表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
5/10

第4話 防衛戦線

≪ 登場人物 ≫

◇司令官 52歳 男性

GEV02-CAYAMBE地上防衛基地の司令官


◇エイジ・ミツギ 16歳 男性

OMC軌道保安軍、CAYAMBE防衛部隊所属


◇ユイン・ユノス  18歳 男性

OMC軌道保安軍、CAYAMBE防衛部隊所属


◇ブラントリー・フォクスター 25歳 男性

OMC軌道保安軍、CAYAMBE防衛部隊所属

エイジとユインの部隊長

 戦場と化した軌道エレベーター基部。


 赤道直下の空を、白灰色と黒灰色の人型が交差する。地表から成層圏までを一本の戦域とした防衛戦。


 戦域の中心には、天へ伸びる白いワイヤー。

 対空レーザー、電磁投射砲、無人HFのレールガン。流れ弾を当てることは許されない。軌道エレベーターを守り、軌道エレベーターの損傷を防ぐ。基部の防衛システムはその高度なミッションで構築されていた。


『広域戦況共有、再同期』

『地上防衛系、統合管制へ復帰』

『無人HF第一群から第三群、戦術リンク再構築』

 月からの通信に上書きされていた大型スクリーンへ、三次元戦術図が戻る。白いワイヤー。その周囲に張られた防衛線。上空から降下する黒灰色の機影と、地上から迎撃する白灰色の群れ。


 混乱はなおも続くが、戦況は再び読み取れる形になっていた。

 指揮卓の前から微動だにしない司令官。

「戦術管制、残存数」

「月側HF、推定37。OMC無人HF、交戦可能52。中破8、大破4」

「防衛線は」

「第一線は一部突破。第二線を基部外周20キロで再構築中。内側への侵入機、6」

「敵機の解析は」

「機動ログを処理中です。10秒で予測補助を全遠隔操縦席へ配信できます」


 その間にも、一機のOMC無人HFが月側機に押し込まれていた。

 黒灰色の機体は降下速度を殺さず、上から叩きつけるように膝を打ち込む。白灰色の左肩が砕け、続く腕部ブレードが胸部装甲を掠めた。


『無人HF一七番、中破』

『AI自律制御へ一時委譲。遠隔リンク維持』

 接近角。膝撃へ移る前の肩の沈み。ブレード展開の間。降下速度を格闘へ変える重心移動。そして、回避直後に生じる一瞬の姿勢固定。

 敗北の瞬間は、即座に記録された。


『敵性HF機動パターン、六系統へ収束』

『近接攻撃初動、予測信頼度68パーセント』

『戦術補助レイヤー、更新』

 損耗記録では無く、戦闘に勝つための解析素材が蓄積される。


 遠隔操縦席の全天周モニターへ、敵の予測軌道が赤いマーカーで表示された。


 月側HFの一機が、二機の無人HFの間を抜けようと背面制御板を閉じ、機体を縦に細くして滑り込む。


 だが、その隙間にはすでに弾道により塞がれていた。


 レールガンの金属弾が右脚部を貫く。姿勢を崩した月側機へ、もう一機が横から体当たりを浴びせた。黒灰色の機体がワイヤー外周へ弾き出される。


 射線制限圏を離れた瞬間、地上対空レーザーが胸部を射抜く。

 火球となって墜落する月側HF。


『敵性HF、一機撃墜』

 管制室の空気が、わずかに変わった。偶然ではなかった。


 別の高度では、二機の月側HFが役割を分けて防衛線へ突入していた。一機が囮となり、もう一機が内側へ抜ける。


『複合機動、パターンB』

『突破機、右下方。推奨対応、挟撃』

 三機の無人HFが同時に動く。


 一機が囮の進路を射撃で削り、もう一機が突破機の下へ潜り込む。三機目がワイヤー側の逃げ道を塞いだ。遠隔操縦者の判断とAIの補正が噛み合い、白灰色の機体群が一つの罠を作る。


 月側機は格闘距離へ強引に踏み込んだ。だが、振り上げた腕をワイヤーブレードに絡め取られ、胸部へ至近距離の一撃を受ける。

 また一つ、赤い火球が雲の下へ消えた。


『敵性HF、撃墜2』

『撃墜3』

『撃墜4』


 報告の間隔が短くなる。

 月側HFは依然として速度を落とさず降下し、異様な精度で連携する。だが、初見の優位は失われつつあった。


 蓄積された解析素材によりパターンが判明してゆく。

 解析により戦術の精度が向上してゆく。


「AI支援を一段上げろ。遠隔操縦者の介入権限は維持。回避予測と照準補正はAI主導へ」

 司令官が命じた。

「了解。戦術補助レイヤー、レベル3へ移行」

『予測照準、AI主導』

『近接防御、半自律化』

『群制御アルゴリズム、再構成』


 白灰色の機体群の動きが変わった。

 一機で突っ込めば二機が挟み、二機で突破を図れば三機が逃げ道を塞ぐ。ワイヤーへ寄れば格闘で外へ押し出し、射線制限圏を離れたところを地上火器が焼く。

 防衛線は、迎撃から敵を絡め取る包囲へと様相を変えた。


『敵性HF、撃墜7』

『撃墜8』

『撃墜9』

『残存、28』

「押し返しています」

 戦術管制官の声に、初めて熱が混じった。


 司令官は頷かず、次の命令を出す。

「畳みかけろ。基部外周へ一機も入れるな」

「了解。全群、攻勢防御へ移行」

 包囲網が攻勢へと転じる。


 OMC無人HF群が一斉に高度を上げた。

 白いワイヤーを中心に、三層の防衛環が形成される。最内周がワイヤーを守り、中間層が近接迎撃を担い、外周が地上火器と射線を同期する。


『第一防衛環、再構築完了』

『第二防衛環、敵性群を外周へ圧迫』

『第三防衛環、地上火器と同期』

『ワイヤー近傍、侵入機ゼロ』


 機動の選択肢を奪われた月側HF。

 右へ逃げれば、その先へ弾道が置かれる。下へ潜れば、下層の無人HFが待つ。上へ跳ねれば、レーザーの照射角へ追い込まれる。白いワイヤーを盾にしようとすれば、格闘戦で引き剥がされる。


 撃墜数が増えるほど予測精度は上がり、予測精度が上がるほど、撃墜までの時間は短くなった。


『敵性HF残存、25』

『23』

『20』


 戦場の流れは、既にOMCにあった。

 復旧した広域戦況共有回線を通じ、映像がOMC軍部の各所へ流れる。

 中央作戦司令部の大型モニターに映る、軌道エレベーターの白いワイヤーと、周囲で月側HFを狩る無人HF群。


 数分前まで、突然の襲撃に混乱を極めていた。

 レフトムーン・ロゥを名乗る人物より突きつけられた、月面基幹施設群の離脱。地球圏管理体制の拒絶。月面設備への接近を敵対行為と見なす独立の通告。


 その衝撃が、目の前の撃墜映像によって塗り替えられていく。


「残存、20を切ります」

「解析が追いついたな」

「降下まではしてやられた。が、もはや基部を制圧する戦力はない」

「こちらの無人HF防衛網を過小評価したか」


「はなから勝ち目のない、無謀なテロだ」

 参謀の一人が、吐き捨てるように言った。


 理解不能だった敵に分類名が与えられる。

 無謀なテロ。月の支配者を騙る人間が起こした勢いだけの自滅行為。

 そう捉えた瞬間、恐怖は薄れた。恐怖の代わりに、怒りと勝利の気配が作戦室を満たす。


『敵性HF残存、19』

『軌道エレベーター本体、損傷なし』

『基部主要施設、機能維持』


 誰かが息を吐き、誰かが椅子の背へ身体を預けた。

 政治的な危機は残る。だが、目の前の戦闘に限れば、勝敗は見え始めていた。


 地上防衛基地でも、各数値は安定へ向かっていた。月側HFの残存数は減少し、侵入機は抑え込まれ、軌道エレベーター本体への被害はない。第四群はサイロ内に温存されたままだ。


「輸送コンテナに紛れ込ませた60機で、この基部を落とせると考えたのか」

 司令官から言葉が漏れる。


「敵性HF、残存17」

「第二防衛環、押し上げ成功」

「第三防衛環、外周誘導を継続」


 司令官は白いワイヤーを睨み上げる。

「やつらに教えてやれ。ここは月の採掘施設でも軌道上ターミナルでもない」

 指揮卓を軽く叩く。

「地球圏の喉元を守る、要塞だ」


『外周追い込み、第三段階』

『推奨行動、分断撃破』

『地上火器との同期、完了』

 地上砲座が照準を更新する。冷却を終えた発振器が再照射へ入り、無人HF群の包囲が圧縮さる。


「終わらせる。全部落とせ」

「了解。全防衛群、分断撃破へ移行」


 攻勢の映像は、HF運用基地のブリーフィングルームにも届いていた。


 先ほどまで凍りついていた部屋に、熱が戻る。

「落とした!」

「残り15!」

「そのまま押し切れ!」

 月側HFが落とされるたびに短い歓声を上げるパイロットたち。


 フォックス、ユイン、そしてエイジもその中で画面を見つめていた。


 白灰色の無人HFが月側機をワイヤーから引き剥がし、地上レーザーがそれを焼く。軌道エレベーターは守られている。敵は押し返されている。


 エイジの表情にわずかな安堵が浮かぶ。

 隣には腕を組んだまま無言で戦況を追うユイン。


 そして部屋の後方では、フォックスが姿勢を変えることなく壁に背を預けていた。

 片腕を組み、もう片方の手で顎の無精髭を撫でる。赤い火球が一つ増えても、その目から険しさが消える事は無かった。


『敵性HF残存、13』

 部屋が沸く。


「……これで終わりか?」

 フォックスが低く呟いた。

 近くにいた者にしか届かない声だった。


「ここまで仕掛けたヤツが、これで手詰まりなのか……」

 エイジがフォックスの言葉に反応し振り返る。


 フォックスはモニターから視線を離さない。


 偽装コンテナ。成層圏降下。軌道エレバーターへの強襲。通信網の上書き。月の独立宣言。

 そこまで準備した相手が、無人HFのAIが戦闘中に適応することを知らなかったのか。軌道エレベーター基部が、60機程度で落とせる施設ではないと理解していなかったのか。


 そんなはずがあるのか。


 だが、フォックスの疑念は歓声に飲み込まれた。


 戦場では、防衛環がさらに縮まっていく。

 白灰色の機体群が月側HFを分断し、逃げ道を限定し、射線制限圏の外へ追い立てる。もはや一つひとつの格闘ではない。防衛システム全体による連続処理だった。


「敵性HF残存、13」

「12」

「11」

「ワイヤー近傍、侵入なし」

「基部主要施設、損傷なし」

 管制室には、確かな勝利の匂いが漂い始めていた。


「逃がすな」

 司令官が命じる。

「了解」


 OMC無人HF群がさらに速度を上げる。

 白灰色の人型が空を埋め、黒灰色の月側HFを外周へ削り出していく。軌道エレベーターの白いワイヤーは、その中心で何事もなかったように雲の上へ伸びていた。


「敵性HF残存、10機を切りました」


 OMCは、勝利を確信した。

≪ あとがき ≫

毎週、月水金の夜20:00目安で更新ができそうです。

それでは金曜日に。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ