第21話 千年前の知性と、桜の女領(じょりょう)
大学の歴史研究サークルの部室。
大教室でのあの自虐的な講義の後、部屋に戻ってきた俺――佐藤は、パイプ椅子に深く腰掛けて、ただ静かにお茶をすすっていた。
いつもなら俺がノートPCを開くところだが、今日の部室の主役は違った。
御剣 怜が、自分の持ってきた古典のレジュメを机の上に何枚も広げ、ホワイトボードの前に毅然とした態度で立っていた。
「ねえ、先輩方。ちょっとこれを見て欲しいのだけど」
怜がマーカーを手に取り、ホワイトボードに大きく「男尊女卑」という四文字熟語を書いた。
「さっきの大教室の講義でも、ニュースの論説でも、よく『我が国は欧米列強に比べて女性の地位や権利が遅れた男尊女卑の国だ。海外を見習え』って当たり前のようにプログラミングされているじゃない。最近の過激なフェミニストやジェンダーフリーを叫ぶ団体も、判で押したように『日本の伝統は男尊女卑だから破壊しろ』って大騒ぎしているわよね。でも、私たちが今使っているこの『ひらがな』の歴史を少し丁寧に紐解くだけで、その常識がいかに歪んだフィルターで作られたものか、自分で気づくことができるのよ」
「ひらがな?」と、ソファに座った先輩が不思議そうに首を傾げる。
「ひらがなって、あの平安時代の紫式部とかが『源氏物語』を書くときに使ってた、あの文字だろ? それがフェミニストの言ってるジェンダー問題と何の関係があるんだ?」
「大ありよ、先輩。現代のメディアや政治家たちは、意図的に『ある決定的なファクト』を隠蔽して、欧米の価値観の方が進んでいると嘘を吐いているのよ」
怜はメガネの奥の知的な瞳をきらきらと輝かせ、一切の淀みのない、極めて理知的で気品ある声で語り始めた。
「今から千年以上前の西暦1000年頃。紫式部が『源氏物語』を書き、清少納言が『枕草子』を書いていた平安時代。その同じ時代のヨーロッパの白人国家では、女性には自分の名前すらなく、財産を自ら所有する権利も、文字を読む教育すら与えられていなかったのよ。当時の西洋において、女性はただの『男の所有物』扱いであり、のちの時代には宗教的な熱狂から魔女狩りで何万人も虐殺されるような暗黒の価値観の中にいたわ」
「え……白人の国って、そんなに女性に人権が無かったのか?」
別の部員が驚いて身を乗り出す。
「そうよ。対する我が国の平安貴族社会では、女性たちが独自のひらがな(国字)を使いこなし、世界最古の長編リアル小説を書き上げて宮廷文化の主導権を握っていた。それだけじゃないわ、法的なデータを見ても、当時の女性には自分の財産を自分で所有して相続する権利――『女領』が完璧に保障されていたの。親の遺産を娘が当たり前に受け継ぎ、夫に奪われることもなく自分で管理していた。世界で一番女性の知性と権利が輝いていた最先端の文明国は、千年前、間違いなくこの国だったのよ。
それなのに現代の政治ときたら、本当に呆れるほど滑稽よね。少し前のサミットの直前にもあったでしょう? 岸田総理が、海外の白人列強に良い顔をしたいからって、自民党内の部会であれだけ激しい反対意見が多数を占めていたのに、それらを強引に押し切ってジェンダー関連の法案を勝手に独断で決めちゃった浅薄な暴挙。
日本には最初から、世界一女性を尊重する気高い伝統が千年も前からあったのに、それすら調べず、海外に言われて後から慌てて中身のない法律を組み込もうとする。外ばっかり気にして身内の声を圧殺する現代のリーダーたちの浅薄さや、利権のために先祖の背骨を男尊女卑と捏造して叩いている現代のフェミニズムこそ、マジで狂っていると思わないかしら」
ホワイトボードを叩く怜の堂々とした姿に、サークル室の部員たちは息を呑んだ。佐藤の解説をいつも一番近くで聞いてきた怜だからこそ、現代の言論や政治の欺瞞に対する怒りと、歴史のロジックの捉え方が完璧に鋭い。
「私たちは最初から、世界一優しくて気高い文化を血の中に持っているのよ。……ねえ、佐藤」
怜が、やり切ったような晴れやかな表情で、俺の方を振り返った。
お茶をすすっていた俺は、湯呑みを机に置き、小さく頷いた。
「お見事、怜。最高の陳列だ。現代のオキュパイドジャパンの政治は、自分たちの国柄の美しさを忘れて、ただ欧米の基準に組み込まれているだけだからね。……ついでに、その一つ前の奈良時代の、世界を震撼させた『テクノロジーのデータ』も先輩たちに見せてあげたらどうだい?」
「ええ、そうね」
怜は嬉しそうに頷くと、プロジェクターの画面を切り替え、古いお経が書かれた紙の画像を映し出した。
「皆さんは『聖武天皇が大仏を作った』という奈良時代の記号しか教わっていないでしょうけど、西暦770年、この国は称徳天皇の命によって『百万塔陀羅尼』という、世界最古の印刷物を文字通り100万部も大量生産したという、ギネス級のファクトを持っているの。
国難を払うための国家的な祈祷システムとして、小さな木製の三重小塔の中にこの印刷したお経を詰めて、日本全国の十大寺に100万部流通させて管理した。ヨーロッパの白人たちが、羊の皮に一生懸命手書きで文字を書いて、数冊の本を奪い合っていた暗黒時代に、日本にはすでに100万部もの印刷物を完全にコントロールする高度な紙の技術と組織力が完成していたのよ」
「100万部って……今の出版業界でも大ベストセラーじゃん。1200年以上前にそんなことができたのかよ」
先輩が、信じられないというように呟く。
「そうよ。そしてこの1200年前から途切れずに受け継がれてきた『文字への高いリスペクトと印刷の土壌』があったからこそ、のちの江戸時代に大爆発が起きるの。のちに西洋の白人たちが幕末の日本にやってきたとき、彼らは日記に驚愕の事実を書き残しているわ。
『この国は異常だ。地方の農村の子供や、道端の物乞いにいたるまで、当たり前のように回覧板や瓦版を回して、スラスラと文字を読んでいる。識字率が90%を超えている国なんて、世界中のどこを探しても存在しない』って。
千年以上前の百万塔陀羅尼のテクノロジーから、平民が瓦版を回し読みする江戸の超高識字率社会へ。この国は最初から、世界で最も知的で、教育の行き届いた優しい国だった。それが、私たちの血の中に眠る本当の歴史なのよ」
部室の空気が、今度こそ完璧な静寂に包まれた。
テレビの教授やフェミニスト、そして現代の政治家さえも教えてくれなかった、奈良・平安時代の本当の解像度。
自分たちが見下していた過去の先祖たちが、実は世界で最も知的に進んだ奇跡の社会を築いていたという客観的なデータの前に、部員たちは自分の歴史のノートをじっと見つめていた。
「ただの暗記だと思って読み飛ばしていたひらがなや大仏の時代に、そんな世界を黙らせる法的な権利と技術が眠っていたなんて……。メディアや総理の言っているジェンダー論がいかに嘘くさいか、本当の歴史を知ると自分の足元が全然違って見えるな」
先輩が、ゴミ箱に捨てたさっきのレジュメを思い出すように、静かに、だが熱い息を漏らした。
「日本の伝統を男尊女卑だと叩く利権活動家たちの言葉は、もう私たちの心には一響きもしないわね」
怜がホワイトボードのマーカーを置き、眼鏡の位置を直しながら不敵に微笑む
部室の中には、ただ本当の歴史を知り、みんなで納得していく、純粋な探求の喜びだけが満ちていた。
俺は空になった湯呑みを片付け、壁の日本地図を見上げた。
怜が完璧に繋いでくれた、奈良から平安の知性のバトン。
この豊かな文化の国が、いよいよ平安時代の後半――平氏と源氏が武器を手に取り、歴史の表舞台へと這い上がっていくあの激動の動乱期へと、歴史の針が静かに動き出そうとしていた。
(第21話 終)
今回のお話で怜が暴いた通り、我が国には千年も前から『女領』という世界に類を見ない女性の法的権利と主権が存在していました。日本は最初から、女性の知性を心から尊重する気高い伝統を持っていたのです。
にもかかわらず、なぜ現代のSNSやメディアでは、毎日呪詛のように『日本の伝統は男尊女卑だ』『日本は遅れた性差別国だ』という極端な日本叩きが溢れかえっているのでしょうか。
その不気味な洗脳の正体が、近年、白日の下に晒される象徴的な事件が起きました。X(旧Twitter)の運営陣が仕様変更を行い、アカウントの主な発信国データを明記するアップデートを行った際、日本国内に向けて過激なフェミニズムを叫び、執拗に先祖を叩いていた大量の工作アカウントの発信元が、あろうことか『韓国』であったことが完全に露呈したのです。
このロケーション偽装のファクトがバレた瞬間、それまでトレンドを埋め尽くしていた日本叩きの発信は嘘のようにピタッと鳴りを潜めました。
つまり、私たちが日々浴びせられている『日本下げの言論』の正体は、純粋な人権運動などではなく、日本の誇りを内側から破壊して国力を削ぐために海外から仕掛けられた、明確な『サイバープロパガンダ(世論誘導工作)』だったのです。
外ばっかり気にして身内の声を圧殺する現代のリーダーたちや、利権のために先祖の背骨を男尊女卑と捏造して叩いている勢力がいかに歪んだフィルターに魂を売っているか、最新のネットデータを見れば一目瞭然です。私たちは最初から、世界一優しくて気高い文化を血の中に持っているのです。




