ではそろそろ物足りなくなってきたことだ。



◇



 少し進んだ先の休憩区画で、ナギさんが探索端末を開いた。

 現在地は初心者向け迷宮の浅層でもかなり奥側。その先、第3標識を越えたところから道が枝分かれし、地図上の注意表示も増えている。


「次、もう少し奥まで行ってみない?」


 ナギさんは画面を拡大しながら少し考えた。


「行けなくはないです。ただ、第3標識より先は魔獣の数が増えます。複数で出ることも多いです」

「今の俺たちならいけそうな気もするけど」

「2人でも行けますよ。でも、複数の魔獣に一斉に来られたらちょっと危ないかもしれません」


 浅層ならナギさんは敵を止めながら、水魔法で攻撃もできる。けれど数が増えれば、前を塞ぐだけで手一杯になる。そうなると俺の支援を乗せた水魔法という、今の2人の強みも活かしにくい。


「前衛が1人いればいい?」

「かなり楽になりますね」

「知り合いいる? ちなみに俺はいない」

「それは知ってます。あと、残念ながら私も思い当たる人はいないですね」

「そうかあ」


 俺の探索者の知り合いなんてトウカ先生くらいしかいない。

 先生を1日パーティへ誘うのは、さすがに何か違う。


「とりあえず、臨時で1人募集します?」

「そんなのできるんだ」

「協会でできます。1日だけ一緒に潜る人とか、割といますよ」


 そこで話はいったん止めた。考えるにしても、腹が減っていた。



◇



 迷宮を出たあと、俺たちは入口近くの食堂へ入った。

 探索者向けの店らしく、壁際には大きな荷物を置く棚があり、床も多少泥がついても目立たない石張りになっている。

 席に着くと、ナギさんがすぐに壁のメニューを見た。


「角兎の煮込みあります」

「……さっき倒してたやつ?」

「同じ種類ですね」

「切り替え早いな」

「美味しいですよ」


 迷いがなかったので、俺も同じものを頼んだ。

 運ばれてきたのは、深い皿いっぱいの濃い茶色の煮込みだった。角兎の肉と地下根菜、それから小さな茸がとろみのあるソースに沈んでいる。焼いただけなら固そうな赤身肉なのに、スプーンを入れると簡単にほぐれた。


「うま」

「角兎って脚の肉は硬いんですけど、長く煮込むと美味しいんですよ。脂が少ないので、こういう濃い味の方が合います」

「また食べ物になると詳しいな」

「別に、普段どおりですよ」


 どう見ても普段どおりではないと思う。

 でもナギさんは煮込みを食べてご機嫌な様子だったので、余計な事は言わないでおいた。



 半分ほど食べたところで、俺はさっきの話を戻した。


「で、3人目。前衛なら誰でもいいわけじゃないよな」

「それは嫌です」


 ナギさんは煮込みを1口食べてから、少し考えた。


「強い人なのはもちろんですけど、勝手に先へ行かない人がいいです」

「大事そうだな」

「あと、危ない時にちゃんと下がれる人。こっちの話を聞く人。初心者2人だと思って仕切りすぎない人」

「条件増えてない?」

「命かかってるので」


 俺も考える。前に立って敵を止めてくれる。それだけなら強ければいい。でも俺の支援は相手の動きを知るほど合わせやすい。ナギさんとの連携がここまで良くなったのも、何度も一緒に潜ったからだ。


「俺としては、動きが分かりやすい人がいいな」

「分かりやすい?」

「次に何するか読める人。支援しやすいから」


 ナギさんが少しだけ俺を見る。


「じゃあ、素直な人ですかね」

「ああ、それかも」

「強くて、勝手に先へ行かなくて、危ない時は下がれて、話を聞いて、素直で、変な人じゃない」

「そんな人来るかな」

「募集する前から諦めないでください」


 本人は真面目だったけど、だいぶ理想が高い気がする。


「性別とか年齢は?」

「別に何でも」


 ナギさんはそこで1度スプーンを止めた。


「……変な人じゃなければ」

「そこ本当に大事なんだな」


 食事を終える頃には、募集条件はだいたい固まっていた。



◇



 食堂を出て、そのまま探索者協会の窓口へ寄った。端末から臨時パーティ募集を開き、2人で相談した条件を入力する。


【募集:前衛1名】

【第3標識より先の探索経験あり】

【1日限定・報酬は探索収益を均等分配】


 送信ボタンを押す。画面に【募集受付完了】と表示された。


 2人でもここまでは来られた。でも、もう少し奥へ行きたい。

 そのために1人だけ、一時的に誰かを加える。


 この時はまだ、それくらいのつもりだった。

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