152 エメリィさんの優しいお人柄が、そのままお菓子の味に表れているようです
夏の太陽が容赦なく石畳を照らしつける、ユーズヴェンドの賑やかな通り。
カエラムとコルネリアはエルマーの店を後にして、活気に満ちた市場の付近を歩いていた。
照りつける日差しを避けるように、通りに張られた色とりどりの天幕の下を進んでいくと、見覚えのある威勢の良い声が耳に届く。
「さあさあ、今日の果物はとびきり甘いよ! 瑞々しい野菜も揃ってるから、寄っていきな!」
声の主は、大きな木箱に色鮮やかな夏野菜や果物を並べている八百屋の女店主――ミザリィだった。
二人は彼女の元気な姿に軽く会釈を交わし、ふと、その八百屋のすぐ隣に、これまで気づかなかった可愛らしい雰囲気の店が併設されていることに気がついた。
白い漆喰の壁に、植物の蔓をあしらった上品な木の看板が掲げられている。
そこには――ベジ・ドルチェという愛らしい名が刻まれていた。
店先には、新鮮な果物を使った冷たい菓子の案内が出されており、暑さで火照った人々の足を自然と止めさせるような涼やかな魅力を放っている。
「先生、あちらに可愛らしいお店がありますわ。少し休んでいきませんか?」
「ええ、そうしましょう。日差しも強いですし、ちょうど冷たいものが欲しかったところです」
二人が重厚な木枠のガラス扉を押し開けて店内に入ると、冷涼で心地よい空気とともに、甘い果実と芳醇なミルクの香りが全身を優しく包み込んだ。
「いらっしゃいませ。外は暑かったでしょう、どうぞこちらのお席へ」
カウンターの奥から姿を現したのは、どこか穏やかで柔らかい空気を纏った少女だった。
淡い色合いの清楚な衣服に身を包み、控えめな微笑みを浮かべる彼女の顔を見た瞬間――カエラムとコルネリアは同時に驚きに息を呑んだ。
彼女の長い睫毛の奥にある瞳が、深く美しい藤色をしていたからだ。
それは、農夫であるイザークや、隣で八百屋を営むミザリィと全く同じ色彩である。
「……その美しい藤色の瞳。もしかして、あなたはイザークさんのご親族ですか?」
カエラムが驚きとともに問いかけると、少女は目を細めて嬉しそうに微笑んだ。
「はい。私はイザークの娘で、隣のミザリィの妹の、エメリィと申します。父の育てた野菜や果物を姉が仕入れ、私がここで甘いお菓子に仕立てて皆様にお出ししているのです」
静かで落ち着いた口調で語るエメリィの言葉には、家族への深い愛情と、自身の仕事に対する誇りが滲んでいた。
土と向き合う父、それを市場で威勢よく売り捌く姉、そしてその恵みを極上の菓子へと昇華させる妹。
家族で支え合い、大地の恵みを最高のかたちで街の人々に提供するその美しい繋がりに、二人は深い感銘を受けた。
「エメリィさん、今一番のお勧めをいただけますか?」
コルネリアが注文すると、エメリィは「承知いたしました。とびきり冷たくて甘いものをご用意いたしますね」と優雅にお辞儀をして厨房へと戻っていった。
やがて二人の前に運ばれてきたのは、透明な硝子の背の高い器に、彩り豊かな層が重なった美しいパフェであった。
一番下には細かく砕かれた香ばしい焼き菓子が敷き詰められ、その上にはイザークの畑で採れたばかりの、完熟した桃とメロンが贅沢に重ねられている。
さらに一番上には、真っ白で冷たいミルクジェラートが山のように乗せられていた。
「旬の果実と冷たいミルクジェラートのパフェでございます。溶けないうちにお召し上がりください」
二人は銀色の長い匙を手に取り、まずは一番上のミルクジェラートをすくい上げて口へと運んだ。
濃厚なミルクのコクがありながらも、後味は驚くほどすっきりとしており、夏の暑さで火照った身体の熱を素早く奪っていく。
続いて、大きく切り分けられた桃とメロンを味わう。
太陽の光を限界まで蓄えた果肉は、口に含んだ瞬間に極上の甘い果汁を溢れさせた。
「……素晴らしいですね。果物そのものが持つ強烈な甘さを、ミルクジェラートの冷たさと優しさが見事に引き立てています。お互いの良さを全く邪魔していません」
「本当ですわ。それに、食べ進めるごとに現れる焼き菓子の香ばしさが、果物の瑞々しさと絶妙に調和して、最後まで全く飽きが来ませんの。エメリィさんの優しいお人柄が、そのままお菓子の味に表れているようです」
洗練された味わいに舌鼓を打ちながら、二人は暑い夏の午後にふさわしい、極上の涼と至福の休息を心ゆくまで堪能した。
――ベジ・ドルチェを後にして、次に二人が向かったのは、上質な動物の革を扱う専門店だった。
店内には、鞄や靴、様々な装飾品が整然と並べられ、独特の重厚な革の匂いが漂っている。
職人の手仕事によって磨き上げられた品々は、どれも長年の使用に耐えうる頑丈さと美しさを兼ね備えていた。
二人の目的は、診療所で留守番をしている小さな家族――コユキのための首輪を探すことであった。
年配の店主に用途を伝えると、彼は壁に掛けられた様々な大きさの首輪を案内してくれた。
「あの、コユキはまだ赤ちゃんなのですけれど、日を追うごとに確かな重量感を増し、成長の速度がとても早いのです。これから急激に成長を遂げても、首が苦しくならないようなものが欲しいのですが」
コルネリアが真剣な表情で相談すると、店主は数ある品の中から、一本のしっかりとした作りの首輪を手に取った。
「それなら、この特別に丈夫な厚手の革で作られたものがお勧めですよ。留め具の穴がたくさん開いていて、かなりの大きさになるまで細かく調整が効きます。定期的に油を塗って手入れをすれば、革が柔らかく馴染んで、動物の首を痛めることもありません」
カエラムがその革の質感と、ほつれ一つない縫製の確かさを確認し、深く頷いた。
「ええ、とても良質な品ですね。これなら、力が強くなっても安心できそうです。ネリー、色はどうしましょうか? 赤や茶色、黒など様々ですが」
カエラムの問いかけに、コルネリアは少しだけ視線を巡らせた後、美しい色合いに染め上げられた一本の首輪を指差した。
「この、水色の首輪はいかがでしょうか。コユキの真っ白な毛並みにも映えますし、何より、あの綺麗な瞳の色とよく似ておりますわ」
彼女の選んだ水色の革は、爽やかでありながらも品のある色合いだった。
「それは素晴らしい選択です。コユキの海のような瞳に、間違いなく似合うでしょう」
水色の首輪を購入し、丁寧に包まれた袋を受け取って店を出る。
「コユキ、喜んでくれると良いですわね。これを着ければ、もっと私たちの家族らしくなりますわ」
コルネリアが袋を愛おしそうに胸に抱きしめると、カエラムも優しい眼差しで頷いた。
「ええ。家に帰ったら、真っ先に着けてあげましょう。彼の反応が今から楽しみです」
太陽はまだ高く、街の賑わいは衰えることを知らない。
「さあ、素敵なお土産も手に入れましたし、次はアルバーノさんたちのお店へ夕食の食材を買い出しに行きましょうか」
カエラムが歩き出すと、コルネリアも軽やかな足取りでその隣へと並んだ。
真夏の強い日差しに照らされるユーズヴェンドの通りを、二人は穏やかな笑みを交わしながら、さらに奥へと進んでいくのだった。




