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『異世界転生してみたら、何もおかしくない世界のおかしい国名に俺だけが困惑している2』  作者: スコ平おじさん


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第20話 大教室の自虐(プログラミング)と、日の本の覚醒

「――以上の通り、西暦663年の『白村江はくすきのえの戦い』において、我々の祖先は世界の中心であった唐の圧倒的な軍事力の前に文字通り惨敗し、完膚なきまでに叩きのめされました。大国に逆らう愚かさを知った当時の支配層は、生き残るために大陸に恭順の意を示すしかなかった。それ以来、この国は常に強国に管理され、現代の『オキュパイドジャパン』という正しい国名へと至る悲惨な歴史が始まったのです」


大学の広大な階段教室。

壇上でマイクを握り、テレビの文化人コメンテーターとしても高名な歴史学教授が、自満げにそう講義を締めくくった。


チャイムが鳴り、数百人の学生たちが一斉にガタガタと席を立ち始める。

大教室のざわめきの中で、俺――佐藤の隣に座っていたサークルの先輩は、完全に肩を落としてため息を吐いていた。


「……なぁ、佐藤。今日の講義、マジできつかったわ。この国って、海外の大国にボコボコにされて、這いつくばって管理されてきただけの、ただの情けない国だったんだな。だから今でも俺たちの国名は『オキュパイドジャパン』のままなんだって、有名な教授がああやって『旧唐書』や『日本書紀』のレジュメを出してドヤ顔で語るのを見ると、やっぱりこれが現実なのかなってショックだわ……」


周りの学生たちも、

「そりゃ国名もオキュパイド(占領下)になるわな」

「逆らうだけ無駄だったんだ」

と、教授に刷り込まれた自虐史観のまま、諦めたように喋りながら教室を出ていく。


だが、俺のすぐ右隣に座っていた御剣みつるぎ れいだけは違った。

怜は大学のノートをピシャリと閉じると、メガネの奥の瞳をきらきらと輝かせ、待ってましたとばかりに俺の顔を覗き込んできた。彼女は俺の知識の深さを100%信頼している。教授の薄っぺらな講義を聞いたからこそ、その裏にある本物の事実を早く知りたくて、知的な探求心を爆発させているのだ。


「佐藤、今の教授の言葉、どう思う? 私はどうしてもあのレジュメの因果関係が、歴史のデータとして納得いかないのだけど」


俺は、手元にあった大学の教科書を静かにカバンへと収めた。


「あの先生のレジュメは、一見するともっともらしいですが……決定的な歴史の数字と西暦のデータを、意図的にスルーしていますね。ただの結果論による刷り込みですよ」


俺たちは大教室の後方に残り、学生たちが去っていく静かな空間で、長机の上に資料を広げた。

俺はノートPCを開き、あの教授が絶対に学生に見せようとしなかった、古代の本当の東アジアの外交データを陳列する。


「あの先生は『白村江の戦いで惨敗したから這いつくばって管理を受け入れた』と言いましたが、その大敗を喫するより遥か前から、この国の先祖たちが中国の大帝国を相手に、どれほど強固な独立自尊の外交を展開していたか、年代を追って見ていくと全く違う事実が見えてきます」


俺はノートPCの画面に、具体的な西暦のデータを表示させた。


「まずは西暦239年、誰もがよく知っている『邪馬台国やまたいこく卑弥呼ひみこ』だ。教科書では『中国の魏に貢ぎ物をして、親魏倭王の金印を貰った』と、まるでただの家来になったかのように教えられることが多いね。だが、当時の中国の史書『魏志倭人伝』のリアルな記述を読み解くと、実態は少し異なる。

当時、大陸の魏は、南のという国と激しい戦争状態にあった。呉の背後の海に位置する巨大な軍事拠点、それこそが倭国だったんだ。卑弥呼は大陸の戦争のバランスを完璧に見抜き、『私は呉の味方はしませんよ』という無言のカードを引くことで、魏の皇帝から対等以上の破格の外交待遇と最新の技術を分捕った。これが最初の外交ファクトだ」


「家来どころか、大陸の戦争の天秤を握る存在だったのか……」


怜が、俺の出した魏志倭人伝の記述を見て、ハッとしたように呟く。


「でも、その卑弥呼の時代から、聖徳太子まで400年近くの間って、教科書だと『何も記録がない空白の時代』みたいにスルーされるじゃない。証拠がないから、やっぱり大国の管理下にあったの?」


怜がノートを開きながら、もっと知りたいという目で問いかける。


「いや、実はそこが、戦後の1970年代以降に次々と発見・解明された、歴史をひっくり返す最新の科学データの宝庫なんだよ、怜」


俺はモニターに、巨大な石碑の写真と、一本の美しい鉄剣の画像を映し出した。


「まずは西暦391年。現在の中国と北朝鮮の国境にある『好太王碑こうたいおうひ』という巨大な石碑の文字データだ。そこには、当時最強を誇った北の大帝国・高句麗こうくりの側から『倭が海を渡ってやってきて、百残(百済)や新羅を臣民とし、半島南部を制圧して自国の影響下に置いた』とハッキリ記録されている。日本は400年前から既に、巨大な水軍を率いて海を渡り、大陸の帝国と最前線で渡り合っていた。」


「ええ、それに、中国側の史書である『宋書』倭国伝に記された『倭の五王』の朝貢記録を見ても、日本の大王たちは大陸から高い軍事指揮権の役職を次々と認めさせているわ」


「怜が、自分のノートの余白に歴代大王の名を書き込みながら、流暢に知識を補強する」


「その通り。さらに、1978年に最新のエックス線調査で文字が判明した、埼玉県の稲荷山古墳の『金錯銘鉄剣きんさくめいてっけん』(西暦471年)。そこには『獲加多支鹵大王(ワカタケル大王)』

――すなわち雄略天皇の文字が純金で刻まれていた。同じ文字が、遥か遠くの熊本県の江田船山えたふなやま古墳から出土した刀にも刻まれていたんだ。

正式な歴史のデータとして、西暦400年代の時点で、この国は関東から九州にいたるまで、天皇の元で完璧に一元管理された強固な統一国家を完成させていた。この強大な武力と国家のシステムを数百年かけて磨き上げてきたからこそ、あの西暦607年の『聖徳太子しょうとくたいし』の伝説の外交へと繋っていくんだよ」


「聖徳太子の、あの国書……」と、先輩が息を呑む。


「そう。太子は世界帝国のずいの煬帝に対し、小野妹子を使ってこの一文を届けた。

『日出づる処の天子、書を日没する処の天子に致す。恙無きや』。

中国の皇帝こそが世界の唯一のトップであるという時代に、太子は極めて理知的で気品ある言葉を使いながらも、東の独立国のトップとして、堂々と対等の肩を並べてみせたんだ。無礼だと激怒した煬帝だったが、当時、北の高句麗との大戦争を控えていた隋は、これほど強固な国を敵に回す恐怖から、最後まで報復の軍を出すことができなかった。これが、先祖たちが積み上げてきた独立自尊のロジックだ」


怜が知的な瞳をさらに輝かせ、俺の言葉を吸い込むようにして頷いた。


「そうよ、先輩。この国は西暦200年代から600年代にいたるまで、数百年間、大帝国の属国になることを100%拒絶して独自のプライドを磨き続けてきたの。西暦663年の白村江の戦いは、その独立のプライドを懸けて、朝鮮半島の百済を助けるために、当時の世界最強国だった唐・新羅連合軍を相手にガチの海外遠征を行った結果の大敗だったのよ。


だけど、あの教授が『ただ這いつくばって管理を受け入れた』と言い放ったその大敗の裏には、現代の教科書が完全にスルーしている、当時の先祖たちの凄まじい公式記録(日本書紀)が遺されているわ。

西暦661年、百済を救うために自ら九州へ遠征した斉明天皇は、現地の神の祟りの怪異にうなされ、戦いを見ることなく九州の朝倉橘広庭宮あさくらのたちばなのひろにわのみやの地で急死されたの。普通ならそこで心が折れて退却するところなのに、中大兄皇子たちは、海と航海の最強の守護神である『住吉大社(住吉大神)』に決死の戦勝を祈り、国家のプライドのすべてを懸けて世界最強の唐の軍隊へ突撃していった。ただの政治的な負け戦なんかじゃない、魂の底からの国防の執念だったのよ」


俺はモニターの画面を、九州や瀬戸内海に築かれた巨大な防衛遺跡の図面へと切り替えた。


「だからこそ、大敗の地獄の中でも彼らの心は1ミリも折れなかった。彼らは降伏する代わりに、国を挙げた大要塞化を瞬時に開始したんだよ。博多湾の最前線には、幅80メートル、総延長1.2キロに及ぶ巨大な土塁と大濠で構成された大要塞『水城みずき』をわずか一年で建設。さらにその後方には、大宰府を守るように最新の山城技術を駆使した『大野城おおのじょう』や、瀬戸内海沿岸の『屋島城やしまのき』といった、唐の軍隊を迎え撃つための強固な防衛システムを日本中に張り巡らせた。それだけじゃない。地方でバラバラに内紛を起こしていた豪族たちが、この未曾有の国難を前に、強烈な当事者意識を共有して天皇を中心とする強固な法治国家のシステムを完成させた。


そして――あの教授が『生き残るために強国に管理される名前になった』と嘘を吐いた、あの国名変更の本当のデータが、まさにこの大敗北の地獄から誕生したんだ」


怜がホワイトボードの前に歩み寄り、ノートの文字を大きく書き写した。


「そう。世界最強の唐の脅威に対抗して生まれ変わった先祖たちは、西暦702年の『大宝律令たいほうりつりょう』の制定、そしてその後の遣唐使の派遣によって、その古い名を自ら脱ぎ捨てたの。


――『日のひのもと=日本』。


日が出ずる処の国、どの大国の奴隷にもならない、絶対に管理なんかされない独立した国であるという強烈なプライドと国防の意志を込めて、かつての先祖たちは『日本』という最高の国名を正式に名乗り始め、あの世界帝国である唐の皇帝側にも、そのプライドを正式に認めさせたのよ」


挿絵(By みてみん)


「明治どころか1300年も前、世界最強の帝国に負けた底知れない恐怖と、それを力で跳ね返そうとした先祖たちの圧倒的な執念の中から、この『日本』という外枠の国名と誇りは生まれたんだ。戦後の占領政策によって俺たちの頭から消され、今の『オキュパイドジャパン』に書き換えられるまで、この島国には確かに、世界一気高い名前が存在していたんだよ。これのどこが、大国に這いつくばった哀れな歴史だろうか」


誰もいない大教室に、完璧な静寂が訪れた。

ただの自虐的な負け戦だと思い込まされていた白村江の歴史が、西暦239年の卑弥呼、391年の好太王碑、471年の一元管理された鉄剣、607年の聖徳太子、そして西暦702年の、かつて存在した本物の国名『日本』の誕生にいたるまで、一本の美しい国家誕生のドラマとして目の前に完成した。


「……そっか。ただの惨敗なんかじゃ、なかったんだな。俺たちの国には、本当に、そんな名前があったんだな……」


先輩は、配られた教授の『オキュパイドジャパン肯定レジュメ』をじっと見つめていた。その手は、さっきまでの絶望ではなく、本当の歴史を知った静かな興奮でわずかに震えている。


ガラガラ、と大教室の前方の扉が開いた。

次の講義を受けにくる学生たちが、騒がしく大教室へと入ってくる。日常の喧騒が、一瞬にして先ほどの静寂をかき消していった。


「おい佐藤、御剣。部室行こうぜ」


先輩はそう言うと、手元にあった教授のレジュメをくしゃくしゃに丸め、教室の出口にあるゴミ箱へと、迷いなく放り投げた。


あの教授の独りよがりな言葉プログラミングは、もうこの人の頭には一滴も残っていない。


俺と怜は顔を見合わせ、静かに微笑んで立ち上がった。歪んだフィルターを内側から粉砕された一人の大学生の背中は、部室へ向けてまっすぐに伸びていた。


(第20話 終)

今回のお話の補足として、学校の教科書がなぜか頑なにスルーする「朝鮮半島南部と日本列島のリアルな境界線」のファクトを一つ置いておきます。


古代の朝鮮半島南部には、我が国が統治、あるいは深い軍事同盟関係を結んでいた『任那(みまな・伽耶)』という地域が、西暦300年代後半から562年にいたるまで実在していました。あの「空白の4世紀」の真っただ中、日本は既に海を渡って半島に確固たる拠点を持っていたのです。


その最も強力な物的証拠が、近年になって朝鮮半島南西部の栄山江流域などで次々と発見されている、5世紀末〜6世紀前半の巨大な『前方後円墳』の数々です。前方後円墳は、ヤマト政権の支配と結びついた日本列島固有の墓制です。それがなぜ、海外であるはずの半島の土の下から、当時の日本の鎧や埴輪、九州系の石室を伴って現物として出土するのか。


「面白いのは、韓国側の公式な正史である『三国史記』や、中国側の『宋書』などの一次史料には、当時の倭(日本)が朝鮮半島の国々を従えていたという事実がハッキリと記録されている点です。にもかかわらず、現在の韓国の学校教育では、これらの自国の歴史書に遺された冷徹なファクトを完全に『嘘』で上書きし、『任那日本府は日本の捏造だ』『前方後円墳は自分たちが起源だ』と、不都合なデータを全力で隠蔽・改ざんして教えています」


最新の考古学データは、学校の教科書が教えてきた「日本が遅れていて、常に大陸からすべてを教わっていた」という自虐的なプログラミングを、足元から完全にひっくり返しています。神話を忘れた民族は必ず滅びる。だからこそ、私たちは記号の暗記を脱ぎ捨てて、この地続きの誇りの背骨を取り戻さなければならないのです。

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