169 私、とても嬉しかったのですから
深い森の木々が朝の清冽な空気を深呼吸し、小鳥たちが新しい一日の始まりを報せる声帯を震わせる早朝。
居住区画の寝室では、コルネリアが寝台の柔らかなシーツの上でゆっくりと意識を浮上させていた。
目を覚ましたものの、指一本すら自力で動かすのが億劫に感じられるほど、彼女の身体は疲労と重い脱力感に支配されていた。
昨夜、底なしの体力を持つカエラムによって一晩中休むことなく翻弄され続け、文字通り身も心も溶かされるような甘く過酷な時間を過ごした代償である。
重い瞼をどうにか押し上げると、すぐ隣には、彼女よりもずっと早くに目を覚ましていたであろうカエラムが、腕枕をした状態で横たわっていた。
彼のアンバーの瞳は、まるで宝物を鑑賞するかのように、コルネリアの寝顔を愛おしそうに見つめ続けていたのである。
「……おはようございます、ネリー。身体の具合は、いかがですか?」
カエラムが彼女のホワイトブロンドの髪を優しく撫でながら、朝一番の掠れた声で問いかける。
その声音には、深い愛情と共に――明らかな悔恨の響きが混じっていた。
「昨夜は少し……いや、かなり理性を失いすぎてしまいました。あなたが止めてくれと頼んでいたのに、どうしても自制を効かせることができず……辛い思いをさせてしまって、本当に申し訳ありません」
彼が自身の行いを深く恥じるように眉尻を下げて謝罪する姿を見て、コルネリアの胸の奥に、恥じらいと愛おしさが混ざり合った熱い感情が込み上げてきた。
彼女は顔の中心から火が噴き出しそうなほどの羞恥に耐えきれず、自身の鼻の頭まですっぽりと毛布を引き上げて顔の半分を隠してしまった。
しかし、毛布の縁から覗くペリドットの瞳だけは決して彼から逸らすことなく、上目遣いのまま、甘く抗議するような声を紡ぎ出した。
「……あんなに底なしの体力が余っていらっしゃるなんて、先生は本当にずるいですわ」
「返す言葉もありません……これからは、きちんと加減を」
「でも……」
コルネリアは毛布の下で口元に小さな笑みを浮かべ、さらに身を寄せてカエラムの広い胸に額を擦り付けた。
「先生に限界までたくさん愛していただけて……私、とても嬉しかったのですから。次も、覚悟しておきますわ」
その健気で愛らしすぎる反応と、彼への愛情を示す言葉。
その途方もない破壊力に、カエラムの強靭な理性の糸が再び音を立てて切れそうになる。
彼は自身の顔を片手で覆い、漏れ出そうになる熱い吐息を必死に飲み込んで、どうにか冷静さを繋ぎ止めた。
「……あなたという人は。朝からこれ以上、私をどう狂わせるつもりなのですか」
深い苦悩を装いながらも喜びに満ちたカエラムの腕に抱きしめられ、二人はしばらくの間、寝台の上で甘い朝の余韻を心ゆくまで分かち合った。
やがて身支度を整え、カエラムが窓のカーテンを開け放つと、そこには雲一つない見事な夏の晴天が広がっていた。
強烈な太陽の光が庭の草木を眩しく照らし出しているのを見て、コルネリアは大切な保存食の仕上げの時期が来たことを直感した。
「先生、素晴らしいお天気ですわ。初夏に樽へ仕込んでおいた梅が、良い具合に梅酢に浸かっているはずです。今日から数日間、天日干しをするのに絶好の機会ですわね」
「ええ、まさに土用干しに最適な気候です。朝の作業を終えたら、さっそく取り掛かりましょう」
二人は外へ出ると、まずは朝食前の日課を素早くこなしていく。
新しい牛小屋にいるサンディーの元へ向かい、豊かなミルクをたっぷりと搾乳する。
続いてキビとアワの鳥小屋を覗き込み、昨日と同じように柔らかい藁の上に産み落とされていた温かい卵を一つだけ、命の恵みに感謝しながら回収した。
新鮮な食材を抱えてキッチンへ戻ると、そこにはすでに目を覚ましていた小さな家族の姿があった。
コユキが短い尻尾を千切れんばかりに左右に振りながら、コルネリアの足元へと駆け寄ってくる。
「ワフン!」
これまで大人しく様子を窺っていた彼が、朝の元気な挨拶と共に愛らしい鳴き声を上げた。
コルネリアは微笑んで彼を見下ろし、指先で小さく円を描いて合図を送る。
「おはよう、コユキ。ごろん、ですわ」
指示を受けたコユキは即座に背中を床へ滑らせ、真っ白な腹部を完全に上へ向けて仰向けの姿勢をとった。
「キュン……」
彼が甘えたような高い声を漏らして短い前足を動かすと、コルネリアはその無防備な愛らしさに心を撃ち抜かれ、しゃがみ込んで両手で彼の柔らかいお腹を存分に撫で回した。
たっぷりと愛情を注いで彼を満足させた後、栄養満点の餌が入った器を床に置いてやる。
コユキが食事に夢中になっている間に、コルネリアは自分たちの朝食作りを開始した。
まずはサンディーから搾ったばかりの生乳を鉄の鍋に移し、かまどの火にかける。
表面が小さく波立ち、沸騰する直前の絶妙な温度を見極めて火から下ろし、加熱殺菌の工程を済ませておく。
続いて、自身の顔ほどの大きさがある厚く切ったパンの準備である。
裏庭で採れたばかりの苦味の少ないピーマンと、水分をたっぷりと含んだ赤いトマト、そして甘みの強い玉ねぎを薄く切り揃える。
パンの表面に特製の調味料を塗り広げ、色鮮やかな野菜と細かく刻んだ塩気のあるベーコンをたっぷりと乗せる。
最後に、その上から削ったチーズを山のように盛り付け、熱いかまどの中へと滑り込ませた。
パンが焼き上がるのを待つ間、先ほど回収した産みたての卵を別の鍋でしっかりと固めに茹で上げる。
殻を剥いて刃物で真っ二つに切り分け、カエラムと自身の皿へ半分ずつ乗せた。
かまどの中から香ばしい匂いが漂い始めたところで、分厚い手袋をして鉄の板を取り出す。
パンの上では見事に溶けたチーズが具材を完全に包み込み、野菜とベーコンの旨味が熱によって極限まで引き出されたピザトーストが完成していた。
適温に冷ました栄養満点の温かいミルクのグラスと共に、すべての料理を円卓へと並べる。
「いただきます」
向かい合って座り、静かに手を合わせて食事を始める。
ピザトーストを大きく口に運ぶと、表面の溶けたチーズが長く伸び、トマトの自然な酸味と玉ねぎの甘み、そしてベーコンの力強い塩気が口の中で完璧な一体感を生み出した。
ピーマンの爽やかな風味が味の輪郭を引き締め、厚切りのパンの満腹感が、昨夜の激しい運動で失われた体力を確かな熱に変えて身体の隅々まで満たしていく。
固めに茹でられた新鮮な卵の濃厚な味わいと、大地のエネルギーそのもののような温かいミルクの優しさが、心地よい朝の時間をさらに豊かなものにしてくれた。
活力を完全に取り戻した二人は、食後の仕事に手早く取り掛かった。
動物たちの小屋の掃除や新しい干し草の補充、ブラッシングを済ませ、太陽の熱で乾き始めた裏庭の菜園の土にたっぷりと水を与えていく。
すべての雑務を終え、太陽が中天に差し掛かろうとする頃――。
コルネリアは地下の冷暗所から、初夏に仕込んでおいた大きな木樽を庭先へと運び出した。
カエラムの手を借りて重石を取り除き、木の落とし蓋を静かに開ける。
その瞬間、時間をかけて引き出された強い塩気と、梅の果実が持つ特有の酸やかな香りが空気に触れてふわりと舞い上がった。
中には、たっぷりと上がった透明な梅酢の海に沈む、ふっくらとした梅の姿があった。
コルネリアはあらかじめ熱湯で消毒しておいた巨大な竹ざるを庭の台の上に広げた。
そして長い木箸を使い、柔らかくなった梅の皮を破らないように細心の注意を払いながら、一つずつ丁寧に樽の中から引き上げていく。
梅酢の滴を切り、竹ざるの上で互いの実が触れ合わないように、等間隔に美しく並べていくのである。
「これで三日三晩、太陽の光と夜露に当てて干し上げれば、果肉がさらに柔らかくなり、何十年も保存が効く保存食になりますわ。疲れた時の何よりの薬になりますから、完成が楽しみですわね」
竹ざるの上に整然と並んだ琥珀色の梅たちが、夏の強烈な太陽の光を浴びて宝石のように輝いている。
コルネリアは額に滲んだ汗を手の甲で拭い、カエラムと共にその見事な仕上がりを満足げに見つめていた。
柔らかな風が森の木々を揺らし、コユキが足元で心地よさそうにあくびをする。
どこまでも平和で、すべてが満ち足りた夏の午前中の情景。
二人がこの穏やかな時間が永遠に続くのだと信じて疑わなかった――まさにその時。
「――キャアアアアアアアアアアッ!!」
突如として、深い森の奥深くから、空気を鋭く引き裂くような女性の絶叫が響き渡った。
ただの驚きや恐怖ではない、命の危機に直面した者の、極限状態から絞り出されたような悲鳴。
足元でくつろいでいたコユキが即座に立ち上がり、喉の奥から「ウゥゥ……」と低い警戒の唸り声を上げて森の方向を睨みつける。
カエラムのアンバーの瞳から穏やかな光が完全に消え去り、緊張を孕んだ鋭い刃のような顔つきへと瞬時に切り替わった。
平和な日常の空気が一瞬にして凍りつき、見えざる脅威の気配が、夏の森の深淵から診療所へと静かに迫り寄ってきていた。




