151 果樹の苗を植えたいと思いましてご相談に伺いましたの
空を覆う雲一つない、強烈な日差しが降り注ぐ盛夏。
カエラムとコルネリアは、お出かけ用の風通しの良い衣服に身を包み、ファノーネの背に揺られて森を抜けた。
生い茂る木々の緑はこれ以上ないほどに色濃く、草いきれと強烈な生命の匂いが大気を満たしている。
夏の熱気を帯びた風を切り裂くように駆け抜け、活気に満ちた街――ユーズヴェンドへと到着する。
太陽が高く昇る中、二人は日陰のある風通しの良い馬留めにファノーネを預けた。
長旅を労うように彼の栗色の首筋を優しく撫で、たっぷりの冷たい水と良質な牧草を用意してから、賑わう大通りへと歩み出した。
行き交う人々の活気と、夏特有の解放感に満ちた空気が、二人の休日の気分をより一層盛り上げてくれる。
強い日差しを避けるように路地裏へと入り、馴染みの食堂――野うさぎの台所の重厚な木の扉を押し開ける。
「いらっしゃい……おや、カエラム先生にコルネリアのお嬢さんじゃないか! こんな暑い日によく来てくれたね」
厨房の奥から顔を出した店主のヨーリフと、その横で柔らかな笑みを浮かべる妻のエンリが、いつものように温かく二人を迎え入れた。
「こんにちは。街の熱気で少し身体が火照ってしまいまして。何か、涼を取れるお料理をいただきたいと思い、真っ先にこちらへ足を運びました」
カエラムが穏やかに告げると、ヨーリフは腕まくりをして、自信たっぷりに胸を張った。
「任せておきな。暑い夏を乗り切るための、とびきりの料理を出してやるからな! 少し待ってな」
――やがて二人の前に運ばれてきたのは、涼やかな硝子の器に盛られた、色鮮やかな夏野菜がたっぷり乗った茹で豚のゴマ豆乳うどんだった。
氷水でしっかりと冷たく締められた艶やかなうどんの上に、千切りにされた大葉や瑞々しいきゅうり、そして鮮やかな赤いトマトといった夏野菜が美しく盛り付けられ、じっくりと火を通された柔らかな茹で豚が贅沢に添えられている。
そこへ、すり潰した白ゴマと濃厚な豆乳を合わせた冷たいつゆがたっぷりと注がれていた。
箸を使ってうどんをすくい上げ、口へと運ぶ。
冷たくコシの強いうどんに、濃厚でありながらも決して重たくないゴマ豆乳のまろやかなつゆが完璧に絡みついた。
そこへ、豚肉特有の深い旨味と、夏野菜の瑞々しい食感が加わり、火照った身体の隅々にまで涼やかな活力が染み渡っていく。
「……素晴らしい美味しさです。ゴマの香ばしさと豆乳のコクが、これほどまでにうどんと調和するとは。茹で豚も驚くほど柔らかく、さっぱりとしていて全く胃に負担がかかりません」
「本当ですわ。冷たいおつゆとお野菜が、身体の中から熱を優しく奪ってくれます。いくらでも食べられてしまいそうです」
二人は顔を見合わせて微笑み合い、夏の暑さを吹き飛ばす絶品の冷やしうどんをすっかりと平らげた。
腹ごしらえを終えて体力を完全に回復させた二人は、次なる目的地である種苗商――エルマーの店へと向かった。
古びた看板の掛かる扉を開けると、そこはむせ返るような植物の青々しい匂いと、土の深い香りに満ちていた。
「よく来たな、森の開拓者たちよ! 今日の太陽は一段と猛威を振るっているが、あなたたちの菜園の戦士たちは無事に打ち勝っているか!?」
カウンターの奥から、相変わらず植物への狂信的な愛情をガーネットの瞳にたぎらせた店主のエルマーが、熱烈な出迎えをしてくれた。
「こんにちは、エルマーさん。いただいたお野菜たちは、毎日驚くような成長を見せてくれていますわ。今日は、菜園の少し空いた空間に、果樹の苗を植えたいと思いましてご相談に伺いましたの。異なる種類のものを、一本ずつ複数植えたいと考えております」
コルネリアが用件を伝えると、エルマーの表情が瞬時にして劇的なものへと変わった。
「果樹、だと……!? 異なる種類を一本ずつ、複数植えたいと言うのだな。ついにあなたがたも、何年先もの未来を見据えた大いなる命の育成に足を踏み入れる覚悟を決めたというわけか!」
エルマーはカウンターに身を乗り出し、大観衆を前に演説をするかのような熱量で語り始めた。
「果樹は、数ヶ月で結果を出す野菜とは全く違う。大地に深く、力強く根を張らせるための巨大な穴掘りと、数年先の栄養を見据えた徹底的な土壌作りが不可欠だ。そして何より、花を咲かせ、最初の果実をその手にするまでに、早くても三年、長ければ五年の途方もない忍耐と愛情が試されるのだぞ!」
その圧倒的な熱意に、カエラムは静かに頷き、コルネリアも真剣な眼差しで彼の説明に聞き入る。
「ええ、その忍耐の時間は覚悟の上です。今回はこの夏の時期に植え付けができるものを買いますが、私たちはこれからも、他の季節にまた別の果樹を少しずつ植えていきたいと考えておりますの。他の季節に植えられる果樹のことについても、教えていただけますか?」
コルネリアがペリドットの瞳を輝かせて尋ねると、エルマーは天を仰ぎ、両腕を大きく広げて歓喜の声を震わせた。
「なんと……! 四季の巡りとともに、森の中に果樹園を創り上げる気か! 素晴らしい、実に素晴らしい大いなる覚悟だ! 私の持つすべての知識を授けようではないか!」
エルマーは店の奥から様々な手記や図解を持ち出し、熱弁を振るい始めた。
「秋が深まる頃に植え付けるのは、あの真っ赤な情熱の果実、りんごや、秋の味覚の王である栗だ。これらは冷え込みの中で静かに根を伸ばし、春を待つ。そして冬の厳しい休眠期にこそ植えるべき果樹もある。落葉し、命の活動を止めている間に大地へ還し、春の目覚めとともに爆発的な成長を促すのだ!」
季節ごとに適した果樹の知識、土作りの秘訣、そして病害虫から木を守るための剪定の重要性。
エルマーの熱烈な果樹講座は留まることを知らず、二人は彼の持つ植物への深い愛情と膨大な知識に感銘を受けながら、貴重な教えを余すところなく心に刻み込んでいった。
エルマーの熱烈な指導に深く感謝し、二人はこの夏の時期に植え付けが可能な、柑橘類をはじめとする数種類の果樹の苗を購入した。
繊細な苗を炎天下の街中に持ち歩くのは避けるため、帰る時までエルマーの店で大切に預かってもらう手はずを整える。
「必ず立派に育ててみせます。エルマーさん、たくさんの教えをありがとうございました」
「うむ! 数年後、初めての果実が実った暁には、必ず私に報告に来るのだぞ!」
店を後にした二人は、夏の熱気が立ち込める路地裏を並んで歩き出した。
何年か先の未来、自分たちの手で植えた小さな苗が大きく成長し、豊かな果実を実らせる光景。
それを愛する人と共に収穫する幸福な日々を想像し、コルネリアの胸は期待で大きく高鳴っていた。
「さて、苗の準備も万端です。ファノーネを迎えに行くまで、まだ時間はたっぷりとありますね。ネリー、街の探索へ行きましょうか」
カエラムがそっと右手を差し出すと、コルネリアは満面の笑みを咲かせてその手を取った。
「はいっ! 冷たい甘味も探してみたいですわ」
盛夏の活気に満ちたユーズヴェンドの大通りへ向けて、二人の胸躍る休日の時間は、まだまだ鮮やかに続いていくのだった。




